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1章 幼女な神様との出会いと過去

6.過去の話なんだが②

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外には数十人の包囲が出来上がっていた。

突破しようだなんて思っていない。
この家の敷地を踏もうとする奴を刺し違えてでも返り討ちにする。
それだけがオレの出来ることだ。

包囲を構成している隊員の一人が斬り込んできた。
オレはそれを落ち着いて躱し、頭部の防具に全力でショートソードを振り下ろした。
その攻撃でその隊員は意識を刈り取られる。

魔物の攻撃すら防御できるその防具は硬く、貫くことはできないが、全力で剣を当てれば脳を揺らすことは容易い。

魔法は使えないオレだったが、剣の腕は誇れるものがあった。
同年代はおろか、それこそ大人相手でも負けることはなかった。

でもそれは一対一の話だ。
その圧倒的な人数差をひっくり返せるほどの力はなかった。

今度は3人がかりで来た。

拙いながらも連携をとって攻撃してくる3人に、オレは局所的に一対一を作ることで対抗する。
しかし、1人倒すと次のひとりが参戦して来て、どんどんとオレは疲弊させられた。

終いには、重装備の隊員が背後から押さえつけて来た。
ショートソードでは歯が立たず、あっという間に身動きを封じられてしまった。

そしてトドメとばかりに、魔法陣を展開した何人もの魔法使い達が、一斉にオレに向けて魔法を放った。


迫りくる炎や水の魔法。
もはやオレに成す術もない。
その身を固くして、訪れる痛みを待った。

異変が起こったのはその時だった。
魔法がオレに当たる直前、空中へ溶けるように消えてしまったのだ。

その出来事はオレは勿論、倒魔隊の人間をも困惑させた。


この時に気づくべきであった。

オレが魔法の素質を持っていながらも火、水、風、光、どの属性も使うことが出来なかった理由に。

火、水、風、光以外の属性が存在する可能性に。


『闇』という



隊員の困惑はすぐに危機感に変わった。
魔法使いたちは闇雲にオレに向けて魔法を放つ。

しかし、その魔法はオレに届く前に消えてしまう。


そしてある時、ついに異変は災厄へと変わった。

いきなり大量の魔法陣がオレの周りに現れたのだ。
その魔法陣からは凄まじい量の魔法が雨のごとく降り注ぎ、無差別に辺りを蹂躙していった。

気づけば家を包囲していた倒魔隊は壊滅していた。

当時は何が起きたか分からなかったが、今なら分かる。
闇属性の特性が暴走したのだ。

この意味を理解してもらうには、まず上位属性の特性というものを説明せねばなるまい。

光が上位属性と呼ばれるのには理由があった。
それが光属性の特性、『反射』と言うものだ。

効果はその名の通りで、光属性の素質を持つ者の魔力に、基本属性の魔法がぶつかると反射する。
つまり、相手が魔法で攻撃してくるだけで勝手に反撃してくれるのだ。
それは魔法を使える魔物との戦いにおいて、無類の強さを発揮する。

これこそ倒魔隊が異常なまでに光属性の素質があるルミエールに執着する理由であった。


そして闇属性にも上位属性としての特性があった。
それをオレは『吸収』と呼んでいる。

効果は基本属性の魔法を吸収してその魔力を自分のものに出来るというものだ。
自動で反撃したりはしないが、吸収した魔力で攻撃すれば同じ事だ。

その特性が暴走した結果がこの惨状だった。

その事実を知ったのはもっと後だったが、その時にも確かな事が1つあった。
それはオレが何人もの命を奪ったこと。
それだけは理解していた。


「お兄ちゃん……?……ッ!」


いきなり外の音が止んだので、様子を伺うため顔を覗かせたルミエールは、外の惨状を見て息を呑む。


「これ……お兄ちゃんがやったの……?」


返答を聞く前からルミエールの声には、オレへの恐怖が入り混じっていた。

それはそうだよな。
虫さえ殺すことを躊躇うルミエールにとって、人を殺してしまったオレが、どれ程恐ろしい存在かは考えるまでもない。


「ごめんな……ッ……本当にごめんな」


言いかけた「酷いお兄ちゃんで」という言葉を飲み込んで、ただ謝った。
オレにもう兄を名乗る資格なんてない。
そばにいる資格さえないのだろう。

オレは逃げた。
遠く、できるだけ遠くに。
もう二度とルミエールと出会ってしまう事がないように。

たったひとつの守るべきものさえ、オレは守りきる事が出来なかったのだ。
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