Double✕Rose〜永遠の花たちへ〜

蝶々

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1 神の住む国

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「はぁっ…はっ」
静寂の中に荒い息が響く。人気の無いこの場所は少女が隠れるには絶好の場所だった。遠くには野太い声の男たちが声を荒げて走り周る音が迫って来ている。その男たちが探すもの…それはおそらく…
「おい!あのガキはどこいった⁉ったく逃げ足がはぇな…」
「頭、こんな場所に逃げこまれちゃぁ見つけきりませんよ。しかも今は夜…どこも真っ暗で探しようがない。出直すしか…」
「チッしょうがねぇな。行くぞ」
男たちの声はしばらくすると消えていった。それに安堵した少女は腰を抜かしその場に座り込む。震える手で口を押さえ息を殺しながら耳を澄ませた。いつ戻るか分からない敵から逃げる足を止めないために。周りに敵がいないと判断した少女は再び立ち上がる。痛む身体を動かして…夜の闇に紛れ少しでも自分を知らない場所へたどり着くために。
山を登り、崖を越え幾ばくの道を歩き続けた少女はある丘の頂でひと休みし、来ていたローブをとった。はらりと落ちた髪は月夜に照らされそれは美しく輝いていた


ーある行商人の馬車にてー
「おい、嬢ちゃん。見えてきたぞ。あれがクロイア帝国『神の住む国』だ」
長い旅もいよいよ終着点が迫っていた。あの日からどのくらい経っただろう。昨日のことのようにも思える『あの日』は遠いようでまだ近い。思い出せば胸は激しく痛み気持ちは沈んだ。
「あれが…クロイア帝国」
目の前に広がる帝国は、自分が見てきた世界とはまるで違う別世界だった。けれど…この場所は何処か懐かしく想い焦がれるような何かを感じる。それはやはり『神の住む国』そして…『神の一族』の原点だからなのだろうか
「おじさん!私、ここで降りるわ。お金は…」
「そんなのいい。俺もここに用があったんだ。ついでだ、ついで」
白髪の男は馬車を引きながら答えた
「ありがとう」
あの日…母さんに言われた言葉。そしてこのペンダント。それを頼りにここまできた。何世代にも渡ったこのペンダントは明らかにこの国の紋章を指している。ということはやはり…
「ここが私たちの故郷なんだね…母さん、みんな」
ペンダントを胸で握りしめ前を見る。苦しめられた私たちの日々。そしてついには壊され…私しか残らなかった。けれど…ここでなら見つけられるだろうか。私やみんなが苦しめられた『神の一族』という言葉の意味を。その理由を。
行商人が手続きを済ませ馬車を再びひいた。私はついにここまできた。クロイア帝国…母が最後に口にした国の名前。そしてもう一つ…それは
「ローズ…ごめ…んね。あなた1人…残して…」
途切れ途切れに話す母の言葉。その体は血に塗れ濡れていた
「私…はもう、あなたを守れない。ローズ…クロ…イア帝国に行きなさい…あ…なたの父のいる場所へ。彼なら…あなたを必ず守るわ…」
震える声でそう言うと、胸元からペンダントをだし私にかけた。不思議な形をしたそのペンダントは裏に紋章のようなものがあった。母の目から生気が消えていく。
「母さん…母さん!」
「……あぁ…逃げてごめんね。カイアス…どうかこの子をローズを守って…私たちの娘を…」
天に手を伸ばした母は最後にそう残し目を閉じた。それはいつもとは違う永遠の眠り。
母の最期を私は伝えたいのだ。あれほど母が愛した父という存在。私が知らない何か。きっとこの場所なら答えがあるはずだ


ーある王城にてー
ある男が城下を見下ろす
「カイアス様どうかなさいましたか?」
男は真紅の宝石がはめ込まれたペンダントを手に握りしめ遠く…愛しい者を探すように見ていた
「…いや、懐かしい気配がした気がしてな。それよりどうした」
男はいつもとは違う臣下の様子に問いかける
「先ほど、門の方から連絡が入りまして…真紅の髪をもつ少女が行商人と通ったそうです」
「赤の髪か…それは珍しい。それで?」
「はい…それが、その少女がある方にとても似ていらしたと」
臣下のたどたどしい答えに不信感がつもる
「はっきり言いなさい」
「はい。その…その少女が『メイア様』にとても似ているそうです」
そのひと言に皇帝は目を見開いた
「なに?」
その懐かしい名は、自らが最も愛し…そしてある日忽然と消えてしまった皇妃の名だった。あれから何年経ったというのだろう
「少女だと?」
「はい…幼い少女です」
メイア…ではなく、少女か。けれど…
「その少女をつれてきなさい」
「ここへですか」
「ええ…」
頭を抱えながら皇帝は答えた。頭をよぎるのは最悪の答えだ、けれど…それだけじゃないかもしれない。最悪は変わらなくても、もしかしたら。
皇帝はひどく感がよかった。だからこそ、この答えにたどり着くことが苦しかった。
赤い髪の…メイアに似た少女。他の誰も連れず1人でこの場所にきた。しかも臣下によると酷く傷心しているようだと。これを考えると答えは1つだった。少女がメイアの娘でもしかしたら…メイアはもういないかもしれない…その事実が
「それからあと1つありまして…その少女の瞳ですがカイアス様と同じ青い瞳だったそうです」

そう…メイアに私との娘が生まれていたという事実
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