翼を失った天使たちへ

蝶々

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追憶の天使 1

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淀んだ曇り空の中、時折涼しい風が横を通り過ぎた。夏も終わり秋へと季節が変わる。冬に備えた人も動物も植物も…せわしなく今を動く。何処となく寂しげなこの季節の中で。
「こんにちは。何処かお探しですか」
静寂を極めたある住宅街でその人は立っていた。メモのような紙と写真を握りしめて
「…人を探しているのです。とても大切な友人を」
何かを切実に求めるような彼は何処か人離れしていて。この町には似つかわしくないと感じた。けれど僕は『こんな人』を何人も見てきた。
「よろしければ、お話聞かせて頂けませんか。あなたのような人に僕は会ったことがあるのです。」
いきなり内側に入ろうとする見ず知らずの人間に彼は疑わしく目を潜めた。けれど…彼がそれを了承したのはそれほどまでに切実な思いがあるからだろう。自らを顧みないほどに。

場所を移動し僕らは小さな公園のベンチに腰を下ろした。少し寂れたこの町は人けがなく、公園にさえ子どもの声はない。けれど僕らにはそれが良かった
「…あれは多分随分昔のことでした」
彼は懐かしむように語り始めた。それは彼とその友人が出会い…共に歩んだ数日間の昔語り。何週間、何ヶ月間…何年間。そんなものではなく…たった数日間の物語だった。けれどそれは彼にとって忘れられないほどの大切な記憶になったのだ。
「私はこの町にある用事で来たのですが、そうですね。やけくそになっていたのです。自分自身に嫌気がさして。自らの役割を捨てたいと自棄になって…」
そう静かに笑う彼は遠くを眺めていた。彼が見ているのは…果たして『今』だろうか。
「私たちは決められた時間以内に仕事をしなければ罰を受けます。けれど…あの時の私は、もうどうでも良かった。罰を受けるのも別に…だけど『彼』は違ったのです。彼は路地裏で倒れていた私を助けに来た。罰を受ける前に私の仕事を請け負って私を連れ帰った。だから…結局私は仕事をしたことになり罰は受けませんでした」
何処か抽象的な話の内容に僕は耳を傾けた。『彼ら』の話はいつだって僕たち『人間』には理解しえない世界の話なのだ。
「その時の私は彼を責めました。放っておいてくれと怒鳴りもした。ほんとに情けない話です。とても大切な友人だったのに…。私は…彼が私を助けるためにしたことなんて目を向けてさえいなかった。後から知ったのです。彼がもう姿を消した後に…」
空虚を見つめる彼の眼差しと声には後悔と寂しさ、悲しみ…そんなものしか感じられなかった。
「彼は自らの仕事を放棄して…私の仕事を請け負ったのです。その結果彼は罰を追い…あの場所から追放されたのだと。知ったときにはもう遅く…自分がどれ程愚かだったのか思い知りました。既に去った友人の場所さえ分からない」
この圧倒的な存在感は『彼ら』だからこその特徴。けれどそんなものがあっても…今はどこか声に抑揚がなくか細く。後悔の念が感じられるようだった。
「大切なものを失って初めて気づいたのです。もっとちゃんと生きていれば良かった。たとえ自らの何かに苛立ち…嫌気がさして反抗するとしても。もっと手段と方法を選んで入れば大切な友人を巻き込むことも無かったのかも知れない。あの空を…自由に飛べた時に戻れるなら…何処へでも探しに行くのに。今の私は…とても無力で。この足でたった一切れの紙で。友人を探すしかない」
握りしめる手に力が入るのが分かる。けれど…そんな中でも小さなメモ用紙にはシワも破れも汚れもなく、この薄い紙が彼にとってどれ程大切な物かを物語るようだと僕は思った。
「あの…差し支えなければお聞きしたいのですが、今『地上』では何かされているのでしょうか。ご職業など…」
巡り巡るのが運命なのだとすれば、この出会いもきっとそうなのだろう。出会うべき者は出会うべくして巡り合うのだと祖父はよく語った。そして、その出会いこそが僕の『巡りあい』なのだと直感が言う
「…いえ。最近来たばかりなのです。今の私にはこの目的以外…何もありません」
冷たい秋風が彼の金髪に近い茶色の髪をなびかせた。物憂げな顔に遠くを見つめるような空虚な瞳。こんな『者達』の拠り所を作るために…祖父は『あの場所』を作ったのだ。
「お名前もお聞きしてもいいですか?」

巡りあいて…出会いの果てにあるものを僕たちは『運命』という名をつけよう

「アスタナ」

僕が彼らに出会うことも必然であり、気づくことも必然。

「アスタナさん、僕のもとにいらっしゃいませんか?」

この巡り合いを僕は喜んで受け入れよう
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