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4章 商人ピエールの訪れ
79.真に願うは・・・
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俺とヒアは木と木の間から用心棒たちと魔物たちの戦いを見守る。
さっきまでは余裕を持って魔物に対応できていたが、グリフォンの出現により一気に劣勢に追い込まれた。
用心棒の体には一つ、また一つと傷が増えていく。
魔物が投げた礫がピエールの頬を掠める。
ついに用心棒だけではピエールを守り切れなくなり始めていた。
「おい、危ないぞ。もっとちゃんと守れ!」
ピエールは苛立たしげな口調で言うが、その表情には恐怖が見て取れる。
ピエールも足元の石を投げて戦いに参加するが、石が当たった魔物はその事に気付いてもいない。
そして、用心棒のひとりが二体の魔物に同時攻撃され、対応しきれずに肩に深い傷を負う。
そうなっては用心棒になす術はない。
側にいた魔物が用心棒の足を咥えて森の奥に消えていく。
どこかで悲痛な悲鳴が聞こえたが、もう手遅れだろう。
残りの用心棒は5人。
さらに状況は悪化していく。
まだ何とかピエールへの攻撃は防げているが、また次の用心棒が戦闘不能に陥れば守備は崩壊するのが目に見えている。
その状況はピエールにもよく分かっていた。
だから、逃げてしまったのだろう。
それがもっと悪い状況になる事を知らずに。
「死んでも食い止めろ!!」
ピエールは用心棒達にそう言い残すと、魔物が唯一いない方向へ走り出した。
魔物がいないのは罠だと言う事を冒険者ではないピエールが知らないのはしょうがない事だった。
その様子を見ていたヒアはピエールを逃すまいと捕まえようとする。
俺はそれを腕を掴んで止める。
するとヒアは、怒気を孕んだ視線で振り返り、ラウトを睨む。
邪魔をするなと言いたいのが、言葉にしなくても分かる。
だが、手は離さない。
「何で止めr「ギィャャャャ!!!」」
ヒアの声を遮るようにピエールの悲鳴が辺りに響く。
ヒアは振り返ると驚愕する。
ヒアも冒険者ではないので、この光景はビックリしたのだろう。
その視線の先では、さっきまでは何もいなかった場所にゴブリンが何体も出現し、ピエールを襲っていた。
ピエールは足や腕に鋭い刃物のような物体を刺されてのたうちまわっている。
これは冒険者なら常識だが、ゴブリンの攻撃は専ら奇襲だ。
気配を消し、攻撃範囲に安易に入ってきたものを容赦なく攻撃する。
それは魔物や人など見境はない。
ヒアにもそれを教えてあげると、先の行動について謝罪してきた。
律儀な性格でもあるらしい。
ただ気配を消しているとは言っても、単体では討伐難易度Dランクなので、その練度は大したことはない。
ヒアも注意深く観察していれば気づいただろうが、ピエールを追って頭に血が上っていた状態で気づかなかったらしい。
「ゴブリンはああやって狩りをする。まあ、狩りとはいっても殺したりはしないけどね」
「えっ?」
俺の説明を聞いていたヒアは不可解そうな顔をする。
「でもゴブリンはピエールを殺そうと・・・あれ?殺してない、なんで?」
「ゴブリンが狩りをするのはオスの生殖行為のためだからだよ。ゴブリンは繁殖期以外でメスと生殖行為をしない。その代わりにオスは他種の生物と生殖行為に及ぶんだ」
「つまりピエールは・・・」
「そう、ゴブリンに喰われる。性的に」
ヒアは想像したのか、青い顔をする。
ピエールを殺そうとしている割に、そう言うことは人並みに苦手らしい。
まあ、俺も鑑定でこの情報を得たときはゾッとしたが。
「どうする?ピエールを自分の手で殺したいならゴブリンからピエールを奪って来るけど」
ヒアの意思を聞いた。
俺はピエールがどうなろうと良い。
それこそ生き残ろうが、俺の仲間に何もしなければ構わない。
でも、ヒアは明確に殺す理由があるはずだ。
ここはヒアに判断を任せる。
ヒアの心は揺れていた。
ピエールはヒアが手を下すまでもなく死ぬだろう。
殺すことが目的であったので、それは達成される。
でも、この手で殺したいという感情がない訳ではない。
過去の記憶が蘇って来る。
両親がピエールに殺されたと知ったあの日から、いつか必ず仕返しをしてやると、ずっと背負ってきたこの気持ちは、いつしか自分でさえ決着の付け方が分からなくなっていた。
自分はどうしたいのだろうか、ピエールが死ねばそれで良いのか?
それともこの手で殺すことが必要なのか?
「ちょっと疑問なんだけど、ヒアはピエールを殺したいの?それとも殺して何かを得るのが目的なの?」
ヒアの心はその言葉でクリアになっていく。
正直、私は今まで自分のやりたい事を見失っていた。
ただピエールを殺す事だけを目指して突き進んで来たから、周りが見えなくなっていた。
両親を殺したピエールが憎いというのは紛れもなく自分の気持ちだ。
けど、最初は私のために死んでいった両親が報われて欲しい、それが私の願いであり目的であったのだ。
それがいつの間にかピエールを殺すことに目的が変わってしまって、自分でもよく分からないまま生きてきてしまった。
でもやっと思い出した。
お父さん、お母さん。
ピエールは死ぬ。
これで私や私の両親のようなピエールに人生を滅茶苦茶にされる人はいなくなる。
ようやく報われたね。
遠回りしたけど、私の目的は果たせたよ。
だから私の答えは、
「ううん、もう目的は達成した。ありがとう、ラウト」
そこには前のように辛そうな表情が消えた、満面の笑みがあった。
俺は彼女に何が起きたかは分からないが、彼女の中で何か変化があった事は察した。
「良かったね」
「ほんとありがとう」
ヒアはそういうとガクッと倒れ込みそうになる。
俺はそれを腕で支える。
安心して疲労が一気に回ってきたのか、ヒアは気を失っている。
そんな事をしている間にピエールはゴブリンに連れ去られていた。
用心棒も既に生きている者はいなかった。
だが、用心棒が魔物の数をかなり減らしてくれたお陰で、魔物は放って置いても次第に分散してくれそうだった。
これで、街に被害が出る心配はない。
俺はそれを確認すると、ヒアを背負って屋敷に戻った。
(あぁ、ヒアのこと穂花達に何て説明しようかなぁ)
魔物の処理より、こちらの方がよっぽど厄介に感じるのは俺だけだろうか?
さっきまでは余裕を持って魔物に対応できていたが、グリフォンの出現により一気に劣勢に追い込まれた。
用心棒の体には一つ、また一つと傷が増えていく。
魔物が投げた礫がピエールの頬を掠める。
ついに用心棒だけではピエールを守り切れなくなり始めていた。
「おい、危ないぞ。もっとちゃんと守れ!」
ピエールは苛立たしげな口調で言うが、その表情には恐怖が見て取れる。
ピエールも足元の石を投げて戦いに参加するが、石が当たった魔物はその事に気付いてもいない。
そして、用心棒のひとりが二体の魔物に同時攻撃され、対応しきれずに肩に深い傷を負う。
そうなっては用心棒になす術はない。
側にいた魔物が用心棒の足を咥えて森の奥に消えていく。
どこかで悲痛な悲鳴が聞こえたが、もう手遅れだろう。
残りの用心棒は5人。
さらに状況は悪化していく。
まだ何とかピエールへの攻撃は防げているが、また次の用心棒が戦闘不能に陥れば守備は崩壊するのが目に見えている。
その状況はピエールにもよく分かっていた。
だから、逃げてしまったのだろう。
それがもっと悪い状況になる事を知らずに。
「死んでも食い止めろ!!」
ピエールは用心棒達にそう言い残すと、魔物が唯一いない方向へ走り出した。
魔物がいないのは罠だと言う事を冒険者ではないピエールが知らないのはしょうがない事だった。
その様子を見ていたヒアはピエールを逃すまいと捕まえようとする。
俺はそれを腕を掴んで止める。
するとヒアは、怒気を孕んだ視線で振り返り、ラウトを睨む。
邪魔をするなと言いたいのが、言葉にしなくても分かる。
だが、手は離さない。
「何で止めr「ギィャャャャ!!!」」
ヒアの声を遮るようにピエールの悲鳴が辺りに響く。
ヒアは振り返ると驚愕する。
ヒアも冒険者ではないので、この光景はビックリしたのだろう。
その視線の先では、さっきまでは何もいなかった場所にゴブリンが何体も出現し、ピエールを襲っていた。
ピエールは足や腕に鋭い刃物のような物体を刺されてのたうちまわっている。
これは冒険者なら常識だが、ゴブリンの攻撃は専ら奇襲だ。
気配を消し、攻撃範囲に安易に入ってきたものを容赦なく攻撃する。
それは魔物や人など見境はない。
ヒアにもそれを教えてあげると、先の行動について謝罪してきた。
律儀な性格でもあるらしい。
ただ気配を消しているとは言っても、単体では討伐難易度Dランクなので、その練度は大したことはない。
ヒアも注意深く観察していれば気づいただろうが、ピエールを追って頭に血が上っていた状態で気づかなかったらしい。
「ゴブリンはああやって狩りをする。まあ、狩りとはいっても殺したりはしないけどね」
「えっ?」
俺の説明を聞いていたヒアは不可解そうな顔をする。
「でもゴブリンはピエールを殺そうと・・・あれ?殺してない、なんで?」
「ゴブリンが狩りをするのはオスの生殖行為のためだからだよ。ゴブリンは繁殖期以外でメスと生殖行為をしない。その代わりにオスは他種の生物と生殖行為に及ぶんだ」
「つまりピエールは・・・」
「そう、ゴブリンに喰われる。性的に」
ヒアは想像したのか、青い顔をする。
ピエールを殺そうとしている割に、そう言うことは人並みに苦手らしい。
まあ、俺も鑑定でこの情報を得たときはゾッとしたが。
「どうする?ピエールを自分の手で殺したいならゴブリンからピエールを奪って来るけど」
ヒアの意思を聞いた。
俺はピエールがどうなろうと良い。
それこそ生き残ろうが、俺の仲間に何もしなければ構わない。
でも、ヒアは明確に殺す理由があるはずだ。
ここはヒアに判断を任せる。
ヒアの心は揺れていた。
ピエールはヒアが手を下すまでもなく死ぬだろう。
殺すことが目的であったので、それは達成される。
でも、この手で殺したいという感情がない訳ではない。
過去の記憶が蘇って来る。
両親がピエールに殺されたと知ったあの日から、いつか必ず仕返しをしてやると、ずっと背負ってきたこの気持ちは、いつしか自分でさえ決着の付け方が分からなくなっていた。
自分はどうしたいのだろうか、ピエールが死ねばそれで良いのか?
それともこの手で殺すことが必要なのか?
「ちょっと疑問なんだけど、ヒアはピエールを殺したいの?それとも殺して何かを得るのが目的なの?」
ヒアの心はその言葉でクリアになっていく。
正直、私は今まで自分のやりたい事を見失っていた。
ただピエールを殺す事だけを目指して突き進んで来たから、周りが見えなくなっていた。
両親を殺したピエールが憎いというのは紛れもなく自分の気持ちだ。
けど、最初は私のために死んでいった両親が報われて欲しい、それが私の願いであり目的であったのだ。
それがいつの間にかピエールを殺すことに目的が変わってしまって、自分でもよく分からないまま生きてきてしまった。
でもやっと思い出した。
お父さん、お母さん。
ピエールは死ぬ。
これで私や私の両親のようなピエールに人生を滅茶苦茶にされる人はいなくなる。
ようやく報われたね。
遠回りしたけど、私の目的は果たせたよ。
だから私の答えは、
「ううん、もう目的は達成した。ありがとう、ラウト」
そこには前のように辛そうな表情が消えた、満面の笑みがあった。
俺は彼女に何が起きたかは分からないが、彼女の中で何か変化があった事は察した。
「良かったね」
「ほんとありがとう」
ヒアはそういうとガクッと倒れ込みそうになる。
俺はそれを腕で支える。
安心して疲労が一気に回ってきたのか、ヒアは気を失っている。
そんな事をしている間にピエールはゴブリンに連れ去られていた。
用心棒も既に生きている者はいなかった。
だが、用心棒が魔物の数をかなり減らしてくれたお陰で、魔物は放って置いても次第に分散してくれそうだった。
これで、街に被害が出る心配はない。
俺はそれを確認すると、ヒアを背負って屋敷に戻った。
(あぁ、ヒアのこと穂花達に何て説明しようかなぁ)
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