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番外編
そんな気持ちはいらない5
──翌日
熱は下がったものの咳が出てくる。
気怠さは相変わらず。
適当な薬を飲む。
「じゃあ行ってくる」
妻に言うと、心配そうな表情を浮かべている。
「無理しないでくださいね」
俺が陰で何をしているかも知らず、俺の言う事を全て信じ、献身的に支えようとしている。
「大丈夫だ」
家庭を守る。
それも大事な仕事の一つだ。
◇
出社して、秘書課で待つ。
会議資料を渡すために。
扉が開くと彼女と目が合った。
「おはようございます」
心なしか俺に対する表情が前と変わった。
なんだ?
「今日は取引先で会議だから同行するように」
資料を渡した。
「あの……大丈夫なんですか?」
「何が?」
振り返ると、彼女の目は真剣だった。
「体調について、です。私も無理をして倒れたことがあるので……」
勇凛との関係を否定した俺をなぜ気にかける。
「……そうか。私はただの風邪だ。問題ない」
部屋から出た後、自分の行動に矛盾が生じていることに今更気がつく。
感情を捨てられなかった。
だからあの女の言葉や行動に動揺する。
根本的な部分は変われていない。
──その時わかった。
未熟な勇凛を必死に守ろうとする、あの女に惹かれているのかもしれないと。
◇
──週末
父から突然連絡がきた。
こっちに来ると。
父とは極力顔を合わせたくない。
別に何かを押し付けられた訳でもない。
ただ、その危機感の無さに苛立つからだ。
俺がどんな思いをしてここまでやってきたかわかってるのか?
海外でのうのうとして、気まぐれに様子を見にきて、そしてすぐに帰る。
でも個人的な感情を仕事に持ち込むべきでない。
割り切るしかない。
そう思って月曜日を迎えた。
◇
──月曜
父が出社してきた。
社長室で顔を合わせる。
「勇輝、最近どうだ?」
緊張感のかけらもない男。
「順調です」
「そうか。勇輝は凄いな。私よりよっぽど」
そんな賛辞など不要。
すぐに会議のための準備をした。
◇
会社の重役が集まる。
「では定時になりましたので始めます」
そう告げて、淡々と今の会社の状況を伝える。
父は頷くだけ。
それでいい。
自分がやった失態を俺がここまで回復させて、口を挟むなど誰も望んでいない。
そして会議はすぐに済み、社員が散る。
残ったのは、俺と勇哉と彼女。
彼女が抜けようとすると
「待ちなさい」
父が引き留めた。
「君が勇凛と結婚した七海さんかな?」
何を言うつもりだ。
「勇凛が結婚したって聞いて驚いたが、しっかりしてそうな人だ。また今度ゆっくり話そう」
落胆した。
俺があの時手放さなければ、俺もここに辿り着けたかもしれない。
ただただ悔しかった。
熱は下がったものの咳が出てくる。
気怠さは相変わらず。
適当な薬を飲む。
「じゃあ行ってくる」
妻に言うと、心配そうな表情を浮かべている。
「無理しないでくださいね」
俺が陰で何をしているかも知らず、俺の言う事を全て信じ、献身的に支えようとしている。
「大丈夫だ」
家庭を守る。
それも大事な仕事の一つだ。
◇
出社して、秘書課で待つ。
会議資料を渡すために。
扉が開くと彼女と目が合った。
「おはようございます」
心なしか俺に対する表情が前と変わった。
なんだ?
「今日は取引先で会議だから同行するように」
資料を渡した。
「あの……大丈夫なんですか?」
「何が?」
振り返ると、彼女の目は真剣だった。
「体調について、です。私も無理をして倒れたことがあるので……」
勇凛との関係を否定した俺をなぜ気にかける。
「……そうか。私はただの風邪だ。問題ない」
部屋から出た後、自分の行動に矛盾が生じていることに今更気がつく。
感情を捨てられなかった。
だからあの女の言葉や行動に動揺する。
根本的な部分は変われていない。
──その時わかった。
未熟な勇凛を必死に守ろうとする、あの女に惹かれているのかもしれないと。
◇
──週末
父から突然連絡がきた。
こっちに来ると。
父とは極力顔を合わせたくない。
別に何かを押し付けられた訳でもない。
ただ、その危機感の無さに苛立つからだ。
俺がどんな思いをしてここまでやってきたかわかってるのか?
海外でのうのうとして、気まぐれに様子を見にきて、そしてすぐに帰る。
でも個人的な感情を仕事に持ち込むべきでない。
割り切るしかない。
そう思って月曜日を迎えた。
◇
──月曜
父が出社してきた。
社長室で顔を合わせる。
「勇輝、最近どうだ?」
緊張感のかけらもない男。
「順調です」
「そうか。勇輝は凄いな。私よりよっぽど」
そんな賛辞など不要。
すぐに会議のための準備をした。
◇
会社の重役が集まる。
「では定時になりましたので始めます」
そう告げて、淡々と今の会社の状況を伝える。
父は頷くだけ。
それでいい。
自分がやった失態を俺がここまで回復させて、口を挟むなど誰も望んでいない。
そして会議はすぐに済み、社員が散る。
残ったのは、俺と勇哉と彼女。
彼女が抜けようとすると
「待ちなさい」
父が引き留めた。
「君が勇凛と結婚した七海さんかな?」
何を言うつもりだ。
「勇凛が結婚したって聞いて驚いたが、しっかりしてそうな人だ。また今度ゆっくり話そう」
落胆した。
俺があの時手放さなければ、俺もここに辿り着けたかもしれない。
ただただ悔しかった。
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