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第6話 屋上
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最上階に着いた後、彼は足早にフロアの奥に歩いて行った。
私は急いでついて行った。
非常階段から屋上へと向かって行った。
屋上の扉を彼が開けると、陽がゆっくりと沈む瞬間だった。
彼はその後ゆっくりとフェンスのあたりに歩いて行った。そしてタバコに火をつけた。
まるで別人だ……。
任務中には見せなかった表情、仕草。
喫煙者だとは資料に書かれていなかった。
今までの彼はなんだったのだろう。
「なんでここにいる」
突然話しかけられて心臓が跳ねた。
「二度と近づくなと言ったはずだ」
鋭い視線に息を呑んだ。
「偶然です。私はあの仕事は辞めて、派遣会社から派遣されてここにいます」
タバコの煙が空に消えてゆく。
「なんであんな仕事してたんだ」
「それは……私みたいな女の人を助けるためです」
「……意味がわからない」
彼は不思議そうな顔をしている。
「私は、恋人と親友に裏切られて、それをきっかけにあの仕事を始めたんです」
彼のタバコを吸う手が止まった。
「そうか……。でもだからといって、他人の関係を壊すのはどうかと思う」
「私は、恋人を奪われた女の人からの依頼しか受けてません。でも、この前のは、どうしても気になったんです」
「何が?」
「あなたのことが……」
つい本当のことを言ってしまって、気まずい沈黙が流れた。
「……あの、それより、なんで私が最初から別れさせ屋の人間だと知ってたんですか?」
「彼女と事務所のやりとりをスマホで見てしまったんだよ」
依頼人のスマホ……
それはこちらでは防ぎようがない。
今回は運が悪かったんだ。
でも逆に、最初からバレていてよかった。
もう誰も傷つけたくない。
「そうだったんですね。彼女とはその後どうですか?」
「もう別れようと思ってるよ」
「え……?」
「陰でそんな事務所を使ってたんだ。戻れるわけがない」
この二人の関係は、私が接触する前から壊れていたんだ。
「そうなんですね……。でも、彼女は”愛を確かめたかった”わけであって、あなたとの関係を壊すつもりはなかったと思います」
「“愛を確かめる”……?」
あ……。
守秘義務があるのに完全に油断していた。
まずい。
「すみません、今言ったことは忘れてください。私はあなたに迷惑かけません。不快なら派遣会社の方に連絡して別の仕事を受けます」
一緒にいるとお互いにとってよくない。
こんな偶然が起こるとは思わなかった。
でも──
また会えてよかったって思ってしまった。
だからもうこれで終わりだ。
「では私は帰ります」
「待て」
足がすくんだ。
「君の事情はわかった。今回が偶然なら別に辞める必要はない。あくまで仕事仲間として接すればいい」
「はい……あなたがそれでよければ……」
彼は階段に向かって歩きだした。
私の横を通り過ぎる瞬間、肩をポンと叩いた。
「よろしく、春日さん」
そして行ってしまった。
胸が暖かくなって鼓動が早くなる。
あの時の彼とは全くの別人。
だけど、それでも私は惹かれてしまっている。
あの人には彼女がいる。
だから、この気持ちは絶対に秘密にしないといけない。
私は固く自分に誓った。
私は急いでついて行った。
非常階段から屋上へと向かって行った。
屋上の扉を彼が開けると、陽がゆっくりと沈む瞬間だった。
彼はその後ゆっくりとフェンスのあたりに歩いて行った。そしてタバコに火をつけた。
まるで別人だ……。
任務中には見せなかった表情、仕草。
喫煙者だとは資料に書かれていなかった。
今までの彼はなんだったのだろう。
「なんでここにいる」
突然話しかけられて心臓が跳ねた。
「二度と近づくなと言ったはずだ」
鋭い視線に息を呑んだ。
「偶然です。私はあの仕事は辞めて、派遣会社から派遣されてここにいます」
タバコの煙が空に消えてゆく。
「なんであんな仕事してたんだ」
「それは……私みたいな女の人を助けるためです」
「……意味がわからない」
彼は不思議そうな顔をしている。
「私は、恋人と親友に裏切られて、それをきっかけにあの仕事を始めたんです」
彼のタバコを吸う手が止まった。
「そうか……。でもだからといって、他人の関係を壊すのはどうかと思う」
「私は、恋人を奪われた女の人からの依頼しか受けてません。でも、この前のは、どうしても気になったんです」
「何が?」
「あなたのことが……」
つい本当のことを言ってしまって、気まずい沈黙が流れた。
「……あの、それより、なんで私が最初から別れさせ屋の人間だと知ってたんですか?」
「彼女と事務所のやりとりをスマホで見てしまったんだよ」
依頼人のスマホ……
それはこちらでは防ぎようがない。
今回は運が悪かったんだ。
でも逆に、最初からバレていてよかった。
もう誰も傷つけたくない。
「そうだったんですね。彼女とはその後どうですか?」
「もう別れようと思ってるよ」
「え……?」
「陰でそんな事務所を使ってたんだ。戻れるわけがない」
この二人の関係は、私が接触する前から壊れていたんだ。
「そうなんですね……。でも、彼女は”愛を確かめたかった”わけであって、あなたとの関係を壊すつもりはなかったと思います」
「“愛を確かめる”……?」
あ……。
守秘義務があるのに完全に油断していた。
まずい。
「すみません、今言ったことは忘れてください。私はあなたに迷惑かけません。不快なら派遣会社の方に連絡して別の仕事を受けます」
一緒にいるとお互いにとってよくない。
こんな偶然が起こるとは思わなかった。
でも──
また会えてよかったって思ってしまった。
だからもうこれで終わりだ。
「では私は帰ります」
「待て」
足がすくんだ。
「君の事情はわかった。今回が偶然なら別に辞める必要はない。あくまで仕事仲間として接すればいい」
「はい……あなたがそれでよければ……」
彼は階段に向かって歩きだした。
私の横を通り過ぎる瞬間、肩をポンと叩いた。
「よろしく、春日さん」
そして行ってしまった。
胸が暖かくなって鼓動が早くなる。
あの時の彼とは全くの別人。
だけど、それでも私は惹かれてしまっている。
あの人には彼女がいる。
だから、この気持ちは絶対に秘密にしないといけない。
私は固く自分に誓った。
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