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2、フリッツ

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 ウォーン!!と狼の鳴き声がする。おばあちゃん狼が出るから夜は出歩いちゃダメってよく言ってたな。それよりお腹空いたわ。

 気がついた時はエリーは元の住んでいた小屋の床にうつ伏せで眠っていた。上体を起こし窓を見てみるともうすっかり日が暮れていた。

「あれは一体何だったんだろう?それよりおばあちゃんはどこ?」と辺りを見渡してもおばあちゃんは居なかった。

「変ねぇ、いつもはその辺りに居るのに?あれば夢だった?」と思ったが次の瞬間エリーの目に映った物が現実だと告げていた。

 あの男の人がエリーの目の前で床にうつ伏せで眠っていたのだった。そして男の人から1メートル離れた所にあの水晶玉が転がっていた。

「起こした方が良いのかしら?」と呟いてみた。教会の時は余裕が無くて分からなかったがじっくりと見てみるとなかなかの美丈夫だ。
着ている身なりも仕立てが良く、田舎娘のエリーでも上等な物だとわかる。

 流れるような金髪に筋の通った鼻。体格も良さそう。

 思わずその目が開いたらどんな目が見られるのかしら?と思い近づき過ぎてしまった。

「カタッ。」と音がするとパチッと目を開けた。まぁ大きな目。と思うほど目がみ開かれた。惚れぼれするような美しいアメジストの様な瞳だった。


 それは一瞬だった。男が何かを呟くとエリーの体がで拘束されたのだ。

 エリーが思わず「放してよ!」と叫ぶと、「まず僕の質問に答えて貰おう。ここはどこだ。」と体を起こしながら冷静に聞いて来た。

「ここは私の家よ。でもどうして貴方が居るの?」と逆に質問した。「私にだってわかるか!」とややキレ気味に返された。

「それよりこれを解いて。そしてそこに転がっている玉を持ってサッサと帰って。」とその男に言うと男は急いで水晶玉を手に取った。

 男は水晶玉を手に取ると水晶玉をじっと見つめていた。

 男が「パチンッ」と指を鳴らすとエリーの拘束が解かれた。そしてエリーの方に目線を向けると

「おい女!もう一度これを触ってみろ。」と言いながらエリーの手を掴んだ。

 エリーはパシッとその手を払うと「失礼ね!どうしてアンタの言う事聞かないといけないの?いい加減にして。」とそっぽを向いた。

「さっさと帰ってよ!」ともう一度言い放つとエリーとその男の足元に魔法陣が浮かんだ。
「えっ!、えっ!」とニヤリと笑うその男を見た瞬間小屋からエリーとその男の姿が消えてなくなっていた。



◇◇◇◇◇◇



 ふわぁとした体の感覚と共に重力を感じた。

 ドスン!と落ちる様な衝撃の後自分が絨毯の上に居る事に気が付いた。

「えっ。」と周りを見てもここがどこだか分からない。

「ここはどこなの?」と呟くと後ろから
「私の屋敷だ。今日はもう遅かったのでな。こちらへ招待させて貰った。」と声がしたので振り向くと先ほどの男がいた。

「改めて自己紹介と行こうか。私の名前はフリッツ・シュバルツだ。君の名は。」

「ーーーエリー。ただのエリーよ。それより元の場所へ返して下さらない?私ここには居たくないんだけど。」とフリッツを睨み付けて話した。

「ったく、気の強いお嬢さんだ。きちんと鑑定をさせてくれたら明日にでも返すよ。」と悪びれもせず肩をすくめてそう言った。

「鑑定って何よ?」と聞くと
「君は何も知らずにあそこにいたのか?」とびっくりしていた。
「だって、おばあちゃん何も言ってくれなかったの。」と何度も聞いたのに。と俯くとポツリと話した。

「エリーだったか?我が国の法律で魔法使いを保護する事になっているのは知ってるのか?」

「いや、知らない。私ずっと森の中でおばあちゃんと暮らしていたから。」とボソッと話した。

「あの日はいきなり連れて行かれた。私は何度も何度もどこに何をしに行くか聞いてたのに。」とその時の事を思い出し不安な気持ちになった。

「気がついたらおばあちゃん居なくなってたし、勝手に家には帰ってたし、そして貴方と水晶があった。もう訳わかんない。」と話すが目に涙が浮かんできた。

「・・・悪かったな。勝手に連れて来て。」とフリッツがエリーに向かって謝ってくれた。

「腹減ってないか?ところで飯にしないか?」と提案してくれた。

 グゥ。とエリーのお腹から可愛い音がした。
フリッツはふっと笑うと
「君はお腹の方が正直だな。」と言うと
「こちらへ。」とエリーを促す食堂へ連れて行った。

「急だったんで簡単な物ばかりだが腹に溜まるとは思う。まあ、かけて。」と席を促すと自分も向かい側へかけた。

「いただきます。」とエリーは手を合わせると食べ始めた。フリッツも負けずと食べている。

しばらく食べ進んだ時にフリッツが急に
「君、ずっと森で住んでたって言ってたな?」と話し始めた。

「ええ、そうよ。物心ついた時からずっとよ。どうして?」

「と言う事はそのおばあちゃんしか知らなかったのか?」

「そうではないわ。おばあちゃんは薬師だったから、街に売りに行ってたのは私の仕事だったの。」と話した。

「おばあちゃんって言うけど名前は?」と聞いて来た。

「どうしてよ?関係ないでしょ?」

「いや、君の所作がきれいだと思ってね。いや、そんな目で睨むな。」

「そんな事分かるわけないでしょ?でもおばあちゃんはあまり自分の名前を言うのは聞いた事が無いわ。んー、確か。アレクサンドラ。そんな名前だったと思う。一度だけおばあちゃんに手紙が来てて、そう書いてあったから。」

と話すとフリッツの目が大きく見開かれた。
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