取引先のエリート社員は憧れの小説家だった

七転び八起き

文字の大きさ
33 / 33

番外編 小説家になったワケ

しおりを挟む
 俺は思ったことをあまり言わない性格だった。
 言えない性格だった。

 だからか、気が強いやつに言いたい放題言われていた。
 それでも言い返したりはしなかった。
 思ったことはノートに書き綴っていた。

 そして、いつの間にか日記を書くようになっていた。
 日記がノートを埋め尽くすと新しいノートを買って、また毎日書いていく。
 そして、だんだんとノートが増えていった。

 ある日それを見返してみた。
 そこには、忘れていた記憶が綴られていた。
 まるで俺の物語だ。

 そんないい物語なんかじゃない。
 ただ、書いてみたくなった。

 物語を。

 俺みたいな主人公が俺みたいな生活をして、嫌なやつに理不尽に嫌がらせをうけて──

 そして、物語の俺の分身は、俺の言いたかったことを悪者に言った。
 そうしたら、悪者は怯えて逃げていった。
 そんなくだらない物語。

 でも俺はそれだけですっきりした。
 心の中は自由だ。
 俺はその後もまた物語を書いた。

 仲良かったやつが転校した、好きだった子に彼氏がいた、卒業の時に担任が泣きながら言った言葉。

 色んな事が俺の物語の種になった。

 本格的にちゃんと小説を書こうと思ったのは大学生になった時だ。
 三年になって、就職を考えなくてはならない時期。
 試してみたかった。

 俺の綴ったストーリーが誰かに届くのかーー

 俺は、前に書いた恋愛小説をもう一度書き直した。
 そしてコンテストに応募した。

 ……想像はしていたが、何も受賞はしなかった。

 そのまま諦めて、就活を始めていた。
 就活は順調にいって、大手の企業に内定した。

 そんな時、自分の携帯に電話がかかってきた。
 見たことがない電話番号。
 出てみたら、応募したコンテストを主催した出版社からだった。

「これからも小説を書くなら、是非見せてほしい」

 嬉しかった。
 小説家としてデビューしたわけではない。
 ただ、俺の作品は人に届いた。響いた。

 俺は、仕事をしながらもまた書いてみた。
 担当は俺が書く恋愛小説をいたく気に入った。
 そして、俺は恋愛小説を書くようになった。

 俺は、とうとうコンテストで受賞した。
 プラトニックな純愛小説で。

 俺はそこで小説家一本でいくか悩んだ。
 でも、仕事も楽しかったしやりがいもあった。

 俺は、仕事をしながら小説を書く道を選んだ。
 それはかなり心身共に疲弊する生活にさせた。

 でも、小説を書かなくなった自分、今の仕事をしなくなった自分、どちらかを選ぶことなんかできなかった。

 しかも、小説だけで生きていける保証もない。
 サラリーマンの方が安定している。

 二足の草鞋を履いて歩く険しい道。

 ーーだから、俺は仕事をこなしながら、小説家になろうとするお前をずっと応援しているよ。

 きっとなれると思っているから。

 もしその日がきたら、ちゃんと一緒になろうと決めているから。

──fin
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

恋は襟を正してから-鬼上司の不器用な愛-

プリオネ
恋愛
 せっかくホワイト企業に転職したのに、配属先は「漆黒」と噂される第一営業所だった芦尾梨子。待ち受けていたのは、大勢の前で怒鳴りつけてくるような鬼上司、獄谷衿。だが梨子には、前職で培ったパワハラ耐性と、ある"処世術"があった。2つの武器を手に、梨子は彼の厳しい指導にもたくましく食らいついていった。  ある日、梨子は獄谷に叱責された直後に彼自身のミスに気付く。助け舟を出すも、まさかのダブルミスで恥の上塗りをさせてしまう。責任を感じる梨子だったが、獄谷は意外な反応を見せた。そしてそれを境に、彼の態度が柔らかくなり始める。その不器用すぎるアプローチに、梨子も次第に惹かれていくのであった──。  恋心を隠してるけど全部滲み出ちゃってる系鬼上司と、全部気付いてるけど部下として接する新入社員が織りなす、じれじれオフィスラブ。

俺を信じろ〜財閥俺様御曹司とのニューヨークでの熱い夜

ラヴ KAZU
恋愛
二年間付き合った恋人に振られた亜紀は傷心旅行でニューヨークへ旅立つ。 そこで東條ホールディングス社長東條理樹にはじめてを捧げてしまう。結婚を約束するも日本に戻ると連絡を貰えず、会社へ乗り込むも、 理樹は亜紀の父親の会社を倒産に追い込んだ東條財閥東條理三郎の息子だった。 しかも理樹には婚約者がいたのである。 全てを捧げた相手の真実を知り翻弄される亜紀。 二人は結婚出来るのであろうか。

恋とキスは背伸びして

葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員 成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長 年齢差 9歳 身長差 22㎝ 役職 雲泥の差 この違い、恋愛には大きな壁? そして同期の卓の存在 異性の親友は成立する? 数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの 二人の恋の物語

祖父の遺言で崖っぷちの私。クールな年下後輩と契約結婚したら、実は彼の方が私にぞっこんでした。

久遠翠
恋愛
広告代理店で働く仕事一筋のアラサー女子・葉月美桜。彼女の前に突きつけられたのは「三十歳までに結婚しなければ、実家の老舗和菓子屋は人手に渡る」という祖父の遺言だった。崖っぷちの美桜に手を差し伸べたのは、社内で『氷の王子』と噂されるクールな年下後輩・一条蓮。「僕と契約結婚しませんか?」――利害一致で始まった、期限付きの偽りの夫婦生活。しかし、同居するうちに見えてきた彼の意外な素顔に、美桜の心は揺れ動く。料理上手で、猫が好きで、夜中に一人でピアノを弾く彼。契約違反だと分かっているのに、この温かい日だまりのような時間に、いつしか本気で惹かれていた。これは、氷のように冷たい契約から始まる、不器用で甘い、とろけるような恋の物語。

地味系秘書と氷の副社長は今日も仲良くバトルしてます!

楓乃めーぷる
恋愛
 見た目はどこにでもいそうな地味系女子の小鳥風音(おどりかざね)が、ようやく就職した会社で何故か社長秘書に大抜擢されてしまう。  秘書検定も持っていない自分がどうしてそんなことに……。  呼び出された社長室では、明るいイケメンチャラ男な御曹司の社長と、ニコリともしない銀縁眼鏡の副社長が風音を待ち構えていた――  地味系女子が色々巻き込まれながら、イケメンと美形とぶつかって仲良くなっていく王道ラブコメなお話になっていく予定です。  ちょっとだけ三角関係もあるかも? ・表紙はかんたん表紙メーカーで作成しています。 ・毎日11時に投稿予定です。 ・勢いで書いてます。誤字脱字等チェックしてますが、不備があるかもしれません。 ・公開済のお話も加筆訂正する場合があります。

親愛なる後輩くん

さとう涼
恋愛
「神崎部長は、僕と結城さんがつき合っているのを知りながら彼女に手を出したんですよ」 雨宮一紗(33歳)。離婚して3年。 同じ会社に勤める元夫・神崎敦朗と復縁したくて、ある日食事に誘ったら、神崎から恋人がいると知らされる。相手は20代の部下・結城史奈だという。 さらに神崎のもうひとりの部下である蓮見閑《しずか》から、彼女(結城)を神崎に略奪されたと聞かされてしまい、大きなショックを受ける……。

あなたと恋に落ちるまで~御曹司は、一途に私に恋をする~

けいこ
恋愛
カフェも併設されたオシャレなパン屋で働く私は、大好きなパンに囲まれて幸せな日々を送っていた。 ただ… トラウマを抱え、恋愛が上手く出来ない私。 誰かを好きになりたいのに傷つくのが怖いって言う恋愛こじらせ女子。 いや…もう女子と言える年齢ではない。 キラキラドキドキした恋愛はしたい… 結婚もしなきゃいけないと…思ってはいる25歳。 最近、パン屋に来てくれるようになったスーツ姿のイケメン過ぎる男性。 彼が百貨店などを幅広く経営する榊グループの社長で御曹司とわかり、店のみんなが騒ぎ出して… そんな人が、 『「杏」のパンを、時々会社に配達してもらいたい』 だなんて、私を指名してくれて… そして… スーパーで買ったイチゴを落としてしまったバカな私を、必死に走って追いかけ、届けてくれた20歳の可愛い系イケメン君には、 『今度、一緒にテーマパーク行って下さい。この…メロンパンと塩パンとカフェオレのお礼したいから』 って、誘われた… いったい私に何が起こっているの? パン屋に出入りする同年齢の爽やかイケメン、パン屋の明るい美人店長、バイトの可愛い女の子… たくさんの個性溢れる人々に関わる中で、私の平凡過ぎる毎日が変わっていくのがわかる。 誰かを思いっきり好きになって… 甘えてみても…いいですか? ※after story別作品で公開中(同じタイトル)

処理中です...