ARROGANT

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翌月曜日

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 ベンツに戻り、やっと自宅に向けて車を走らせる。高速に乗ったのはもう正午過ぎ。
「お腹空いたよねー。どこか寄ろうよー」
 君島がぐずりだす。
「大きいSAまでもう少し掛かる。待てないのか?」
「大きくなくてもいいわよ。私もお手洗いに行きたいわ」
 朱鷺母の突然の要望に、原田はしょうがなく車線をまたいで近くのPAに入った。

 原田以外の4人が車を降りて、それぞれトイレや売店や自販機に向かった。
 原田は運転席に残ったまま、ずっと無視していた携帯を取り出し嵐のような着信の羅列を無視して、社長の番号を呼び出し繋げた。忘れていたが今日は月曜日だった。無断欠勤になってしまった。いまさらだが社長に事情説明しておこう。
 社長はコール一回鳴り終る前に出た。

『原田か!お前、原田か?!』
「……はい」
『やっとかよ!どんだけ電話したと思ってんだ!朱鷺もお袋も電話でねーし!秋ちゃんまで無視だし!』
「ああ、忙しかったんで」
『知ってるよ!知ってるけどよ!』
「知ってる?」
『お前!高速でやらかしただろ!』
「は?」
『つーかお前の家、今朝通ったら大変なことになってたぞ!』
「……?」
『俺、あんな騒ぎ初めて見たよ!祭みたいだ!』
「祭?」



 朱鷺母がトイレに向かい、君島と健介が売店で食べ物を物色している。
 朱鷺はコーヒーが欲しかったので自販機でドリップを待っていた。
 出来上がりのランプが点くのを待ちながら、遠くのテレビを見ていると、見慣れた家が映っている。
 しばらく考えた。何で見た家だろう。ドラマ?映画?有名人の自宅?ニュースで見た家?事件現場とか?
 そこまで考えて、朱鷺は首を振った。
 その見慣れた家の前に、見たことのある報道レポーターが立った。マイクを持って何かを語っている。
 朱鷺は首を振ったまま、ドリップの終わったコーヒーを放置して走り出した。



 売店でパンやつまみを選んでいた君島が、ふとスポーツ新聞の見出しに気付いた。

『高速道で感動の救出劇!』

 それを摘み上げ、手に取り、折り目を伸ばし、吹き出した。
 その大見出しの下には紙面の1/4もの大きさの、暗くて画素の少ないはっきりしない写真。
 それが切り取ったシーンは、雪の降る高速で原田が健介を抱いて立っている様。

 君島は、笑った。
 自分で仕組んだものの、君島本人は現場を見ていない。彼女のオンエアは聴いていた。だから健介が無事保護されたことは警察から連絡が入る前に知っていた。しかし何があったのか詳しいことはまだ聞いていない。こんなシーンがあったことも知らなかった。

 それから、笑顔のまま、首を捻った。

 え?これ、新聞だね?全国紙だね?
 そう再確認してから、また画素の少ない写真の原田を見た。
 健介を抱いて、視線は斜め前。画素が少なくても、当然いつもの男前は隠れるものじゃない。

 あれ?これって、え?これって、
 君島がその衝撃に目覚めかけていると肩を叩かれ、振り向くと朱鷺が焦った様子で前を指差した。
 そこには、テレビ。

 映っているのは、原田。
 素人の撮った映像のようで手ブレがひどいものの、原田であることははっきりわかる。


 雪の降る中、病院の出入り口で健介を抱いて急いでいる。
 そして振り向きざまに怒りの視線を向け、その瞬間映像が大きくぶれた。
 その焦点が再び原田の顔に合うと、恐ろしいほどの冷酷な表情でそれを見下ろし一言言い捨てた。


『触るな』



 君島はやはり、吹き出した。
 こんなことだったのか。そりゃ、あれだけの入り待ちがあるはずだ。


 そして健介も二人の元に走ってきて、テレビを指差して慌てた。

「ねぇ!秋ちゃん!うちが映ってる!見た?見た?」
「うち?見てないよ。なんでうち?」
 君島がそう言っていると、画面は現在の原田邸前に切り替わった。

『無事救助された少年はさきほど病院を出たことが確認されています。一家はもうすぐ到着することと思います』




 えー……。
 一家の到着って、僕たちのこと?



 笑顔を貼りつけたまま愕然とテレビを見上げる君島の袖を、健介がまた引っ張った。


「秋ちゃん!見て!あの人の後ろ!あの木の上!
 マックスだ!マックスが帰ってるよ!やっぱり帰ってきた!」

 レポーターの後ろの木の枝の間で、ぶさいくなブチ猫が不機嫌そうに尻尾を揺らしている。

「ね!やっぱりマックスもうちがいいんだ!早く帰ろう!マックスが待ってる!」


 健介が走り出した。
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