32 / 33
最終回 あなたのそばで
しおりを挟む
あれから数ヶ月後、コンテストの発表があった。
私の応募した作品は、何の賞も得られず、かすりもしなかった。
橘さんに絶賛され、嫉妬され、苦しんだ結果こうなったのは複雑な気持ちだった。
でも、これからまた頑張ろうって思えた。
橘さんの力だけじゃなく、私自身がもっと成長しないといけない。
三浦さんの作品は審査員特別賞を受賞した。
まだ若い才能はどんどん芽吹く。
私もまだ始まったばかり。
それよりびっくりしたのは──
橘さんも別のコンテストに作品を応募していた事。
受賞はしなかったけど、候補作に選ばれてメディアに取り上げられて知った。
「橘さんなんで黙ってたんですか!?」
私はニュースを知った日、会社の昼休憩中に電話をした。
「言って何も成果がなかったら恥ずかしかったから」
恥ずかしいって!
「もう既に他で賞は取ってるじゃないですか!」
「美鈴が頑張ってるの見て、俺もこっそりやってたんだよ」
知らなかった……。
「どんな作品だったんですか……?」
「言いたくない」
「じゃあ帰ったら見せて下さい!!」
私は何の成果もなかったのに、こっそり応募して候補作に選ばれるなんて……。
私だって嫉妬している。
キャリアもレベルも経験も圧倒的に私が下なのに。
私はその日、足早に帰った。
◇ ◇ ◇
橘さんの部屋で待ち伏せをしていた。
橘さんが帰った瞬間、急いで玄関に行った。
「見せてください!」
私の勢いに負けたのか、書斎に行って原稿を見せてくれた。
そのストーリーは──
バーで出会った男と女の愛憎劇だった。
「え?橘さん、プラトニックは……」
「挑戦だよ」
私と違うのは、そういう描写がほぼなく、丁寧な心理描写で書かれていた。
そして、二人の愛が報われる結末だった。
ハラハラドキドキして、読み終わった後、心がジーンとした。
「ああ、やっぱりこれは翠川雅人の作品です……美しいです」
「美鈴みたいな引き摺り込まれるようなものは書けなかったけどな」
「世間はこういう作品を求めてるって事ですよ!橘さんが正しいんですよ」
私の作品は世間が求めてるものというより、橘さんが求めてるものを書いてるに近い。
最初はそれでいいか悩んだし、理想の作品を書けなくなって橘さんに怒ったけど、橘さんに認められるのが一番嬉しかった。
自分だけの力で作ったものも認められたら、私は自分の作品に自信が持てるようになる。
「橘さん……ところでこの作品って、私達の間で起こった事を元に書いてますよね……?」
「うん。キャラクターの設定はだいぶ違うけどな」
男は平凡なサラリーマン。
女は職業も年齢も不明。
平凡なサラリーマンがバーで女と出会って一夜を共にする。同じマンションに女が引っ越してきて、どんどん女の趣味に染まって、身も心も侵食されていって──
離れようとしたけど、女の弱さを知った男が、全てを受け入れて二人で生きていく、そんな話だった。
「私達の出会いが創作になって、それが誰かの心に響いたなら、私は橘さんと出会えてよかったって思えます」
橘さんはゆっくりと私の方に近づいてきた。
「俺も美鈴に出会えてよかった。俺が頑張れたのは美鈴のおかげだ。」
橘さんに抱き締められた。
「私も橘さんのおかげで書けてます」
橘さんの温もりが私の全てを満たしていく。
「俺を追い越してみろよ。俺に憎まれるくらい凄いストーリーたくさん書けよ」
「はい……頑張ります」
やっとお互い一緒に歩む準備ができた気がした。
あなたが私を憎んだとしても、私の側にいて欲しい。
私も辛くなっても離れない。
「次の設定を渡す」
「え?」
「真面目な銀行員の男がいる。男は仕事帰りにある女を助ける。その女は悪魔だった。女は男に契約を持ちかける」
「何だと思う?」
「わ、わかりません……」
「それを考えるんだ。期待している。」
肝心な部分が!!
でもそれを書く、書き続ける。
貴方のそばで──
──fin
最後まで読んでくださり、ありがとうございました☆彡
私の応募した作品は、何の賞も得られず、かすりもしなかった。
橘さんに絶賛され、嫉妬され、苦しんだ結果こうなったのは複雑な気持ちだった。
でも、これからまた頑張ろうって思えた。
橘さんの力だけじゃなく、私自身がもっと成長しないといけない。
三浦さんの作品は審査員特別賞を受賞した。
まだ若い才能はどんどん芽吹く。
私もまだ始まったばかり。
それよりびっくりしたのは──
橘さんも別のコンテストに作品を応募していた事。
受賞はしなかったけど、候補作に選ばれてメディアに取り上げられて知った。
「橘さんなんで黙ってたんですか!?」
私はニュースを知った日、会社の昼休憩中に電話をした。
「言って何も成果がなかったら恥ずかしかったから」
恥ずかしいって!
「もう既に他で賞は取ってるじゃないですか!」
「美鈴が頑張ってるの見て、俺もこっそりやってたんだよ」
知らなかった……。
「どんな作品だったんですか……?」
「言いたくない」
「じゃあ帰ったら見せて下さい!!」
私は何の成果もなかったのに、こっそり応募して候補作に選ばれるなんて……。
私だって嫉妬している。
キャリアもレベルも経験も圧倒的に私が下なのに。
私はその日、足早に帰った。
◇ ◇ ◇
橘さんの部屋で待ち伏せをしていた。
橘さんが帰った瞬間、急いで玄関に行った。
「見せてください!」
私の勢いに負けたのか、書斎に行って原稿を見せてくれた。
そのストーリーは──
バーで出会った男と女の愛憎劇だった。
「え?橘さん、プラトニックは……」
「挑戦だよ」
私と違うのは、そういう描写がほぼなく、丁寧な心理描写で書かれていた。
そして、二人の愛が報われる結末だった。
ハラハラドキドキして、読み終わった後、心がジーンとした。
「ああ、やっぱりこれは翠川雅人の作品です……美しいです」
「美鈴みたいな引き摺り込まれるようなものは書けなかったけどな」
「世間はこういう作品を求めてるって事ですよ!橘さんが正しいんですよ」
私の作品は世間が求めてるものというより、橘さんが求めてるものを書いてるに近い。
最初はそれでいいか悩んだし、理想の作品を書けなくなって橘さんに怒ったけど、橘さんに認められるのが一番嬉しかった。
自分だけの力で作ったものも認められたら、私は自分の作品に自信が持てるようになる。
「橘さん……ところでこの作品って、私達の間で起こった事を元に書いてますよね……?」
「うん。キャラクターの設定はだいぶ違うけどな」
男は平凡なサラリーマン。
女は職業も年齢も不明。
平凡なサラリーマンがバーで女と出会って一夜を共にする。同じマンションに女が引っ越してきて、どんどん女の趣味に染まって、身も心も侵食されていって──
離れようとしたけど、女の弱さを知った男が、全てを受け入れて二人で生きていく、そんな話だった。
「私達の出会いが創作になって、それが誰かの心に響いたなら、私は橘さんと出会えてよかったって思えます」
橘さんはゆっくりと私の方に近づいてきた。
「俺も美鈴に出会えてよかった。俺が頑張れたのは美鈴のおかげだ。」
橘さんに抱き締められた。
「私も橘さんのおかげで書けてます」
橘さんの温もりが私の全てを満たしていく。
「俺を追い越してみろよ。俺に憎まれるくらい凄いストーリーたくさん書けよ」
「はい……頑張ります」
やっとお互い一緒に歩む準備ができた気がした。
あなたが私を憎んだとしても、私の側にいて欲しい。
私も辛くなっても離れない。
「次の設定を渡す」
「え?」
「真面目な銀行員の男がいる。男は仕事帰りにある女を助ける。その女は悪魔だった。女は男に契約を持ちかける」
「何だと思う?」
「わ、わかりません……」
「それを考えるんだ。期待している。」
肝心な部分が!!
でもそれを書く、書き続ける。
貴方のそばで──
──fin
最後まで読んでくださり、ありがとうございました☆彡
1
あなたにおすすめの小説
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
不埒な一級建築士と一夜を過ごしたら、溺愛が待っていました
入海月子
恋愛
有本瑞希
仕事に燃える設計士 27歳
×
黒瀬諒
飄々として軽い一級建築士 35歳
女たらしと嫌厭していた黒瀬と一緒に働くことになった瑞希。
彼の言動は軽いけど、腕は確かで、真摯な仕事ぶりに惹かれていく。
ある日、同僚のミスが発覚して――。
ワケあり上司とヒミツの共有
咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。
でも、社内で有名な津田部長。
ハンサム&クールな出で立ちが、
女子社員のハートを鷲掴みにしている。
接点なんて、何もない。
社内の廊下で、2、3度すれ違った位。
だから、
私が津田部長のヒミツを知ったのは、
偶然。
社内の誰も気が付いていないヒミツを
私は知ってしまった。
「どどど、どうしよう……!!」
私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?
苦手な冷徹専務が義兄になったかと思ったら極あま顔で迫ってくるんですが、なんででしょう?~偽家族恋愛~
霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「こちら、再婚相手の息子の仁さん」
母に紹介され、なにかの間違いだと思った。
だってそこにいたのは、私が敵視している専務だったから。
それだけでもかなりな不安案件なのに。
私の住んでいるマンションに下着泥が出た話題から、さらに。
「そうだ、仁のマンションに引っ越せばいい」
なーんて義父になる人が言い出して。
結局、反対できないまま専務と同居する羽目に。
前途多難な同居生活。
相変わらず専務はなに考えているかわからない。
……かと思えば。
「兄妹ならするだろ、これくらい」
当たり前のように落とされる、額へのキス。
いったい、どうなってんのー!?
三ツ森涼夏
24歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』営業戦略部勤務
背が低く、振り返ったら忘れられるくらい、特徴のない顔がコンプレックス。
小1の時に両親が離婚して以来、母親を支えてきた頑張り屋さん。
たまにその頑張りが空回りすることも?
恋愛、苦手というより、嫌い。
淋しい、をちゃんと言えずにきた人。
×
八雲仁
30歳
大手菓子メーカー『おろち製菓』専務
背が高く、眼鏡のイケメン。
ただし、いつも無表情。
集中すると周りが見えなくなる。
そのことで周囲には誤解を与えがちだが、弁明する気はない。
小さい頃に母親が他界し、それ以来、ひとりで淋しさを抱えてきた人。
ふたりはちゃんと義兄妹になれるのか、それとも……!?
*****
千里専務のその後→『絶対零度の、ハーフ御曹司の愛ブルーの瞳をゲーヲタの私に溶かせとか言っています?……』
*****
表紙画像 湯弐様 pixiv ID3989101
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
先輩、お久しぶりです
吉生伊織
恋愛
若宮千春 大手不動産会社
秘書課
×
藤井昂良 大手不動産会社
経営企画本部
『陵介とデキてたんなら俺も邪魔してたよな。
もうこれからは誘わないし、誘ってこないでくれ』
大学生の時に起きたちょっとした誤解で、先輩への片想いはあっけなく終わってしまった。
誤解を解きたくて探し回っていたが見つけられず、そのまま音信不通に。
もう会うことは叶わないと思っていた数年後、社会人になってから偶然再会。
――それも同じ会社で働いていた!?
音信不通になるほど嫌われていたはずなのに、徐々に距離が縮む二人。
打ち解けあっていくうちに、先輩は徐々に甘くなっていき……
【完結】育てた後輩を送り出したらハイスペになって戻ってきました
藤浪保
恋愛
大手IT会社に勤める早苗は会社の歓迎会でかつての後輩の桜木と再会した。酔っ払った桜木を家に送った早苗は押し倒され、キスに翻弄されてそのまま関係を持ってしまう。
次の朝目覚めた早苗は前夜の記憶をなくし、関係を持った事しか覚えていなかった。
幸せのありか
神室さち
恋愛
兄の解雇に伴って、本社に呼び戻された氷川哉(ひかわさい)は兄の仕事の後始末とも言える関係企業の整理合理化を進めていた。
決定を下した日、彼のもとに行野樹理(ゆきのじゅり)と名乗る高校生の少女がやってくる。父親の会社との取引を継続してくれるようにと。
哉は、人生というゲームの余興に、一年以内に哉の提示する再建計画をやり遂げれば、以降も取引を続行することを決める。
担保として、樹理を差し出すのならと。止める両親を振りきり、樹理は彼のもとへ行くことを決意した。
とかなんとか書きつつ、幸せのありかを探すお話。
‐‐‐‐‐‐‐‐‐‐
自サイトに掲載していた作品を、閉鎖により移行。
視点がちょいちょい変わるので、タイトルに記載。
キリのいいところで切るので各話の文字数は一定ではありません。
ものすごく短いページもあります。サクサク更新する予定。
本日何話目、とかの注意は特に入りません。しおりで対応していただけるとありがたいです。
別小説「やさしいキスの見つけ方」のスピンオフとして生まれた作品ですが、メインは単独でも読めます。
直接的な表現はないので全年齢で公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる