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施設
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朱鷺のグラタンの半分を奪い、自分のリゾットも完食し、健介は動くのも嫌そうに朱鷺にしがみついている。
その様子をみてまた飯川さんが、すいぶん食べたのねとしみじみと笑顔で呟いた。
「……全然、食べない子だったんですよ。暴れ回ってるだけですから当然ですけどね。食べさせるためにも、薬を呑ませてたぐらいなんですよ」
それを聞いて原田は、朱鷺の膝で甘えている健介の少し赤くなった頬を見下ろす。
「薬も無しでこんなに大人しいだけで、本当にありがたいのに、こんなに食べてくれるなんて」
飯川さんがしみじみと付け加える。
そんな言葉を聞きながら、どうやら決定事項なんだろうなぁ、と原田は他人事のように健介を眺めている。
この子供を預かることになるらしいな、と。
原田は本来臆病で石橋を叩き壊してやっぱり渡らなくて良かったと安心するタイプなのだが、流されると翻弄されて諦めるタイプでもある。
今はこの小さな子供に振り回されて追いつめられ進退窮まったところ。
朱鷺にしがみついた子供が、ちらりと原田を見上げた。
そして、その小さな手を伸ばしてきた。
唇を尖らせて頬を膨らませたまま、抱けと要求してきた。
なに様なんだろうな、と思いつつ、原田はその小さな身体を抱き上げた。
そしてさっきと同じメンバーで車に分乗し、紫田の施設に向かった。
到着したのはもう良い子は寝ている時間。健介も原田の膝の上で寝ている。
荷物を持ってくるだけなので、寝ている健介は車に置いて行こうかな、と原田が朱鷺に顔を向けて膝の健介を指差すと朱鷺も了解したように頷いた。
起こさないように健介の身体をそっと持ち上げてから俯せのままシートに寝かせる。
まだ何か食べる夢でも見ているのか健介が口を動かしながら横を向こうとしたので、シートから落ちないように朱鷺がその肩を押さえて引っ張った。よろしく、と朱鷺に言うと、朱鷺も笑って指で丸を作った。
運転席から大和も下りて、森口の車からも三人下りた。
それぞれドアを閉め、しかし寒いなと身震いしながら集団で玄関に向かっていると、間もなく後ろから子供の絶叫が聞こえてきた。
振り返ると、ランクルの横で泣き喚き暴れる健介を朱鷺が抱きかかえて立っている。
パパパパ、とさっきまでの大人しい姿が嘘のように泣き喚いている。
朱鷺なら大丈夫だと思ったのに、と原田が車に駆け戻る。
「あの、荷物を持ち出すだけですから、車でお待ちになっててもいいですよ」
飯川さんが後ろからそう声を掛けてきた。
そうさせてもらうか、と原田が朱鷺から健介を受け取ったのだが、全然泣き止まない。車に乗り込んでも泣き止まない。
さすがにドアを閉めると外に漏れる声が小さくはなったが、車の中では変わらずに泣いている。
大和がそれを見ながら呟いた。
「あいつ、ここの施設がよっぽど嫌いなんだな。原田がいてもごまかされないぐらいに怖いんだろうな」
そんな言葉が飯川さんにずきりと響く。あの子供はここで心も身体も痛めつけられている。
「じゃあ急いで荷物持って行こう。きっと車の中でもここにいるだけで嫌なんだと思うから」
君島がそう言って駆けようとしたところで、飯川さんが大和を振り向いた。
「……どうせ、車は2台ありますし、先にまこと君を連れて行ってくださった方がいいかも知れません」
「え?そう?」
「ええ、君島さんはお宅ご存じなんですよね?まこと君を連れて行く予定の?」
「はい、もちろん知ってますよ。じゃ、僕が後で案内したらいいってことだね?」
「荷物は後で秋ちゃんたちが持ってくるってことか?健介の様子だとその方がいいな」
「私たちもそちらのお宅の確認をしたいですから、のちほど追いかけます」
「わかりました」
そう応えて、大和が早速車に戻った。
外でそんな話にまとまった頃には、車内は大変なことになっていた。
泣き喚きすぎた健介がまた吐きそうになっている。
うぐうぐしている健介を抱いたまま、うわやばどうする、何か受け取る、袋、それ!おにぎり入れてきたバッグ!と原田が焦って朱鷺の後ろを指差し、慌てている朱鷺も慌てながら指差されたバッグを取ってすぐに健介の顔の下に当て、その直後に嘔吐した。バッグを開く間もなかった。一度では終わらず、何度も嘔吐く。短く息を吐きながら、涙を零しながら、戻す。
軽く背を叩いているうちに、やっと落ち着いてきて、健介が顔を上げた。
ひくひくと鼻を啜り、涙と吐瀉物で汚れた顔で原田を見詰めている。
拭いてやりたいな、と朱鷺を見ると、ウェットティッシュを渡してくれた。
まだひくひくと鼻を啜る健介の口を拭いてやる。
その間に朱鷺が車のドアを開けてから、嘔吐物に塗れたバッグを持ち上げた。
大和が運転席のドアを開けて乗り込もうとしたところで朱鷺が出てきたので、どうした?と顔を向けた。
そう訊かれても朱鷺は返事が出来ないので、笑って首を傾げて無言で大和のところに向かう。
そして、朱鷺が両手で抱える汚れ物を見て、うお!と驚いた後に、もう玄関に入ろうとしている君島たちに大声で呼びかけた。
「ちょっと待て!悪い!これ始末してくれ!」
その様子をみてまた飯川さんが、すいぶん食べたのねとしみじみと笑顔で呟いた。
「……全然、食べない子だったんですよ。暴れ回ってるだけですから当然ですけどね。食べさせるためにも、薬を呑ませてたぐらいなんですよ」
それを聞いて原田は、朱鷺の膝で甘えている健介の少し赤くなった頬を見下ろす。
「薬も無しでこんなに大人しいだけで、本当にありがたいのに、こんなに食べてくれるなんて」
飯川さんがしみじみと付け加える。
そんな言葉を聞きながら、どうやら決定事項なんだろうなぁ、と原田は他人事のように健介を眺めている。
この子供を預かることになるらしいな、と。
原田は本来臆病で石橋を叩き壊してやっぱり渡らなくて良かったと安心するタイプなのだが、流されると翻弄されて諦めるタイプでもある。
今はこの小さな子供に振り回されて追いつめられ進退窮まったところ。
朱鷺にしがみついた子供が、ちらりと原田を見上げた。
そして、その小さな手を伸ばしてきた。
唇を尖らせて頬を膨らませたまま、抱けと要求してきた。
なに様なんだろうな、と思いつつ、原田はその小さな身体を抱き上げた。
そしてさっきと同じメンバーで車に分乗し、紫田の施設に向かった。
到着したのはもう良い子は寝ている時間。健介も原田の膝の上で寝ている。
荷物を持ってくるだけなので、寝ている健介は車に置いて行こうかな、と原田が朱鷺に顔を向けて膝の健介を指差すと朱鷺も了解したように頷いた。
起こさないように健介の身体をそっと持ち上げてから俯せのままシートに寝かせる。
まだ何か食べる夢でも見ているのか健介が口を動かしながら横を向こうとしたので、シートから落ちないように朱鷺がその肩を押さえて引っ張った。よろしく、と朱鷺に言うと、朱鷺も笑って指で丸を作った。
運転席から大和も下りて、森口の車からも三人下りた。
それぞれドアを閉め、しかし寒いなと身震いしながら集団で玄関に向かっていると、間もなく後ろから子供の絶叫が聞こえてきた。
振り返ると、ランクルの横で泣き喚き暴れる健介を朱鷺が抱きかかえて立っている。
パパパパ、とさっきまでの大人しい姿が嘘のように泣き喚いている。
朱鷺なら大丈夫だと思ったのに、と原田が車に駆け戻る。
「あの、荷物を持ち出すだけですから、車でお待ちになっててもいいですよ」
飯川さんが後ろからそう声を掛けてきた。
そうさせてもらうか、と原田が朱鷺から健介を受け取ったのだが、全然泣き止まない。車に乗り込んでも泣き止まない。
さすがにドアを閉めると外に漏れる声が小さくはなったが、車の中では変わらずに泣いている。
大和がそれを見ながら呟いた。
「あいつ、ここの施設がよっぽど嫌いなんだな。原田がいてもごまかされないぐらいに怖いんだろうな」
そんな言葉が飯川さんにずきりと響く。あの子供はここで心も身体も痛めつけられている。
「じゃあ急いで荷物持って行こう。きっと車の中でもここにいるだけで嫌なんだと思うから」
君島がそう言って駆けようとしたところで、飯川さんが大和を振り向いた。
「……どうせ、車は2台ありますし、先にまこと君を連れて行ってくださった方がいいかも知れません」
「え?そう?」
「ええ、君島さんはお宅ご存じなんですよね?まこと君を連れて行く予定の?」
「はい、もちろん知ってますよ。じゃ、僕が後で案内したらいいってことだね?」
「荷物は後で秋ちゃんたちが持ってくるってことか?健介の様子だとその方がいいな」
「私たちもそちらのお宅の確認をしたいですから、のちほど追いかけます」
「わかりました」
そう応えて、大和が早速車に戻った。
外でそんな話にまとまった頃には、車内は大変なことになっていた。
泣き喚きすぎた健介がまた吐きそうになっている。
うぐうぐしている健介を抱いたまま、うわやばどうする、何か受け取る、袋、それ!おにぎり入れてきたバッグ!と原田が焦って朱鷺の後ろを指差し、慌てている朱鷺も慌てながら指差されたバッグを取ってすぐに健介の顔の下に当て、その直後に嘔吐した。バッグを開く間もなかった。一度では終わらず、何度も嘔吐く。短く息を吐きながら、涙を零しながら、戻す。
軽く背を叩いているうちに、やっと落ち着いてきて、健介が顔を上げた。
ひくひくと鼻を啜り、涙と吐瀉物で汚れた顔で原田を見詰めている。
拭いてやりたいな、と朱鷺を見ると、ウェットティッシュを渡してくれた。
まだひくひくと鼻を啜る健介の口を拭いてやる。
その間に朱鷺が車のドアを開けてから、嘔吐物に塗れたバッグを持ち上げた。
大和が運転席のドアを開けて乗り込もうとしたところで朱鷺が出てきたので、どうした?と顔を向けた。
そう訊かれても朱鷺は返事が出来ないので、笑って首を傾げて無言で大和のところに向かう。
そして、朱鷺が両手で抱える汚れ物を見て、うお!と驚いた後に、もう玄関に入ろうとしている君島たちに大声で呼びかけた。
「ちょっと待て!悪い!これ始末してくれ!」
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