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第60話
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──羽田空港 朝7時45分
勇輝さんと待ち合わせをしている搭乗口の近くで立っているとスマホに通知がきた。
『今日は気をつけて行ってきてください』
勇凛くんからだ。
『ありがとう。頑張ってくるね』
返信をした。
「おはよう」
低く響く声。
──この声は……
見上げると、勇輝さん……と、スーツを着た知らない男性が二人。
「……おはようございます。あの、そちらの方々は……?」
「前の秘書だ」
「は?」
どういうこと?
「秘書課の人は別の部署に配属されたのでは……?」
「今日は大事な会議だ。何かあった時のために同行させている」
私がいる必要はあるの……?
──いや、私がいる必要なんてない。
ただ私を見極めようとしているだけだ。
ボロをだすのを待っているのかもしれない。
絶対に油断してはいけない。
「……わかりました」
搭乗開始のアナウンスが流れ、人の流れが動き出す。
「じゃあ先に入る」
三人は先に搭乗の列の中に入っていった。
勇輝さんのあとを追って私も搭乗した。
勇輝さんたちはビジネスクラス。
私はエコノミークラス。
荷物を上の棚に入れ、座席に座って現地に着くまでに今日の資料を確認しようとした時──
ない。
バッグの中のどこにも。
昨日持ち帰ったはず……。
全身から血の気が引いた気がした。
どうしよう……今日の会議の資料を忘れて来るなんて。
呆れられて、勇凛くんの妻どころか、社会人としてもダメだ。
頭を抱えて絶望に打ちひしがれていた。
その時、隣の席に他の搭乗客が座った。
私は姿勢を正して、表情を隠していた。
すると、目の前に白い紙が。
それは──私が今日持ってくるのを忘れた資料だった。
「え!なんで!?」
「だって忘れてたから」
・・・。
隣に座った人を見た。
帽子を深々と被ってサングラスをしている。
でも風貌からわかる。
「勇哉さん、本当に来たんですね……」
「だってこれないと七海ちゃんやばいでしょ色々。助けに来たんだよ」
と、真剣な顔で言っているけど全くそう思えない。
何もなくてもこの人はおそらく来た。
でも──
「ありがとうございます」
これがなかったら本当にピンチだった。
ただのお荷物だった。
情けなくて泣きたくなったのを必死にこらえた。
この人にこれ以上弱みを見せてはいけない。
「七海ちゃん、お礼にさ。仕事終わったらご飯食べに行こうよ」
「取引先の方々と会食があるんです」
持ってきてくれたのはありがたいが、これ以上踏み込ませてはいけない。
「じゃあ、それが終わったらホテルのバーで飲もうよ」
「すみません。終わったらすぐ休みたいんです」
それから何も言葉が返ってこない。
さすがに目的は違ったとしても資料を持ってきてくれたのに、邪険にするのもだんだんと気が引けて来た。
「あの……。今度、改めて別の形でお礼をさせてください」
勇凛くんも一緒に。
返事は返ってこない。
よーく見てみると。
寝ていた。
マイペースすぎる。
勇輝さんと待ち合わせをしている搭乗口の近くで立っているとスマホに通知がきた。
『今日は気をつけて行ってきてください』
勇凛くんからだ。
『ありがとう。頑張ってくるね』
返信をした。
「おはよう」
低く響く声。
──この声は……
見上げると、勇輝さん……と、スーツを着た知らない男性が二人。
「……おはようございます。あの、そちらの方々は……?」
「前の秘書だ」
「は?」
どういうこと?
「秘書課の人は別の部署に配属されたのでは……?」
「今日は大事な会議だ。何かあった時のために同行させている」
私がいる必要はあるの……?
──いや、私がいる必要なんてない。
ただ私を見極めようとしているだけだ。
ボロをだすのを待っているのかもしれない。
絶対に油断してはいけない。
「……わかりました」
搭乗開始のアナウンスが流れ、人の流れが動き出す。
「じゃあ先に入る」
三人は先に搭乗の列の中に入っていった。
勇輝さんのあとを追って私も搭乗した。
勇輝さんたちはビジネスクラス。
私はエコノミークラス。
荷物を上の棚に入れ、座席に座って現地に着くまでに今日の資料を確認しようとした時──
ない。
バッグの中のどこにも。
昨日持ち帰ったはず……。
全身から血の気が引いた気がした。
どうしよう……今日の会議の資料を忘れて来るなんて。
呆れられて、勇凛くんの妻どころか、社会人としてもダメだ。
頭を抱えて絶望に打ちひしがれていた。
その時、隣の席に他の搭乗客が座った。
私は姿勢を正して、表情を隠していた。
すると、目の前に白い紙が。
それは──私が今日持ってくるのを忘れた資料だった。
「え!なんで!?」
「だって忘れてたから」
・・・。
隣に座った人を見た。
帽子を深々と被ってサングラスをしている。
でも風貌からわかる。
「勇哉さん、本当に来たんですね……」
「だってこれないと七海ちゃんやばいでしょ色々。助けに来たんだよ」
と、真剣な顔で言っているけど全くそう思えない。
何もなくてもこの人はおそらく来た。
でも──
「ありがとうございます」
これがなかったら本当にピンチだった。
ただのお荷物だった。
情けなくて泣きたくなったのを必死にこらえた。
この人にこれ以上弱みを見せてはいけない。
「七海ちゃん、お礼にさ。仕事終わったらご飯食べに行こうよ」
「取引先の方々と会食があるんです」
持ってきてくれたのはありがたいが、これ以上踏み込ませてはいけない。
「じゃあ、それが終わったらホテルのバーで飲もうよ」
「すみません。終わったらすぐ休みたいんです」
それから何も言葉が返ってこない。
さすがに目的は違ったとしても資料を持ってきてくれたのに、邪険にするのもだんだんと気が引けて来た。
「あの……。今度、改めて別の形でお礼をさせてください」
勇凛くんも一緒に。
返事は返ってこない。
よーく見てみると。
寝ていた。
マイペースすぎる。
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