ARROGANT

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翌月曜日

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『ってわけで、今朝から会社にも問い合わせの電話殺到しててさ。業務に支障をきたしている』
「……すいません」
『うん。それで、今日戻るんだろ?てか、戻れるか?』
「戻りますよ」

 電話中の原田に構わず、戻ってきた4人が大騒ぎでドアを開けて乗り込んできた。

「父さん!テレビに出てたよ!」
「新聞にも載ってたよ。あの病院の騒ぎはこのせいだったんだね」
「家の前もずいぶん賑やかみたいよ」
「全然気付かなかったよね。昨日からずっと大ニュースだったみたいだよ」
「私ずっと温泉に入ってたからテレビなんかつけてなかったわ」
「僕も朱鷺ちゃんとずっと寝たり起きたりしてて全然知らなかった!」
「そういえば病院で注目されてるなぁって思ったんだよね」
「看護師も教えてくれたらいいのにね」
「妙さんがえらい剣幕で怒鳴るから言えなかったんじゃないですか?」
「そう?」

 そんな会話を聞かされて、原田も思い当った。ホテルのフロントとタクシードライバー。そういうことだったのか。

「父さん!マックス帰ってきてたよ!」
「マックスが帰ってきても僕らが帰れないよね」
「帰って家に入っても出られなくなるんじゃないかしら?しばらくうちに来てもいいわよ」
「朱鷺ちゃんの家?僕それでもいいな!」
 車内の会話が勝手な方向に進みだしたが原田が引き戻す。
「いや。帰る。絶対帰る」
 原田は通話を切らないまま、電話に向かっても宣言した。
「今日中に帰りますし、明日から出勤します」
『はいはい。運転気つけてな』
 社長はそう付け加えて通話を切った。


 原田も通話を切ってから、ハンドルに肘をついて呟く。
「……祭みたいだって社長が言ってたんだけど、どういう意味だ?」
「お祭り!上手いなぁ、ヤマちゃん!」
 君島が笑った。
「テレビつけたらいいわよ。秋ちゃん、そこの左のボタン押して」
 朱鷺母の言葉に君島がナビを切り替えた。


 映ったのは、現在の原田邸前。
 見たことのある事件レポーターが家を指差して何かをしゃべっている。その画面の端には別の局のレポーターが映り込んでいる。多くのスタッフが画面に入らないようにとしゃがんでいる。何台ものカメラが多少角度を変えて家を映している。家の前の道路は大人数のクルーと多数の機材と多数の車で埋まっている。
 確かにお祭り騒ぎだ。


「……う」

 原田が喉の奥から低い声を発した。

「ここに帰れると思う?」
「あれ?もうマックスいない!早く帰って探さなきゃ!」
「ほとぼりが冷めるまでうちに来てていいわよ」
「そうしない?ちょっとこれは大変だと思うよ」
「だめだよ!マックスがまたいなくなるよ!」

 ハンドルに両肘をついたまま、原田はため息をついた。
 そしてまた低く言った。


「帰ります。絶対あの家に帰りますよ」



 あの家に健介を連れて帰らないと、終わらない。
 その気持ちは変わらない。
 あんなお祭り騒ぎに妨害されようとも変わらない。
 あの家に健介を連れて帰る。
 原田のその決意は変わらない。



「あらそう。じゃあ頑張ってね」
 朱鷺母が、気軽に励ました。
「それなら途中で運転代わるわね。原田君の家の前で降ろしてあげるから速攻で家に入ったらいいわ」
「はい。お願いします」

「じゃあ出ましょうか?……あ、ちょっと待って。何?」
 朱鷺母が何かを言い掛けたので原田がルームミラーを見上げると、朱鷺が何かを母に伝えている。
「あらそう?ちょっと原田君。昼食ここで済ませた方がいいって朱鷺が言ってるわ」
「え?」
「さっき葬儀場でもね、あなたと健介君がずいぶんみんなに注目されてたんですって。服装のせいかと思ったけど、赤いブラウスのおばさんよりも注目されてたんですって。さっきのテレビと新聞のせいだったのね。それで、次のSAのレストランなんかに入ったら、利用客数の桁が違うから囲まれてまた写真とか動画とか撮られるかもって言ってるわよ」
 原田はうんざりとハンドルに顔を伏せる。
「だから、このPAの方が小さいからここで昼食済ませた方がいいって」
 はい、そうします、と原田が小さく呟いた。
「もし変装したいなら、ダッシュボードにサングラスが入ってるわよ」
 朱鷺母の提案に原田は苦笑して応えた。
「いえ。俺サングラス掛けるととんでもなく凶悪な顔になるので止めておきます。余計に目立つし見えないですし」


 そして5人で小さなレストランに入り、店内でやはり数人に気付かれたが無視し、早くできるメニューを頼み慌ただしくかきこんだ。
 新聞見る?と楽しげに売店を指差す君島を無視し、うちが映ってる!とテレビに突進する健介を捕獲し、原田は車に戻る。
 運転を交代する場所を朱鷺母と相談し、高速を降りる直前のSAと決めてからシフトを入れた。



 しばらく単調な道路を順行し、ジャンクションを交差し、やっと地元県内の看板が見え始める。
 順調に車に揺られて、原田以外は全員寝ている。
 やっと戻ってきた。高速もあと1時間ぐらいか。
 そう考えながら原田はちらりとバックミラーを見た。


 その瞬間、頭をぐっと後ろに押さえつけられるような感覚を覚えた。

 ん?

 と、疑問に思ったのは一瞬だけ。



 この感覚は知っている。
 あの前兆だということをその後に思い出す。



 あれだ。



 ああ、やばい。今か?こんなところで?
 原田は息も止めて速攻で対処に当たる。
 ミラーを見て車線変更して車を停められるスペースを探しながら、後ろに声を掛けた。
「妙さん。起きてください」
 そう言ってから思い出した。この人は寝たらそう起きないらしい。自宅2階のベッドで震度4でも起きなかった実績があるらしい。
「君島!起きろ!」
 隣で眠りこける君島もそう変わらない。しかしこいつは夕べはたっぷり寝ているはずだ。
「おい!」
 腕を掴んで揺さぶり、ぐらぐらと揺れた頭がウィンドウにゴンっと当たった。
 君島が、うう、と唸る。
 路肩が広くなっているスペースを発見してハザードを灯し、再び君島に頼む。
「起きろ。妙さん起こしてくれ」
「……うー」
 ハンドルを切りブレーキを踏みシフトをパーキングに入れる。


「……ん?停まったの?」
 君島がぶつかった側頭部を押さえて起きた。
 そして運転席の原田を見て、驚いた。

「何?!どうしたの浩一!死ぬの?」


 原田はハンドルに突っ伏して両手で頭を抱えていた。


「何!死んでるの?浩一!」
「……まだ、死んでない」
「どうした?」
「寝る」
「はい?」

 君島が原田を凝視した。

 持ち上がらない頭は鉄の玉のように重いようで両腕が下敷きになっている。
 隙間から見える目は閉じている。閉じているというよりも開けられないようだ。
 同じく苦しそうに無理やり開けた口から、なんとか小さく呟きが聞こえた。


「妙さん、起こしてくれ。運転、代わって欲しい。俺、寝る」
「何、何言ってんの?どう、」
「この後、三日ぐらい、起きない。運転代わってくれ」
「あ、……え?あれ?あれなの!今あれなの?!」
「頼む」


 君島は慌ててシートベルトを外して膝立ちになって後部座席の朱鷺母の膝を揺すった。
 その間にも、運転席の原田の身体が沈んでいく。
「妙さん、起きて!浩一寝るな!まだ寝るな!」
 やっと顔を上げた朱鷺母に君島が頼む。
「すぐ、運転代わってください!もうすぐ浩一が落ちる!」
「落ちる?」
「浩一!妙さん起きたから自力で動け!」
 原田の返事がない。
「自分で席移動しろ!浩一みたいな重いヤツ、誰も動かせないんだからな!」
 原田もなんとか、鉄の頭を両手で起こした。
「早く動け!」
 君島が叫んだ。
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