性悪聖者と悪魔のしもべ

ハリエニシダ・レン

文字の大きさ
2 / 18

聖者とのキス

しおりを挟む
「………あんたに俺を、抱いてもらおうと思ってな…」

俺がそう言うと、聖者は眉をひそめた。

「どういうことだ?」

まあ、そうだろうな。
俺は男。聖者も男だ。

「あんたは神の代理人だ。そのあんたが穢れれば、この地に対する神の力が弱くなり、俺の仕える方々が地上に出てこられるってことさ」

「………おまえ、悪魔のしもべか」

「ああ、そうだ」

険しい顔になった聖者に頷いて、ニヤリと笑ってみせた。

気分がいい。やっと一人の人間として認識されたような気がする。
さっきまでの、自分に救いを求める人間を見るような変に優しい目つきは、なんとなく見下されているようで気に食わなかったから。

「だから俺は、あんたを誘惑しにきたんだ」

唇が触れそうなほどに顔を近づけて囁いてやった。
聖者というくらいだ。きっと今まで女とだって、その手の事をしたことがないに決まってる。
その証拠に顔がみるみる赤く…

…ならないな?
驚きすぎて反応が返せないのかもしれないな。

予想とは違う反応だが、気にせず聖者に俺の顔を見せつける。
整っていると褒められ、時にトチ狂った男に「誘ってるんだろ?」と押し倒されかけることもある顔を。
睫毛が長く鼻筋は細く、切れ長の目に薄い唇。日にさらされても色の変わらない白い肌。

筋肉のつきにくいひょろりとした体型も相まって、時に女扱いされるこの顔は好きじゃない。
けれど今は都合がよかった。
聖者を誘惑するという目的においては。

こんな顔でも俺は男だ。
神の代理人である聖者が男を抱いたりすれば…どうなるかは想像に難くない。きっと聖者はその聖性を失い、地上への神の影響力は落ち、この世に悪魔や魔物があふれかえる。
悪魔たちも、多分そうなるんじゃないかと言っていた。だからきっと、そうなるに違いない。
…そうしてみせる。


「俺を誘惑…か。どうするつもりだ?」

落ちついた表情で俺を見上げる聖者の上に、脚を開いてまたがった。二人分の重みに抗議するかのように、ギシリと椅子が軋む。

聖者の顔が至近距離にある。
女顔の俺とは違う、整ってはいるけれど男らしい顔。

…俺もこういう顔に生まれていれば……

思い出したくもない過去を思い出して、眉間にシワが寄る。

「……こうするんだよ」

俺と聖者の唇が重なり、ちゅっと音が鳴った。
…俺の初めてのまともなキス。
キスどころか、俺は身体の全てをこの男に捧げなければならない。
この男を、堕落させる為に…。


夢の中でなら、悪魔たちに色々されてきた。
それこそ身体の隅々まで、散々いいようにされてきた。
けれど生身の男とこういう風に触れ合うのは、酔っ払いに無理矢理キスをされた経験くらいしかない。その時は怒りしか湧かなくて、思いきりぶん殴ったけど。

聖者とのキスに嫌悪を感じなかったことに驚きつつも、もう一度唇を触れ合わせた。

ちゅっ…

…意外と悪くないかもしれない。

そっと重なった唇を離すと、聖者が目を丸くしていた。
きっと初めてのキスだったのだろう。
なんとなく優越感で口角が上がる。
もう一度…

そう思って唇を近づけた時、聖者の手が俺の後頭部を強く掴んだ。

「…乙女か」

「え…?」

イラっとしたような声に戸惑う間も無く、唇が熱いもので塞がれ、ぬるりとした何かが口の中に入ってきた。

っ…これっ…

夢の中で、悪魔やその眷属達にされていたのと同じキス。
舌を絡める深いキス。
どうしてこいつがこんなの知ってーー

「んうっ…」

そんな疑問も長くは続かない。
激しく絡められる舌に、思考がかき乱されていく。

っ…キスっ…夢よりずっと…ヤバいっ…

悪魔たちから言われていた事がある。
神の結界が人間界と魔界を隔てている所為で、悪魔たちは夢を通じてしか俺と接触できない。夢の中で触れるその感覚は、現実の十分の一くらいにまで落ちると。

でも…こんなに違うなんてっ…

正直甘く見ていた。
十分の一とはいえキスはキスだと。
どうせ大差ないだろうと。
けれど舌をねっとりと絡められるたびに、頭が蕩け落ちそうだった。

頭を押さえているのとは反対側の聖者の手が、シャツの裾から入ってくる。そして直接、背中を撫で回し始めた。

「んっ…んんっ…んぅっ…」

「反応は悪くないな」

ボソリと呟いた聖者の唇がまた重ねられる。
舌もだけど唇の感触も気持ちいい。
弾力のある程よい厚さのそれが、俺の唇を啄んでは吐息を吹き込む。

…ヤバい…なんか……キス…気持ちいい……

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

転移先で辺境伯の跡継ぎとなる予定の第四王子様に愛される

Hazuki
BL
五歳で父親が無くなり、七歳の時新しい父親が出来た。 中1の雨の日熱を出した。 義父は大工なので雨の日はほぼ休み、パートに行く母の代わりに俺の看病をしてくれた。 それだけなら良かったのだが、義父は俺を犯した、何日も。 晴れた日にやっと解放された俺は散歩に出掛けた。 連日の性交で身体は疲れていたようで道を渡っているときにふらつき、車に轢かれて、、、。 目覚めたら豪華な部屋!? 異世界転移して森に倒れていた俺を助けてくれた次期辺境伯の第四王子に愛される、そんな話、にする予定。 ⚠️最初から義父に犯されます。 嫌な方はお戻りくださいませ。 久しぶりに書きました。 続きはぼちぼち書いていきます。 不定期更新で、すみません。

暗殺少年執事と最強の乙女ゲームで王室ハーレム

西谷西野
BL
陰に生きる暗殺者一族の悪役令嬢ヒロインの弟に転生したルイス。 暗殺業から逃げるために引きこもって16歳、とある男の護衛を依頼された。 食べるものがなく、生きるか死ぬかの境目で護衛ならと依頼を引き受ける事になった。 それが罠だとも知らずに… 五人の神聖の子である王族の世話をする執事として潜入して、先輩執事達とも仲良くなる。 知らないこの気持ちは、恋…? ゲームにはなかった、もう一つのハッピーエンド。 ずっと幸せが続けばいいなと思っていた。 この世界の厄災の強制力は抗う事が出来ないものだとは知らずに… 王子・騎士・執事×暗殺一族の厄災の子 満月の夜、神聖と厄災はその真の力を顔を出す。

氷の檻に閉じ込められた月~兄上のすべては、私のもの~

春野ふぶき
BL
『兄上は私のものだ。魂も、肉体も。永遠に―—』 アーヴェント侯爵家の長男ライカは、妾腹として正妻に虐げられ続けてきた。 唯一の救いは、次期当主を目される異母弟カイエンの存在。 美しく聡明で、氷の騎士と呼ばれる彼だけは、常にライカの味方だった。 だが、その愛情は兄を守るものではなく、深く歪んだ執着だった。 母を排除し、兄を囲い込み、逃げれば鎖で捕らえる。 そしてついに、ライカの心身は限界に追い詰められていく。 ——カイエンが下す「最後の選択」とは。 ふたりが辿る結末は、幸福か、それとも狂気の果てか。

従僕に溺愛されて逃げられない

大の字だい
BL
〈従僕攻め×強気受け〉のラブコメ主従BL! 俺様気質で傲慢、まるで王様のような大学生・煌。 その傍らには、当然のようにリンがいる。 荷物を持ち、帰り道を誘導し、誰より自然に世話を焼く姿は、周囲から「犬みたい」と呼ばれるほど。 高校卒業間近に受けた突然の告白を、煌は「犬として立派になれば考える」とはぐらかした。 けれど大学に進学しても、リンは変わらず隣にいる。 当たり前の存在だったはずなのに、最近どうも心臓がおかしい。 居なくなると落ち着かない自分が、どうしても許せない。 さらに現れた上級生の熱烈なアプローチに、リンの嫉妬は抑えきれず――。 主従なのか、恋人なのか。 境界を越えたその先で、煌は思い知らされる。 従僕の溺愛からは、絶対に逃げられない。

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

病み墜ちした騎士を救う方法

無月陸兎
BL
目が覚めたら、友人が作ったゲームの“ハズレ神子”になっていた。 死亡フラグを回避しようと動くも、思うようにいかず、最終的には原作ルートから離脱。 死んだことにして田舎でのんびりスローライフを送っていた俺のもとに、ある噂が届く。 どうやら、かつてのバディだった騎士の様子が、どうもおかしいとか……? ※欠損表現有。本編が始まるのは実質中盤頃です

過保護な父の歪んだ愛着。旅立ちを控えた俺の身体は、夜ごとに父の形で塗り潰される

中山(ほ)
BL
「パックの中、僕の形になっちゃったね」 夢か現か。耳元で囁かれる甘い声と、内側を執拗に掻き回す熱。翌朝、自室で目覚めたパックに、昨夜の記憶はない。ただ、疼くような下腹部の熱だけが残っていた。 相談しようと向かった相手こそが、自分を侵食している張本人だとも知らずに、パックは父の部屋の扉を開く。 このお話はムーンライトでも投稿してます〜

処理中です...