晩年こそ本番。42歳会社員、喋る猫と現代ダンジョン攻略── やり直しじゃない。ここからが、僕の本番だ

七乃白 志優

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第一章:目覚めのゲート

007話『静けさの中の対話と、見えない渇望』

僕とコユキは丘の上を目指していた。
風が頬を撫で、草の香りがかすかに鼻をくすぐる。

「……しかし、まさか草に擬態して襲ってくるとはな」

「この層の自然は、生きてるようなものよ。警戒するに越したことはないわ」

コユキの声には、まだ戦闘の余韻が残っていた。
僕は頷きつつ、乾いた草を踏みしめる感触を確かめる。

「……もう少しで丘の上だな」

「ええ。視界が開ければ、周囲の構造も掴めるはずよ」

そんな会話を交わしながら、少しずつ傾斜を登る。
さっきまでの緊張が少しずつほどけ、静けさが戻ってきていた。
ほんの一瞬、仕事を終えたあとの帰り道に似た安堵が胸に広がる。

「……にしても、擬態って反則級だよな」

「確認してみたけど、あれは風景擬態フォリアージュっていうスキルだったみたい」

「またスキルか!じゃあリンクで……」

「無理ね。モンスター専用。それに裸じゃないと成立しないらしいわ」

「……なんだそれ。全力で遠慮しとく」

「ふふ、中年体型で擬態したら通報されるわね」

「お前なぁ……」

軽口を交わしながらも、心の奥には小さな警戒が残っていた。
戦いが終わっても、いつまた何かが飛び出すか分からない。
——けれど、そんな緊張さえも今は楽しかった。

「……コユキ、このダンジョンって、そもそもなんなんだろうな」

「うーん……私にも正確なことは言えないけど、深く潜るほど“何か”に近づいてる気がするの」

「何か?」

「核、中心、存在の根……そういう言葉が近いかしら。言葉にするほど曖昧だけど、確かに“感じる”の」

その声に、わずかな確信が混じっていた。
僕は無意識に喉を鳴らした。

「なるほどな……。じゃあ、話がかわるけどスキル共有って、離れてても使えるのか?」

「ある程度までは。でも距離が開くと不安定になる。精神状態にも左右されるわ。心が乱れればリンクも揺らぐの」

「気持ちでスキルが変わるって……繊細だな」

「当たり前でしょ。私たちはただの共闘相手じゃない。“繋がってる”んだから」

その言い方が少しくすぐったくて、僕は視線を外した。

「他にも、僕みたいなやつ……いるのかな?」

「ええ。あなたと同じように“呼ばれた”人間は少なくないわ。それぞれのモンスターと契約して、各地のゲートで動いてるはずよ」

「……どこかのゲート?」
思わず足を止める。
「つまり、新大阪以外にもあるってことか?」

「そう。いくつあるのか、どこにあるのかまでは分からないけど……“ここだけじゃない”ってことだけは、はっきり認識してる」

「……マジか。じゃあ、僕たち以外にも、同じように戦ってる人間がいるってことか」

「ええ。けど、私が知ってるのはこのここだけ。他の場所については……正直、私にも分からないの」

コユキの尻尾が、風に揺れる。
その一言が、僕の胸に奇妙な現実感を残した。

風が吹く。草が波のように揺れる。
その中を歩きながら、ふと何かが視界の端で動いた。

「……今、動いたか?」

「見えてる。残りのグラスシェイドかも」

構える——が、ただの風だった。

「……疑心暗鬼だな、僕」

「でも、その感覚は正しいわ。気づけなければ、奇襲で終わりよ」

互いに笑って、丘の頂へと進む。

視界が開けた瞬間、息を呑んだ。
どこまでも続く緑と、真っ青な空。
その境目が、まるで“世界の端”のように見えた。

「……なんか、世界の境目って感じだな」

「ロマンチストなのね」

「違うさ。ただ……たまには、こういう景色も悪くない」

風が吹く。

そして——。

世界が、また変わった。

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