太陽と遊ぼう

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 まずは全ての組のヘルプとして雑用を専らこなした。
 子供と遊んだり布団を出したり紙芝居を用意したり。
 一日は早かった。
 すぐに日が落ち、子供たちが次々お迎えの保護者に連れられ帰っていった。

 人数が減っても子供の世話は終わらない。
 大広間でボールを片付けて、腰を伸ばしてため息をついた時に玄関から子供の絶叫が響いた。

「いや――――っ!!!!!」
 
 慌てて玄関に走り見渡したが人影がない。
 あれ?と途方に暮れていると
「いたっ……!」
 と今度は大人の高い声。
「だ、誰?」
 反射的に答えると、バタバタという足音と共に子供が泣きながら外から駆け込んできた。
「助けて……!」
 子供が両手を広げて奈々子の膝元に飛び込んできた。
 この子は、朝と表情が一変しているが、オレンジ組の健介君だ。
 お迎えはあの巨大なお父さんが来ると本人が行っていたはずだが、まだ来ない……?

 そしてその後、ゆっくりと大人が玄関に入ってきて、無言で健介の両肩を掴まえた。
 一連の行動があまりに堂々としていたので奈々子も唖然としたまま、健介の体を手放した。
「いやだ――!!!!」
 再びの健介の絶叫に我に返り、また慌てて健介の体を奪い返し、相手の女に言った。
「何ですかあなたは!何のつもりですか!」

 この女が誰なのか想像しようとした。
 ここまで拒絶するのなら母親ではない。
 例えば遠い親戚、例えば父親の彼女、例えば誘拐犯、いずれにしてもこの子を渡すわけにはいかない。
 あの巨大な父親が自分で迎えに来ると言っていたのだから。
「警察を呼びますよ!」
 それと多分、この女がちょっと見かけないほど美しい顔をしているから不快でもあった。
「出て行って下さい!」
 すると女は、首を傾げて不思議そうな顔をして訊いた。
「新しい先生?」

「あら、秋ちゃん。お迎え原田さんじゃなかった?」
 園長が奥から現れ、奈々子を見てから女を見て言った。
「そうなんだけど、急用ができたんだって。浩一」
 女が美しい顔で微笑み、園長と対等に話している。挨拶も抜きだ。
「ほら健介君。秋ちゃんと帰らなきゃダメよ。あなたはいつも泣き叫ぶわね」
 ほら!と美しい女は乱暴に健介の耳を引っ張った。
 プーンと膨れてから健介は奈々子を振り返り、
「じゃあね、先生」
 と言って、女を置いて走り出した。
「健介!あ、それじゃ、お世話様でした!」
 女も、健介ー!!と叫びながらその後を追った。

 しばらく呆然とした奈々子が、去ろうとする園長に慌てて訊いた。
「あ、あの、今の人、あの巨大なお父さんと、」
「巨大なお父さん?原田さん?まぁ、確かに巨大なお父さんね」
 園長が面白そうに笑った。
「ご夫婦ですか?」
 ご夫婦?!と更に園長は笑った。
「一緒にお住まいだけど、夫婦じゃないわねぇ。健介君は父子家庭なのよ」
 父子家庭……。
「あのお父さんと、」
「そう。父一人子一人ね」
 父一人子一人。父子家庭。
 ないわけではないが、母子家庭に比べると圧倒的にマイナーだ。
 幼児育成には女の力が必要だとされているからだ。
 きっとそのためにあの女が同居している?
「一緒に住んで?でもそれじゃどうしてあんなに嫌がるんですか?」
「ね。お父さんを取られるとでも思っているのかもね」
 そして園長が奥に戻っていった。

 奈々子は複雑な思いで立ち竦んだ。
 父子家庭に、妻ではない女が一緒に住んでいる。
 父子家庭というだけで子供への負担は大きいのに、そこに父の愛情を奪いかねない他人の女が同居する。
 健介の不憫な状況を思い、奈々子は勤務初日から世間を少し知った。
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