【完結】あなた専属になります―借金OLは副社長の「専属」にされた―

七転び八起き

文字の大きさ
13 / 48

第13話 精神統一

しおりを挟む
昨日の夜は家に帰ってからも胸の高鳴りが止まらなかった。

借金の債権者が河内さんになった上に、恋人になって、私の頭はパンクしていた。

翌日の朝──

いつものように出勤したけれど……緊張する!!

震える手で副社長室をノックした。

「はい」

「ふ、藤田です!」

「入れ」

いつもと変わらない河内さんの声。

「お、おはようございます……!」

パソコンで真剣な顔でメールを打っている河内さん。
何事もなかったかのように……。

「おはよう」

私は資料を渡しに近づいた。

「こちら、作成した資料です。ご確認ください」

私も仕事では切り替えようと気持ちを引き締めた。

「ああ」

書類を渡す瞬間、指先が触れた。
心臓がまた跳ね上がった。

「失礼しました……」

平静を装いつつ、副社長室を出ようとすると。

「無理して平静を装ってるのが丸わかりだ」

バレていた。いや、もうこの人に隠し事は通用しないのかもしれない。

「仕事に集中できないくらい俺の事で頭がいっぱいなのか……」

「いえ……色々重なってまだ気持ちの整理ができてないんです」

河内さんが立ち上がった。

「じゃあ、今日俺の家に来い」

「え!?」

それじゃ逆効果だ……!!

そのまま河内さんは外出してしまった。

* * *

仕事が終わった後、私は河内さんの家に行った。

インターホンを押すと、玄関が開いたその先には――
シンプルで落ち着いた色の着物を着た河内さんがいた。

「え?河内さん、なんで着物着てるんですか!?」

河内さんはスーツの時と違って、落ち着いた色気を醸し出していた。

「とにかく上がれ」

いつもと違う雰囲気の河内さんにドキドキしながら案内された部屋に行った。

そこは、和室だった。

そして、そこには茶道の道具らしきものが一式揃えられていた。

「河内さん、茶道をやってるんですか!?」

まさかそんな趣味があるとは!!

「そこに座れ」

私は河内さんに言われた場所に正座した。

「あの……私、何も作法がわからないんですが……」

「黙って見ているだけでいい」

河内さんは慣れた所作で茶道のお点前をしている。
静かな空間に茶筅の音が微かに響いた。
そして茶碗が差し出された。

「飲んでいいんですか?」

河内さんは頷いた。
私は河内さんが立ててくれたお茶をゆっくり飲んだ。

「美味しいです!」

着物姿の河内さんにお茶を立ててもらえる幸せに浸っていた。

「お前もやれ」

「はい?」

「お前もこのくらいできるようになれ」

「なんでですか?」

「心が落ち着くからだ」

確かに、河内さんのお点前を見ていたらとても気持ちが落ち着いた。

「茶道の件は前向きに検討してみます」

その後、茶菓子を見せてくれて、何個か食べさせてもらった。

「あー!幸せです!満足です!」

立ち上がろうとしたら足が痺れてよろけてしまった。
河内さんが咄嗟に抱き止めてくれた。

「すみません……ありがとうございます」

そのまま河内さんの腕の中に――

「俺は満足してない」

そうだ、私たちは恋人なんだ……。

「どうすればいいですか?」

河内さんは少し考えていた。

「まず、俺の事をもっと知った方がいい」

「はい!知りたいです!」

私はその時、盛大な勘違いをしていた。
「知る」というのは河内さんの素性ではなくて、河内さんという人間そのものだった。

男を知らない私に、河内さんは教えてくれた。
知った時、心が折れそうになった。

「無理です、怖いです!!」

「ただ見せてるだけだ……」

でも、私はこの人の事をもっと知りたいし、恋人としてちゃんと向き合いたい。
返さないといけないものもたくさんある。

だから、これからも頑張る。

* * *

──帰りの車の中

「今度、馴染みの人が開いている茶道教室に連れていく。優美も着物を着せて連れていく」

「え!私、着付けできませんよ!?」

「俺が着付ける」

「いえ、自分でなんとかします」

また新しい世界に一歩踏み出す事にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される

永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】 「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。 しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――? 肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!

心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。

三月べに
恋愛
古川七羽(こがわななは)は、自分のあか抜けない子どもっぽいところがコンプレックスだった。 新たに人の心を読める能力が開花してしまったが、それなりに上手く生きていたつもり。 ひょんなことから出会った竜ヶ崎数斗(りゅうがざきかずと)は、紳士的で優しいのだが、心の中で一目惚れしたと言っていて、七羽にグイグイとくる! 実は御曹司でもあるハイスペックイケメンの彼に押し負ける形で、彼の親友である田中新一(たなかしんいち)と戸田真樹(とだまき)と楽しく過ごしていく。 新一と真樹は、七羽を天使と称して、妹分として可愛がってくれて、数斗も大切にしてくれる。 しかし、起きる修羅場に、数斗の心の声はなかなか物騒。 ややヤンデレな心の声!? それでも――――。 七羽だけに向けられるのは、いつも優しい声だった。 『俺、失恋で、死んじゃうな……』 自分とは釣り合わないとわかりきっていても、キッパリと拒めない。二の足を踏む、じれじれな恋愛模様。 傷だらけの天使だなんて呼ばれちゃう心が読める能力を密かに持つ七羽は、ややヤンデレ気味に溺愛してくる数斗の優しい愛に癒される? 【心が読める私に一目惚れした彼の溺愛はややヤンデレ気味です。】『なろうにも掲載』

ワケあり上司とヒミツの共有

咲良緋芽
恋愛
部署も違う、顔見知りでもない。 でも、社内で有名な津田部長。 ハンサム&クールな出で立ちが、 女子社員のハートを鷲掴みにしている。 接点なんて、何もない。 社内の廊下で、2、3度すれ違った位。 だから、 私が津田部長のヒミツを知ったのは、 偶然。 社内の誰も気が付いていないヒミツを 私は知ってしまった。 「どどど、どうしよう……!!」 私、美園江奈は、このヒミツを守れるの…?

男に間違えられる私は女嫌いの冷徹若社長に溺愛される

山口三
恋愛
「俺と結婚してほしい」  出会ってまだ何時間も経っていない相手から沙耶(さや)は告白された・・・のでは無く契約結婚の提案だった。旅先で危ない所を助けられた沙耶は契約結婚を申し出られたのだ。相手は五瀬馨(いつせかおる)彼は国内でも有数の巨大企業、五瀬グループの若き社長だった。沙耶は自分の夢を追いかける資金を得る為、養女として窮屈な暮らしを強いられている今の家から脱出する為にもこの提案を受ける事にする。  冷酷で女嫌いの社長とお人好しの沙耶。二人の契約結婚の行方は?  

【完結】俺様御曹司の隠された溺愛野望 〜花嫁は蜜愛から逃れられない〜

椿かもめ
恋愛
「こはる、俺の妻になれ」その日、大女優を母に持つ2世女優の花宮こはるは自分の所属していた劇団の解散に絶望していた。そんなこはるに救いの手を差し伸べたのは年上の幼馴染で大企業の御曹司、月ノ島玲二だった。けれど代わりに妻になることを強要してきて──。花嫁となったこはるに対し、俺様な玲二は独占欲を露わにし始める。 【幼馴染の俺様御曹司×大物女優を母に持つ2世女優】 ☆☆☆ベリーズカフェで日間4位いただきました☆☆☆ ※ベリーズカフェでも掲載中 ※推敲、校正前のものです。ご注意下さい

ヤクザは喋れない彼女に愛される

九竜ツバサ
恋愛
ヤクザが喋れない女と出会い、胃袋を掴まれ、恋に落ちる。

【完結】溺愛予告~御曹司の告白躱します~

蓮美ちま
恋愛
モテる彼氏はいらない。 嫉妬に身を焦がす恋愛はこりごり。 だから、仲の良い同期のままでいたい。 そう思っているのに。 今までと違う甘い視線で見つめられて、 “女”扱いしてるって私に気付かせようとしてる気がする。 全部ぜんぶ、勘違いだったらいいのに。 「勘違いじゃないから」 告白したい御曹司と 告白されたくない小ボケ女子 ラブバトル開始

わたしの愉快な旦那さん

川上桃園
恋愛
 あまりの辛さにブラックすぎるバイトをやめた。最後塩まかれたけど気にしない。  あ、そういえばこの店入ったことなかったな、入ってみよう。 「何かお探しですか」  その店はなんでも取り扱うという。噂によると彼氏も紹介してくれるらしい。でもそんなのいらない。彼氏だったらすぐに離れてしまうかもしれないのだから。  店員のお兄さんを前にてんぱった私は。 「旦那さんが欲しいです……」  と、斜め上の回答をしてしまった。でもお兄さんは優しい。 「どんな旦那さんをお望みですか」 「え、えっと……愉快な、旦那さん?」  そしてお兄さんは自分を指差した。 「僕が、お客様のお探しの『愉快な旦那さん』ですよ」  そこから始まる恋のお話です。大学生女子と社会人男子(御曹司)。ほのぼのとした日常恋愛もの

処理中です...