The Backrooms イチカの場合

安川某

文字の大きさ
2 / 4
1章

FrontroomsからBackroomsへ②

しおりを挟む

 そう言って歩みを進めてみたものの、やはりというか、覚悟はしていたつもりだったけれど、このフロアが恐ろしく広いことを実感する。

 表面上はどこか企業が退去したあとの古いオフィスフロアか、あるいは大きなストアの地下に広がる従業員用のバックオフィスのように見える。
 でも本物のそれらとは違う、確かな違和感のようなものがこの空間にはある。

 その正体について少し考えてわかった。
 この黄色い壁に囲まれた古臭いフロアの風景は、まるでコピーアンドペーストをされて作成されたかのように画一的で、不気味なほどに無機質なのだ。
 誰か人の意志と意図があって設計されて作られたというよりも、”機械が自動生成している最中にバグってしまってできてしまった”、そんな表現がしっくりくるような異質な空間。

 それでも、the Backroomsにあるとされる数々の階層に比べたら、入り口であるこのLevel 0は最も攻略しやすい部類に違いない。
 それほどにおそろしいフロアの数々がこの迷宮のようなthe Backroomsには存在するとされている。

 Level 0を攻略するのにどれくらい時間がかかるかはわからないけれど、なんとかして階段を探し出さないと。

 十数分も同じような景色のフロアを歩き続けたとき、何かが聞こえた気がして私は足を止めた。

 その音に耳を済ませる。

 人の声に聞こえる。アユミかと思ったけれど、違う。これは男性の声。

 なんて言っているのかわからない。でも、徐々に大きくなっている気がする。

 でも、聞き取れるようになってきた。これは日本語じゃない……英語?

「Can you hear me?」

 そう言っているように聞こえる。意味は確か、「私の声が聞こえますか?」。

 誰か男の人がここに迷い込んできている?

 男の人の声は、何度も「Can you hear me?」と呼びかけている。
 声も段々と大きくなってきている。

 違う。声が大きくなっているんじゃない。

 近づいてきているんだ。

 それに、ああ、クソ。

 母が聞いたらいつものように怒られそうなそんな言葉が思わず胸のうちに浮かんできた。

 近づいてきてようやく気づいた。

 ただ同じ言葉を繰り返しているだけじゃない。
 声の強弱まですべて一緒。

 人間ならたとえ同じセリフでも口にする度に微妙にアクセントが異なるものだが、これは違う。

 まるで機械の音声のように不気味なほど均一な音声で、Can you hear me?と繰り返している。

 これは人間の声じゃない。

”つるのような手足を持ったエイリアンのようなものや犬のようなものなどがいるという情報もあるが未検証である”

 人間でないのだとしたら決まっている。
 the Backroomsに潜むとされる化け物──エンティティだ。

 おそらくこっちに気づかれている。人間の言葉で呼びかけることでこちらの足を止めようとしている。
 なんとかして逃げないと。

 歩速を早める。今日ほど制服にローファーを履いていたことを恨めしく思ったことはない。
 例えカーペットの床だとしても足音が響いてしまう。

 その足音に答えるようにCan you hear me?の声が背後から近づいてくる。

 出口、出口はどこ。

 もし床に穴があったとしたら、どうする?

3,Level 0 の内部で階段を降りたり穴に飛び降りたりすると、 Level 1 に移動する。

4,Level 0 の階段を進むと、 Level 1 η に移動することがある。

 おそらくLevel 1 に移動する。
 でも最初の予想通りあゆみが階段に向かっていたのだとしたら、私がLevel 1 ηに転移する可能性が0になってしまう。

 階段、階段を探さないと……。

「行き止まり……!」

 私は曲がり角の先に広がる空間を見て立ち尽くした。

 その部屋は来た道を除いて壁に囲まれており、それ以外に他の部屋に続く道はなさそうに見えた。

 私は急いで元来た道を引き返そうと振り返ると、あるものに気づいた。

 壁に穴が空いている。

3,Level 0 の内部で階段を降りたり穴に飛び降りたりすると、 Level 1 に移動する

 しかし、その仄暗い穴の先に、たしかに下へと続く階段のようなものが見えたのだ。

「……階段!」

「Can you hear me?」

 一際大きなその声に私がゆっくりと顔をあげると、それはそこにいた。

 来た道の角からこちらを覗き込むように顔を覗かせたそれ。

 細長く黒いつるか針金でできたような不気味な人間と目が合うと、それは壊れたスピーカーから声を出すような割れた荒々しい音を発して吠えた。

「Can you ボッアッア”ア”ア”ア”ア”」

 私は立ちすくみそうになるのを必死にこらえ、飛び込むようにしてその壁の穴に入り込むと、狭い階段を転がり落ちるようにして下りた。

 すぐに行き先は光の届かない真っ暗闇となり、足をもつれさせ倒れ込んだ先に、新たな光景が広がっていた。

 私の記憶が正しければ、Level 1: "The Habitable Zone" (生存可能領域)にたどり着いたのだ。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

きさらぎ駅

水野華奈
ホラー
親友から電話があった。 きさらぎ駅という場所にいるらしい… 日常の中の小さな恐怖が今始まる。 触れてしまったが最後。 二度と戻れない。

【1話完結】5分で人の怖さにゾッとする話

風上すちこ
ホラー
5分程度で読める1話完結のショートショートを載せていきます。主に、ヒトコワなホラー話です。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

葬祭会館で働いて

夕暮
ホラー
一級葬祭ディレクター 葬儀司会者として現場に立ち続け、実体験のホラーを書いてます 煎茶道師範 茶道恋愛小説

【完結】大量焼死体遺棄事件まとめサイト/裏サイド

まみ夜
ホラー
ここは、2008年2月09日朝に報道された、全国十ケ所総数六十体以上の「大量焼死体遺棄事件」のまとめサイトです。 事件の上澄みでしかない、ニュース報道とネット情報が序章であり終章。 一年以上も前に、偶然「写本」のネット検索から、オカルトな事件に巻き込まれた女性のブログ。 その家族が、彼女を探すことで、日常を踏み越える恐怖を、誰かに相談したかったブログまでが第一章。 そして、事件の、悪意の裏側が第二章です。 ホラーもミステリーと同じで、ラストがないと評価しづらいため、短編集でない長編はweb掲載には向かないジャンルです。 そのため、第一章にて、表向きのラストを用意しました。 第二章では、その裏側が明らかになり、予想を裏切れれば、とも思いますので、お付き合いください。 表紙イラストは、lllust ACより、乾大和様の「お嬢さん」を使用させていただいております。

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2026/3/14:『じぶくろ』の章を追加。2026/3/21の朝頃より公開開始予定。 2026/3/13:『ばいとのめんせつ』の章を追加。2026/3/20の朝頃より公開開始予定。 2026/3/12:『おちてくる』の章を追加。2026/3/19の朝頃より公開開始予定。 2026/3/11:『いけのこい』の章を追加。2026/3/18の朝頃より公開開始予定。 2026/3/10:『はやいちゅうしょく』の章を追加。2026/3/17の朝頃より公開開始予定。 2026/3/9:『わたぼこり』の章を追加。2026/3/16の朝頃より公開開始予定。 2026/3/8:『ほうもんしゃ』の章を追加。2026/3/15の朝頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

処理中です...