夜明けの旋律─二人の繋いだ手の先に待ち受けるもの─

七転び八起き

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覚悟

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──土曜日。

バス停に降りた。

この数日間、ほとんど眠れなかった。
目を閉じるたびに、唯川の顔が浮かんだ。

住宅街を歩く。

角を曲がると、白い家が見えた。
表札に「唯川」の文字。

夏のあの日、唯川の家のピアノの部屋で、唯川が俺に打ち明けてくれた過去。

コンクールに落ちて弾けなくなった数年。

きっと孤独だった。
今も──

深く息を吸った。

インターホンを押す。

暫くするとドアが開いた。

唯川が、出てきた。

サラサラの黒い髪、長いまつ毛、整った顔。
黒いセーターにデニムのパンツ。
いつも思うが、自分と不釣り合いだ。

「来てくれてありがとう」
優しい笑顔だった。

「うん」

「上がって」

靴を脱いで、家に入る。

数ヶ月ぶりの唯川の家。

二階の奥の部屋。
ドアを開けると、唯川の部屋だった。

そこは、シンプルな家具と、文庫本が置いてある本棚があった。
文庫本には、ミステリー以外にも色んなジャンルの小説があった。

「唯川、こういうのも読むんだ」

恋愛小説のようなものもあった。

「好きな作家が書いてたやつだよ。いつもはそういう作品書かない人だから気になって」

唯川は色々な作家や作品のことを教えてくれた。

唯川の世界はピアノだけじゃない。
唯川のことをまた知ることができた。

「いぶき」

振り返ると唯川が不安そうな顔をしている。

「あの……やっぱりやめよう」
「なんで?」
「怖い……」

唯川が怖がっている。

「何が?」
「嫌がられるのが」

唯川がベッドに座って俯く。

「嫌じゃないよ。少し怖いと思っただけで」

沈黙が流れる。

「唯川、ちょっと聞きたいんだけど……」
「何…?」

言葉に詰まる。

「どこまでしたいの?」

唯川の表情が固まった。

一番気になっていたのはそこだった。

「唯川はどこまですれば満足できるのかなって」

「俺は女じゃないからさ」

それを呟いて現実に引き戻された。

「……そんなの関係ない。いぶきはいぶきだよ」
「でも」
「じゃあいぶきはどこまで許せる?」

どこまで──。
息を呑んだ。

「唯川がどこまで求めてるかわからないけど、俺は全部受け止める覚悟できたよ」

そのために今日がある。

「わかった。じゃあ俺も全部見せる」

心臓が高鳴った。
少し体が震えた。

唯川は服を脱ぎだした。

初めて見る、唯川の体。
白くて、細くて、美しかった。

まるで神聖なものを見ているかのようだった。

唯川と目が合う。

「いぶきのも見たい」

真剣に言われる。

覚悟はしていたけど、いざとなると恥ずかしい。

「わかった」

一枚ずつ脱ぐ。
唯川のように美しくはない、平凡な男子校生の体。
自分では何の魅力も感じない。

脱いだ後、顔を見られなかった。

「いぶき、綺麗だよ」

頭が真っ白になった。
唯川を見ると。
涙を流していた。

「何で泣いてるの?」
「嬉しくて」

冬の柔らかい光が唯川を照らす。

「いぶきと出会えてよかった」

ピアニストの卵は、儚く美しく純粋だった。
純粋に好きな相手を求めていただけだった。

やっとこの時理解できた。
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