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3、アレクサンドラ

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「アレクサンドラだって!!」と急に大きな声で話すフリッツ。

「ええ、どうしたの?」訳が分からない表情のエリー。

「そうか君は知らないんだな。アレクサンドラとはかつてはこの国最強の魔術師の名前だ。」

「えっ!」

「先の大戦から行方が消えてたがそんな所に居たとはね。通りで分からないはずだ。僕の魔法探知にもかからないほどの力だ。認識阻害も相当な腕前だったと聞く。」と少し考え込む仕草を見せた。

「あの・・・。」とエリーがフリッツに話しかけた。

「へっ、どうした?」

「これからその鑑定って受けられるの?私早く帰りたい。もしかしたらおばあちゃん帰ってるかも知れないもの。」とフリッツを見ながら話した。

「分かったよ。食事が終わったら鑑定をするよ。まぁ、飯ぐらいゆっくり食べようぜ。なっ。」とフリッツは人懐こい笑みを浮かべた。

 食器を下げられた後、フリッツが再び水晶玉を手に取るとエリーの前へ置いた。

「エリー、落ち着いてこの水晶玉に手を置いてみて。」と話すとエリーは深呼吸して水晶玉に手を置いた。その瞬間。

「うわっ!!」と叫ぶフリッツ。

 七色に光り輝く水晶玉。眩しい。目が開けられない。

「エリー手を放して!!」とフリッツが叫ぶとエリーは水晶玉から手を離した。

 途端に消えた光。

「凄まじい魔力だね。これたぶんアレクサンドラ分かってたんじゃ無い?」とエリーに向いて話した。

「えっ、おばあちゃんが?」
「うん、僕が産まれる前の話だからあまり信憑性が無いかもだけど、アレクサンドラは七色の光を持ってたと言われてたはずだ。」

「でも、でも私には分からない。それに分かったんだったら帰りたいんだけど。」と縋る様にフリッツに話した。

「うーん。。。難しいな。僕の仕事は魔術師の保護だからね。」

「・・・うぅ、ぐすっ。」と、とうとうエリーは泣き出してしまった。泣き始めたエリーを慰めようとフリッツがエリーの方へ手を伸ばした瞬間

「フッ。」と彼女の姿が綺麗さっぱり無くなってしまった。

 だだっ広い食堂で「なっ、何で?この屋敷全部、僕の結界張ってたんだけど?」と困惑するフリッツの姿があった。



◇◇◇◇◇◇



「あっ。」
気がつけばエリーは元の小屋へ戻っていた。

「あぁ、戻れたんだ。良かった。」と思わず呟くと薄暗がりの部屋の中でピカピカと点滅する一冊の本があった。

「これ?何だろ?こんな本ここにあったのかしら?」と手に取るとひらりと1枚の手紙が出て来た。

エリーがその手紙を開いてみるとおばあちゃんの字で手紙が書いてあった。


「エリーへ。

この手紙を見ているって事は、もう私はこの世に居ないよ。

私の名前はアレクサンドラ。かつてはこの国の魔術師団の最高顧問だった女さ。

エリーは産まれてなかったから分からないかと思うけど、先の100年前の大戦で自分の力の限界を感じあの森へ篭った。

そしてこの小屋の下に自分の魔力を溜め込む結晶を作り自分の魔力の殆どをその中に蓄え今まで生きてきた。

もう魔術師に戻るつもりさらさら無く、このまま何事もなかったかの様に朽ち果てようと思って生きてきた。

そんな自分にたった一度だけイレギュラーな事が起こった。
それがエリーお前だよ。私が初めてお前を見た時は歓喜したね。巡り会えた。この子なら私の魔力を継げると。それぐらいお前の魔力回路は優秀だ。

お前と一緒に暮らしながら私は毎日少しずつエネルギーをお前に渡して行った。

そして今日最後のエネルギーを渡し終わった。

そう、私はあの鑑定の儀式の時にお前を国に渡して、最後の残りの力を振り絞り、兼ねてから用意しておいた死に場所へ転移した。

これでやっと楽になれる。だからエリー絶対に悲しまないで欲しい。

エリー、お前と生きた時間は私にとって人生唯一の宝物さ。必ず幸せになるんだよ。

私の持っていた七色の光はそのまま7つの力に結び付いている。

今はただ感情の動きに合わせてしか発動しないだろう。この国の王都に魔術師を養成する学校がある。そこの学園長のマリー・ビショップは私の連れだ。

先の魔力回路の話もコイツに聞くと良い。この件では話を通してありお前の授業料はすでに払い込んである。

この世界には魔法と言う素晴らしい力がある。

彼女からぜひ魔法を学びな。これが私からの最後のプレゼントさ。

そして自分のルーツが知りたくなった時は自然に道が開ける様にしておいた。お前は決して下賎な人間ではない。誇りを持ち自信をもって生きるが良い。


            アレクサンドラ 」


ーーーーっおばあちゃん!!

どうして言ってくれなかったの?

どうして??お別れを、ぜひお別れを言いたかった。ありがとうって伝えたかった。

そして「大好きだよ。」って私は言えてない。

エリーは流れる涙を拭くことも忘れて、ずっとずっと一晩中泣き続けた。

次の日の朝方「やっぱりここか。」と言いながら、泣き疲れて眠り込むエリーの目元の涙の跡を拭き取り、その細く柔らかな体を抱き抱えて魔法陣へ連れ込むフリッツの姿があった。

その手にはアレクサンドラからの手紙がしっかりと握り締められていた。
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