【完結】なにぶん、貴族の夫婦ですので

嫉妬

そんなある日、たまたまダンが屋敷のメイドと親しげに話しているところを見かけた。
まだ十代の、若くて可愛い女の子。
憧れ混じりの目で、頬を上気させて私のダンを見上げている。ダンも何だか楽しそうでーー

「ダン！」

気づけば、鋭い声でダンを呼んでいた。
私の声に、弾かれたように姿勢を正し、慌てて仕事に戻っていくメイド。
不思議そうな顔をしながら、足早に私の元へと戻ってくるダン。

「どうかされましたか？奥様」

首を傾げられて、かぶりを振った。

「なんでもないわ」

「…そうですか」

…私は今、あのメイドに嫉妬した

そう自覚して、頬が熱くなる。
…こんな、恥ずかしい。
でも、

ダンを他の女性にとられたくない

そうはっきりと自覚した。
俯いて赤くなった顔を隠す。
鼓動が速い。

不意に、ダンが私の耳元に口を寄せた。

「お部屋へ戻られますか？お嬢様」

いつもと違うトーンの声に驚いて、ダンの顔を振り仰いだ。顔の半分が影に隠れたダンが、私を見下ろしている。
その視線の強さに、ビクリと身体が震えた。

今、二人きりになったら………

本能的な恐れを感じて、気づけば首を横に振っていた。

「…いいえ、もう少し外の空気を吸っていたい気分だわ」

息苦しさを感じて喘ぐ。
ダンは、苦笑して身を離した。

「そうですか。では、お茶の用意をして参りますので、あそこの東屋でお待ちいただけますか？」

木の影になった、けれど遠目からも中の様子が見える東屋を指差されて頷いた。

「…ええ………」

掠れ声で返事をした私に小さく笑って、ダンは厨房の方へと去って行った。