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サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 ㉕
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第一章 2001年 春
二十五
ラオスは水力発電による電力をタイなどに輸出していると聞くが、センサワンレストランではたびたび停電が起こった。欧米人たちは不満そうであったが、われわれはあまり気にせず楽しい夕食の時間を過ごした。
宿に帰って来て、もう少し飲みなおそうということになり、中庭の大きなテーブルを囲んで皆が座った。宿の女将さんにビアラオを五本程注文して昨夜のビエンチャンに引き続き再び酒盛りである。
こんなに毎日飲んでばかりでいいのかなぁといった後ろめたい思いもフッと頭をかすめたが、日本ではずっと休みなく働いているのだから、たまにはいいじゃないかとすぐに大きな気持ちになった。
しばらくして、宿の女将さんもご主人も一緒にどうですかと誘って、岡山のYさんが「よかいち」という日本の焼酎とくぎ煮を部屋から持ってきた。
ご夫婦は快く参加してくれて、ご主人は噂に聞くラオスの強烈な酒・ラオラーオを「よかいち」のお返しに持ってきてくれた。
中庭では流れているラジカセの音楽に合わせて、可愛いタビソックが踊りだした。
◆可愛いタビソック
ご夫婦が僕達に振舞ってくれたラオラーオは、地元の人達にとっては貴重な酒で、アルコール度数は種類によって随分と異なると女将さんが言っていたが、総じて度数が高く、ロシアの強烈なウオッカのような酒である。
僕達はグラスにほんの一センチ程注いでもらって、それを恐る恐る口に流し込むのだが、先ず匂いが完全にアルコールだった。
喉から胃に流れて行くと、その部分が焼けるように熱くなり、確かにアルコール度の高さを感じる酒であった。
それでもK子さんは、「美味しい~」と言っておかわりを要求し、ご夫婦が心配顔をしながらも何度かグラスに注いでいると、ついにロレツが怪しくなってきて、それとともに顔も赤くなって色っぽい女性に変貌してきたのだった。
N君は浴びるようにビアラオを飲みまくり、さらにラオラーオもグッと一息で飲んでいるうちに、顔が暗い所でもはっきりと分かる位に真赤になってきた。
Yさんも年輩の方らしくあまりはしゃぐようなことはないが、旅先での意外な酒宴に楽しそうに、持参した焼酎とラオラーオを飲んでいた。
当初はYさん、Hさん、N君、K子さんに僕と宿のご夫婦の七人だったのだが、しばらくしてご主人の弟さんも加わり、彼だけがこの宿の家族の中で英語が話せたので、ラオスの経済や教育事情などを少し聞くことができた。
◆タビソックゲストハウスのご夫婦と弟さんとご主人のお母さん
彼は地元の中学校を卒業後、バンビエンには高校がないので、ビエンチャンの高校を卒業しているとのことで、毎週月曜日の朝一番のバスでビエンチャンに向かい、週末までは高校の宿舎で過ごして金曜日の夜にここに戻ってくるという学生生活を送ったと話していた。
高校教育を受けられる家庭は、この国ではかなり裕福な部類に入るとのことで、バンビエンの友人で高校まで進学した者は少ないとも語っていた。
確かに今日バスでこの町に向かう途中、所々に見かけた部落の住居は高床式の老朽化した粗末な木造家屋で、そこで暮らす子供たちが学校に通う姿や、途中小学校と思われる学校も見たが、高校教育まで受ける家庭はめったにないというのも頷ける話だった。
さて酒宴はますます盛り上がり、ゲストハウスには欧米人旅行者もたくさん泊まっていたが、彼らは外から戻ってきて僕達見ると「ハーイ、楽しそうだね」といった感じでニコニコするだけで、席に加わろうとしなかった。
中庭では可愛いタビソックが、音楽に合わせて腰をくねらせており、僕達が近づいて、「ヘイ! タビソック!」と言って踊る真似をすると、さらに調子に乗って踊り続けるのだった。
午後十一時を過ぎて、K子さんが「父が心配するので宿に戻ります」と言うと、Hさんが「藤井さん送っていってあげなさいよ」と親切に言ってくれた。
「それじゃ、送りオオカミになるかな」と皆に宣言し、暗い町中を送って行った。
K子さんは僕達の宿から一筋北側の通りにある、ドーククンゲストハウスに宿を取っており、僅か百五十メートルほどの距離ではああるが、ふたりで歩く幸運に感謝していると、K子さんはとても恐縮して「ごめんなさい、今日はとても楽しかったです」と言った。
彼女の色っぽい妖艶な姿を見ると、このとき僕は本当にオオカミになってしまおうかと真剣に考えたくらいだった。
彼女がゲストハウスに入って行くのを確認してから一旦宿に戻り、夜風に当たったからか、今頃ルアンパバーンにいるF嬢のことを思い出し、今日のうちに明日の六時には約束の場所に行けない旨のメールを出すため、Hさんと一緒にネットカフェに行った。
今度は暗い街中をHさんと二人で歩くという幸運に恵まれ、盆と正月がいっぺんに来たような嬉しい気持ちのままメールを送信してから宿に戻ると、ご主人はすっかり良い気持ちになっていて、横で奥さんがハラハラしている様子が可笑しかった。
酒宴の途中で「明日はどうするの?」という話になり、「明日タイヤチューブボートの川遊びをしたいし、この町が気に入ったから、もう一日いることにするよ」と僕が言うと、Hさんも同意した。
彼女はよっぽどこの町とこの宿が気に入ったらしく、「私はここにずっといます。この宿で働かせてもらおうかな」と訳の分からないことまでおっしゃる始末で、結局N君とYさんは明日朝のバスでルアンパバーンに発つということとなった。
このような楽しい酒宴は深夜一時頃まで続き、僕は後半ちょっと体調が悪くなり、最後まで席にいることが出来ずにかなりヨレヨレになって部屋に戻った。
今日は朝から本当にいろんなことがあった。
このように旅は何が起こるか分からないという面白さに、ベッドに仰向けになって思い出し笑いをしながら、いつの間にか眠ってしまった。
二十五
ラオスは水力発電による電力をタイなどに輸出していると聞くが、センサワンレストランではたびたび停電が起こった。欧米人たちは不満そうであったが、われわれはあまり気にせず楽しい夕食の時間を過ごした。
宿に帰って来て、もう少し飲みなおそうということになり、中庭の大きなテーブルを囲んで皆が座った。宿の女将さんにビアラオを五本程注文して昨夜のビエンチャンに引き続き再び酒盛りである。
こんなに毎日飲んでばかりでいいのかなぁといった後ろめたい思いもフッと頭をかすめたが、日本ではずっと休みなく働いているのだから、たまにはいいじゃないかとすぐに大きな気持ちになった。
しばらくして、宿の女将さんもご主人も一緒にどうですかと誘って、岡山のYさんが「よかいち」という日本の焼酎とくぎ煮を部屋から持ってきた。
ご夫婦は快く参加してくれて、ご主人は噂に聞くラオスの強烈な酒・ラオラーオを「よかいち」のお返しに持ってきてくれた。
中庭では流れているラジカセの音楽に合わせて、可愛いタビソックが踊りだした。
◆可愛いタビソック
ご夫婦が僕達に振舞ってくれたラオラーオは、地元の人達にとっては貴重な酒で、アルコール度数は種類によって随分と異なると女将さんが言っていたが、総じて度数が高く、ロシアの強烈なウオッカのような酒である。
僕達はグラスにほんの一センチ程注いでもらって、それを恐る恐る口に流し込むのだが、先ず匂いが完全にアルコールだった。
喉から胃に流れて行くと、その部分が焼けるように熱くなり、確かにアルコール度の高さを感じる酒であった。
それでもK子さんは、「美味しい~」と言っておかわりを要求し、ご夫婦が心配顔をしながらも何度かグラスに注いでいると、ついにロレツが怪しくなってきて、それとともに顔も赤くなって色っぽい女性に変貌してきたのだった。
N君は浴びるようにビアラオを飲みまくり、さらにラオラーオもグッと一息で飲んでいるうちに、顔が暗い所でもはっきりと分かる位に真赤になってきた。
Yさんも年輩の方らしくあまりはしゃぐようなことはないが、旅先での意外な酒宴に楽しそうに、持参した焼酎とラオラーオを飲んでいた。
当初はYさん、Hさん、N君、K子さんに僕と宿のご夫婦の七人だったのだが、しばらくしてご主人の弟さんも加わり、彼だけがこの宿の家族の中で英語が話せたので、ラオスの経済や教育事情などを少し聞くことができた。
◆タビソックゲストハウスのご夫婦と弟さんとご主人のお母さん
彼は地元の中学校を卒業後、バンビエンには高校がないので、ビエンチャンの高校を卒業しているとのことで、毎週月曜日の朝一番のバスでビエンチャンに向かい、週末までは高校の宿舎で過ごして金曜日の夜にここに戻ってくるという学生生活を送ったと話していた。
高校教育を受けられる家庭は、この国ではかなり裕福な部類に入るとのことで、バンビエンの友人で高校まで進学した者は少ないとも語っていた。
確かに今日バスでこの町に向かう途中、所々に見かけた部落の住居は高床式の老朽化した粗末な木造家屋で、そこで暮らす子供たちが学校に通う姿や、途中小学校と思われる学校も見たが、高校教育まで受ける家庭はめったにないというのも頷ける話だった。
さて酒宴はますます盛り上がり、ゲストハウスには欧米人旅行者もたくさん泊まっていたが、彼らは外から戻ってきて僕達見ると「ハーイ、楽しそうだね」といった感じでニコニコするだけで、席に加わろうとしなかった。
中庭では可愛いタビソックが、音楽に合わせて腰をくねらせており、僕達が近づいて、「ヘイ! タビソック!」と言って踊る真似をすると、さらに調子に乗って踊り続けるのだった。
午後十一時を過ぎて、K子さんが「父が心配するので宿に戻ります」と言うと、Hさんが「藤井さん送っていってあげなさいよ」と親切に言ってくれた。
「それじゃ、送りオオカミになるかな」と皆に宣言し、暗い町中を送って行った。
K子さんは僕達の宿から一筋北側の通りにある、ドーククンゲストハウスに宿を取っており、僅か百五十メートルほどの距離ではああるが、ふたりで歩く幸運に感謝していると、K子さんはとても恐縮して「ごめんなさい、今日はとても楽しかったです」と言った。
彼女の色っぽい妖艶な姿を見ると、このとき僕は本当にオオカミになってしまおうかと真剣に考えたくらいだった。
彼女がゲストハウスに入って行くのを確認してから一旦宿に戻り、夜風に当たったからか、今頃ルアンパバーンにいるF嬢のことを思い出し、今日のうちに明日の六時には約束の場所に行けない旨のメールを出すため、Hさんと一緒にネットカフェに行った。
今度は暗い街中をHさんと二人で歩くという幸運に恵まれ、盆と正月がいっぺんに来たような嬉しい気持ちのままメールを送信してから宿に戻ると、ご主人はすっかり良い気持ちになっていて、横で奥さんがハラハラしている様子が可笑しかった。
酒宴の途中で「明日はどうするの?」という話になり、「明日タイヤチューブボートの川遊びをしたいし、この町が気に入ったから、もう一日いることにするよ」と僕が言うと、Hさんも同意した。
彼女はよっぽどこの町とこの宿が気に入ったらしく、「私はここにずっといます。この宿で働かせてもらおうかな」と訳の分からないことまでおっしゃる始末で、結局N君とYさんは明日朝のバスでルアンパバーンに発つということとなった。
このような楽しい酒宴は深夜一時頃まで続き、僕は後半ちょっと体調が悪くなり、最後まで席にいることが出来ずにかなりヨレヨレになって部屋に戻った。
今日は朝から本当にいろんなことがあった。
このように旅は何が起こるか分からないという面白さに、ベッドに仰向けになって思い出し笑いをしながら、いつの間にか眠ってしまった。
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