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43美魔女

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 鹿島は六か国の連合軍と対峙するにあたって、見逃したことがないかを確認するために、タブレットパソコンに目を移すと、各防衛態勢の状態が表示されている。

問題点と指摘されていた事はすべて解決されていて、士気も上がっているようである。

 亜人協力国の国旗は銀河連合と同じとして、戦闘旗を陸戦隊桜部隊の隊旗と定めたのは、
鹿島と陸戦隊のわがままであった。

 コーA.Iからの報告は、各領地に派遣された反テテサ派聖騎士団の成果は、
良好な状態のようで、派遣を受けた領地国は、漏れなく傭兵の募集を行っているようである。

 たとえ何十万の反テテサ派の軍隊であろうと、すべてを打ち破れるが、
敵にはかなりの死傷者が出る事を避けられないだろうと思い、
無謀な反テテサ派の欲望のために多くの命が失われる事に、
鹿島はもどかしさと怒りが込み上げてきた。

 戦闘だけであるならばただ撃退して、諦めさせる事も可能であるが、テテサを聖人と認めさせる戦いでもあるので、なるべく犠牲者は少ない方がテテサへの信頼が膨らむだろうと思えた。

 コーA.Iに二十万の兵に対する、最小の犠牲で済む複数の戦術をシミレーションした結果では、選ばれた最小の犠牲戦術は矛盾に思えるが、敵を一堂に集めて戦闘意欲をなくすには、
最初の戦闘において大量の犠牲者を出すことであった。
 
確かに数に劣る亜人協力国の兵をもって、戦術的には各敵を各個別に撃退する事は、
最良戦術であるが、各個すべてをせん滅せざるを得ないからこの戦術は最悪である。
 
 亜人協力国兵はみんな多忙中であるのに、寝坊し続ける自分を鹿島は申し訳ないと感じていた。

 鹿島は、老樹霊の楯を自認するパトラと朝食中にコーA.Iからの報告が入った。
「サンビチョ王国の皇太子ゲルグがクーデターを起こして、サンビチョ王国の国王を宣言しました。前国王は捕らえられ、幽閉されたようです。」

予想された結果であるが、サンビチョ王国の王女イアラがどのような行動を取るのか分からないが、亜人協力国の取るべき結論は出ていた。

「イアラ王女は、どうすると思う?」
と、パトラに尋ねると、
「あの娘に結論が出せるかしら?」
「イアラ王女に会うしかないか。」

 再びコーA.Iから、ムースンの配下によりヘレニズ公爵を保護したので、今夜にもサンビチョ王都を脱出するとの連絡が入った。

 鹿島は、作戦室でパトラと二人で、マティーレから元陸戦隊ホルヘの事を聞き出し、話題に花を咲かせていると、テテサとマーガレットに付き添われたイアラ王女が現れた。

 テテサとマーガレットは、イアラ王女を囲むように着席した

「イアラ王女殿、新国王の誕生で、同盟の件は白紙になったと思いますが、如何ですか?」
「父上に、同盟合意賛否を訪ねるために、既に伝令を向かわせていたのですが、まだ帰ってこないので、伝令者が帰って来てから、相談させていただきます。」
「その後は?」
「分かりません。兄上様の出方がわからないのです。」

 パトラは、マーガレットに亡命政府樹立を進められたが、
「叔父上様が保護されていると伺いましたので、叔父上様を待ちます。」
 
今はまだ、イアラ王女に結論は出せないようであるが、マーガレットとテテサにより、
既に次の布石は打たれていた。

 イアラ王女は打ち日枯れた様子で、一人淋しいげに肩を落として退席した。
イアラ本人の心の中は、かなりの混乱であろう。
 
 鹿島は自室に戻り、タブレットパソコンを開いた瞬間に、赤い微粒が鹿島の周りへ現れて、鹿島に吸い寄せられるように鹿島の鱗甲冑に取り付いた。

「もうすぐ新月なので、その日にお会いする予定でしたが、お知らせしたいことが起きました。」
と、突然裸姿の老樹霊が現れた。
「此れは、突然の老樹霊様、何用で現れたのですか?」
と、鹿島は気を落ちつかせる様に大きく息を吸いながら尋ねた。
「老樹霊と呼ばれるのは嫌いです。森の美魔女とお呼びください。」
「森の美魔女?」
「老樹と呼ぶのは失礼でしょう。」
「老樹から生まれたのでしょう。」
「月日を重ねただけです。」
「私の質問に答えをいただいていませんが。」
「黒雀が私たちの仲を、闇の樹海で広めてしまい、他のブス魔女達があなたに興味を持ったようです。」
「ブス魔女、、、達。複数ですか?何か防ぐ方法がございますか?」
「私にそれを聞く!」

スッパ状態の老樹霊の頭の回転は、良いようである。
「それよりも、私の虜になってみない。最高の快楽を提供できるわよ。」
「無理です。今の彼女で最高に満足しています。」
「どうかな~、ためしてみない~。」
「嫌です。間に合っています。」

 ドアが突然に開き、運営委員会の四人娘が乱入してきた。
「性懲りもなく、また現れたな老樹霊!」
と、パトラは発動させた尾刃で老樹霊に切りかっかったが、
「またね~。」
と言って、老樹霊は消えてしまった。

「昼間に現れるとは、ふざけた霊だ。」
と、パトラは興奮したように怒っている。
「昼間に現れた理由があるはずです。閣下はどう思いますか?」

テテサは静かな声で囁いた。
「老樹霊と呼ばないで、美魔女と呼べと言って、闇の樹海に居るブス魔女達が、俺に興味を持ったようだと、知らせに来たようです。
退治方法を教えてくれと言ったが、知っているようだが、答えてくれなかった。」
「退治方法があるのですね。」

 鹿島の部屋に静かな沈黙が続き、
「最悪の樹海の大きさは、十万キロ㎡でしょう。ナパーム弾で焼き払いましょう。」
と、マーガレットが叫んだ。
「あ!それいいかも。魔物も焼肉にして、跡地は耕作地にして、一石三鳥よ!」
と、パトラはマーガレットに賛成した。

一同が、こぶしと奇声を上げた時、
「ごめんなさい。二度とガイア様に愛された彼に取り付きません。樹海を焼き払わないでください。」
と、土下座した老樹霊が再び現れた。

 テテサは直ぐに老樹霊に近づき、
「では、此れからは私達に協力して貰います。此れは脅しです。」
「聖者様のお言葉とは思えない、脅しですか?」
「ガイア様のお心を理解しないものは、滅すべしと思っています。」
「協力します。」

 そこで鹿島は、パトラに今後美魔女との仲を、誤解されないように、
「一つ、次に現れるときは、身を覆う事、裸は許さない。
二つ、魔物以外のけだものに命令して、我らに協力させろ。
三つ、魔物の動きを知らせろ。
四つ、呼び出されたら、すぐに駆け付けろ。今はこれだけだが、命令に従はなければ、樹海ごと焼き払う。」

鹿島はパトラに何かと誤解がある、老樹霊との関係を否定する為に、
惜しいと思いながら、鹿島は老樹霊の裸体姿をあきらめざるを得なかった。
「報酬は?」
「ない」
「いつもかわいそうな私、憐れんでください。」
「無理」
「解りました。呼び出すときは、最悪の樹海美魔女とお呼びください。」
「此れからは、最悪の樹海美魔女と呼ぼう。」
「心から美魔女とお呼びください。」

 周りの全員があきれ顔で、鹿島達の掛け合い漫才を聞いていたが、
「美魔女さん、もう帰って!」
と、しびれを切らしたように怒り顔のパトラは、鹿島達の掛け合い漫才を二人で楽しんでいると感じて叫んだ。

 鹿島は目の前にぶら下げられていた好物を、パトラの声で落としてしまったように感じていた。
 
 テテサとマティーレが帰った後で、マーガレットとパトラが台所脇のテーブルで、時々咎めるように刺す目つきを鹿島に向けながら、何やらひそひそ話を始めた。

 マーガレットとパトラ二人は、最早最悪の樹海美魔女からの色仕掛けを防ぐのは困難であり、更に、闇の樹海の他のブス魔女達まで出てくると、厄介だとの認識を持ち合っていた。

 二人の結論は、鹿島に選んでもらう事しかないと、言葉では確認し合ったが、だが、互いにどんなことをしてでも奪い取る決意を持ったようでもある。

 マーガレットとパトラは、ソファーに座っている鹿島の両脇に腰掛けると、互いに鹿島の手を握りしめた。

 鹿島は、ただならない事態だと感じて、二人のうち一人を選ぶことは、最早困難であり無理があるのでこの場から逃げ出したい心境であった。

 二人は、固まってしまった鹿島に気づくと、二人は申し合わせていたように、共に立ち上がって部屋から出ていった。

 鹿島は、胸の高まりを抑えるように、二人に無視されている様子なので、これ幸いとコソコソと隠れるように居間のソファーに埋もれながら、タブレットパソコンに映し出された、各王国の動き方を注視すると、サンビチョ王国を含めて、
パンパに面した四か国の動きが激しくなっている。

 傭兵を募集していたのは、他にも二国あったのだが、パンパに出るには他国領土を越えなければならないが、二国共に兵の動きが遅いし、戦闘前夜とは思えないほど活気がない。

 傭兵を募集した理由が他にあるならば、答えは一つ、空き家狙いであろう。
その一つが、サンビチョ王国と境界を挟んだ、傭兵を募集して軍勢を整えたのが、新興国家カントリ王国である。

 亜人協力国から攻め入る予定のヒット王国は、サンビチョ王国とだけの境界なので、
戦闘中や戦後の憂いはないが、以前の高原の戦いのおいては、サンビチョ王国を越えて、
新興国家カントリ王国は攻め込んで来た過去があり、油断はできないであろう。

新興国家カントリ王国軍の配置を分析すると、わざわざ以前みたいな他国の領土を越えての進行よりも、手薄なサンビチョ王国に間違いなく、攻め入るであろうと思われる。

 軍備を整えて活発に動いている、他の二カ国が接しているのは、近隣一のムー帝国である。

パンパまでは遥かに遠いので、ムー帝国は間違いなく、反テテサ派の崩壊後、
手薄な二カ国に攻め入るであろう。

ただ反テテサ派が勝利するかもしれないので、カントリ国とムー帝国の軍事行動は結果待ちであろう。

 反テテサ派が勝利凱旋した暁には、勢力均等が変わることになるだろうと、
カントリ国とムー帝国は警戒している様子で、互いに連絡し合っている様子である。

 ヘレニズ公爵の亡命を受け入れるために、ムンクを加えた四名の運営委員と鹿島で、会合を開いた。

 ヘレニズ.公爵の横には、イアラ王女が控えている。
イアラ王女は兄である、新国王に敵対することをためらっている様子である

「ヘレニズ公爵の亡命は、受け入れましょう。臨時政府を興す予定はありますか?」
「現時点では、それが最良の案だと思います。」
「旗頭は、どなたですか?」
「イアラ王女様にお願いしたのですが、サンビチョ王国同士の戦いを嫌がっています。
私が旗印となり、ゲルグ新国王と対峙するつもりです。戦勝の暁には、幽閉されている前国王に、復帰してもらいます。」
「分かった。我が兵を貸しましょう。」
「ありがとうございます。」

「兄上様を説得します。兄のやり方は無謀で摂理のない行動です。道理を訴えますれば、理解していただけます。」
「イアラ王女様それは、難しいかもしれません。」

ヘレニズ公爵は何とかして、イアラ王女を旗印としたい様子であるが、
「なぜだ、兄上様は、父上を尊敬しています。何かの原因で心が曇って、周りを見る余裕が無いだけです。原因を突き止める事が出来たら、対策はあります。」

 イアラ王女は、皆が善の心で動くと、思っているようであるが、
「新国王は、前国王を幽閉したのです。今は慢心から傲慢に変わってしまいました。
戦いに敗れて気が付くでしょうが、一戦交えるまで今は何を言っても通じません。」

 イアラ王女にすれば、ゲルグ新国王に関しては、善悪判断とか損得勘定で動いたのではなくて、自分のわがままと、おだてられての慢心だけであろうと思うが、傲慢に変わったとのことと、国の運命を掛ける事が理解できないのであろう。

 亜人協力国としては、サンビチョ王国の処置は、戦後処理での状況で判断することにして、イアラ王女とヘレニズ公爵には、現状では何の対策もできないので退席してもらい、
鹿島はムンクには彼らの相談に乗り、必要なものを用意してやるよう指示した。

 コーA.Iからの報告では、ムー帝国とカントリ王国の兵の動きは、やはり二国とも同じ判断をしているようで、ムー帝国とカントリ王に侵略される国の、
亡命政府を作らなければならないと、全員が認識していた。

 コーA.Iから、緊急の知らせが入った。

 各反テテサ派の諸国連合が動き出して、二日後の昼には、神降臨街に集結出来ると、予測した。

 ヒット王国とすれば、カナリア街での戦闘は二日後の朝に行い、夕方までには鎮圧して、
翌日の神降臨街の戦いに参加して、戦利品の山分けに加わろうとするであろう。
神降臨街の戦闘は、三日後の朝から始まると仮定した。
 
 コーA.Iからの報告の中に、興味を惹かれる情報が入ってきた。
二日後の朝、爆弾低気圧が近づき、午後からは強い風と雨が降るらしい。

 もう一つは、三日後低気圧が過ぎた後、正午近くに皆既日食が起きるとの事である。

 皆既日食が起きると知らされたとき、鹿島とマーガレットは、顔お見合わせてガッツポーズをした。

「テテサは使徒の助けで、聖人として認められるわ。」
と、マーガレットは両手を挙げた。

 鹿島とマーガレットの興奮を、テテサとパトラやマティーレは、不可解な面持ちで眺めている。

「皆既日食とは、何?」
怪訝な顔で、パトラが聞いてきた。

「テテサが聖人であると、証明出来る事なのです。」

「コーA.I、皆既日食の説明をしてくれ。」
「皆既日食とは、恒星と衛星と惑星が、一直線上に並ぶことです。」
「恒星、衛星、惑星、何?」
「恒星は太陽で、衛星は月で、惑星はこの大陸です。」

「テテサとの関係は?」
「太陽が頭上にあるけど、夜になります。太陽が月に隠れて、五分間だけ、大陸に光が届かなくなるからです。」
「太陽に月が重なるだけで、夜になるぐらい、暗くなるの?」
「月の影が、大陸全体を覆いますと、光が届かず闇夜です。」

マーガレットは立ち上がり、
「反テテサ派の司祭が、嵐と闇を引き連れて来た事にして、その後にテテサが使徒を使って闇を払うのです。」

「嵐は悪魔の性格で、闇はカオスの始まりと位置付けるのですね。」
と、テテサは理解した。

テテサの言葉で、みな理解した様子である。
 どのように演出するか、皆の議論が始まったので、鹿島は退室した。
 
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