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2章 幼女な神様と2人旅

11.金を貯めたいんだが②

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「魔力を身に纏うか……」


鉱石を乗せたリアカーを引きながら呟く。

魔法を遠ざける様に生きてきたから、魔法に関する常識はほとんどない。
身体強化とか言うのも、女の口振りからして広く知られているものだと思うが、オレは初耳だった。

少しは魔法の知識も、持っていた方が良いかもな。
探し物に役立つ魔法もあるかも知れない。

そんな事を考えながら、行きの倍くらいの時間をかけて、工房に戻ってきた。

リアカーに積まれた鉱石を一度すべて地面に置く。


「一旦、ここに置いておくか」


まだ何往復かできそうなので、炉の方へ持っていくのは後でも良いだろう。
もし必要でも、ここにあれば誰か持っていくだろうしな。

そう言えば、スヴィエートはどうしてるだろう。
工房を少し覗いたが、姿は見えない。


「迷惑かけてないと良いが……」


そう呟いてオレは、また空になったリアカーを引いて鉱山に向かう。

鉱山に歩いている途中で、道の左右にある木々から甘い匂いがするのに気づいた。
さっきは気づかなかったが、この匂いはよく知っている。

リアカーを一度止めて、匂いの出所を探す。


「あった、あった」


草木をかき分けていると、コイン位の大きさの赤い実を見つけた。
これはスイートベリーという木の実で、匂いの通り、甘くて美味しいのだ。

ただ、ひとつ注意が必要なのが、とてもよく似た木の実がある。
それは食べると一瞬で吐き出したくなる苦さなのだ。

同じ場所に実がなっている事が多いので、安易に口にするのは危険だ。
オレも見分けられるようになるまでは、結構、苦い実を口にしてしまったものだ。
オレはそれをスイートベリーモドキと呼んでいるが、正式な名称は知らない。

オレは一粒だけ採って口に運び、またリアカーを引き始めた。


「あれ?もう戻ってきたんだ。何かトラブル?」


さっきと同じ場所で作業をしていた女は、戻ってきたオレを見て首を傾げる。

思ったより早く帰ってきたので、問題が起きたと思ったらしい。


「いや、さっきのは運び終わったから戻ってきただけだ」


「えッ、早くない!?だって1時間も経ってないよ!?」


「普通だろ」


「普通じゃないよ!体力も凄いんだね。あっ、でも助かるかも……。最近、運搬役が人手不足だったから鉱石が溜まってるんだよね」


作業着の女は思い出した様な仕草をした後、「ついて来て」と言って、トンネルのような所に歩いていく。
女がツルハシを肩に乗せて運ぶ後ろ姿は、この景色によく合っていた。


「これ全部なんだけど運べそう?」


女について行くと、掘り進められた穴の脇に鉱石が乱雑に積まれていた。
それもひとつではなく、そんな塊がいくつか並んでいる。


「かなりあるな……これだけあると、昼までに終わるかどうかだな」


「それって明日の昼?まさか今日の昼までに終わるなんて事はないよね……?」


「いや、今日のだぞ」


「マジですか……もうあと2時間しかないけど」


「2時間『も』あるだろ」


「ソウデスネ」


女は棒読みで同意すると、鉱石を運び出す準備を始めた。

そこからは、さっきと同じ作業だ。

リアカーに鉱石を積んで、工房に持っていく。
そして、また鉱山に戻ってきて、鉱石を運んで……

そんな事を何度も繰り返した。
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