あなた専属になります─番外編集─

七転び八起き

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優美という女

優美という女1

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私の実家は建設業を営んでいた。

小さい頃から、父は誇らしい存在だった。

「お父さんは街を作る人なんだよ」

母がそう教えてくれた通り、父の建てた家や店が街のあちこちにあった。

でも中学生になった頃から、父の表情が暗くなることが増えた。
会社の経営が苦しいらしく、夕飯の時の父の愚痴を、私はぼんやり聞いていた。

高校に入ると、私はコンビニでバイトを始めた。
家計の足しになればと思ったけど、実際は自分の携帯代や交通費で消えていった。
同級生が恋バナで盛り上がる中、私はシフトの心配ばかりしていた。

父の会社が潰れたのは、私が大学二年の時だった。
それでも父は、一緒に働いてくれていた職人さんたちの給料だけは最後まで払った。

「俺が雇った以上、最後まで責任を取る」

そう言って、家も土地も全部担保に入れて借金をした。

「優美に迷惑をかけて、本当にすまない」

父の目元が潤んでいた。
父が泣いているのを初めて見た。

それからは、本格的にバイトの日々が始まった。
昼は大学、夜はファミレス、土日はイベントスタッフ。
友達と遊ぶ時間なんてなかった。
恋愛なんてもってのほかだ。

「優美ちゃん、彼氏とかいないの?」

バイト先でよく聞かれたが、いつも苦笑いでごまかした。
恋愛なんて、私には縁のない世界の話だった。

大学を卒業して、やっと正社員になれた時、ほっとした。
これで少しずつでも借金を返していける。
父と母を安心させてあげられる。
そう思った。

でも現実は甘くなかった――

正社員になったものの、世界的な景気の落ち込みで、業績が伸び悩み、賞与は見送りになった。
手取りは思った以上に少なく、家賃や光熱費、交通費を払うと、ほとんど残らない。

「返済に回せるのは、これだけ……」

通帳の数字を見つめながら、胸が苦しくなった。
頑張っているのに、元本はほとんど減っていかない。
同僚たちが「旅行行こう」「次はどこで飲む?」と楽しそうに話しているのを横目に、
私は一人、帰りの電車でどうやって節約するかを考えていた。

食費を削れば少しは返済に回せる。
でも無理をして体を壊したら、働くことさえできなくなる。

どうしたらいいのかわからなくなって、夜ベッドに潜り込むと涙が出てきた。
正社員になれば、少しは楽になれると思っていたのに。

「……副業、探すしかないのかな」

* * *

仕事帰り、夜の街をとぼとぼ歩いていると、スーツ姿の男性が声をかけてきた。

「こんばんは。お疲れですか?」

「え……?」

突然の声に立ち止まると、彼はにこやかに名刺を差し出してきた。

「学生さん?それとも社会人? ――短時間で稼げるお仕事、興味ない?」

怪しい。絶対に怪しい。
私は慌てて首を振った。

「すみません、そういうのは……」

「いやいや、危ない仕事じゃないよ。普通にお客さんと話すだけ。未経験でも大丈夫だし、勤務は夜だけ。君みたいに真面目そうな子に向いてる」

軽い口調でそう言われ、余計に怪しく思えた。
でも、渡された名刺を断りきれずに受け取ってしまった。

「よかったら連絡してみて」

そう言って彼は人混みに消えていった。

手元の名刺を見つめる。
白い紙に印刷された店名が浮かんでいる。

――絶対、関わらない方がいい。

そう思いながらも、名刺を捨てられなかった。
通帳に並ぶ冷たい数字が、私の手を止めていた。
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