サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

Pero

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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 52

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     第二章 2002年 春

   52 ワット・ケーク その2

 古い画像なので見にくいとは思いますが、よろしくお願いします。


 ◆象を威嚇する犬軍団

 僕達がワット・ケークを訪れた時刻は早朝の午前七時過ぎだったので、入って右側にある寺院は閉まっていた。

 そのため開園時間中に流されると聞いていた、まったりとした怪しげな仏教音楽らしきものは聴こえなかった。

 だからといって、それが何かの救いになるかという問題ではなく、この庭園は音楽の有無にかかわらず僕達を混乱させるに十分なコンクリート仏像群だった。

 いや明らかに仏像とはいえない訳の分からない建造物もあった。

 例えば最初に目に付いたのが、一頭の象を威嚇していると思われる犬軍団である。 

 犬達が何ゆえに象に対して怒りを表明しているのかがまったく分からない。

 近づいてよく見ると、カラオケを歌っていると思われるマイクを持った犬や、バイクに跨っている犬、テーブルを囲んでくつろいでいる犬達、さらには局部を勃起させている犬もいるのだ。



 一体これは何を表現しているというのだと、建像者のルアン・プーに問いかけたくなってしまうのだった。


 ◆次にナーガの像?
 
 
 犬軍団に冷や汗を浴びせられて、その後遺症も消えないまま、次に目の前に現れたるは、仏陀の背後から伸びた7本の蛇の像であった。



 これは一見ヒンドゥー教の“ナーガ”を彷彿させるが、じっくり見ると蛇は首の長いワニといった方が当てはまるような、何とも中途半端な怪しげなコンクリート像だ。
 
 ヤレヤレこの先何が出て来るんだと、期待と恐怖とアホラシさとが混同したような形容し難い精神状態のままさらに進んだ。

 すると前を歩くR子さんが、「キャー、これ何でしょうねぇ。面白いですねー」とまるでこれらの脅かしにも、何ひとつ動じている様子は見受けられなかった。

 ななめ右手にはまるまると太った大仏像が胡坐をかいているが、何故か両手はお腹の辺りをパーの手のひらで押さえており、しかも上野の西郷ドンに似た滑稽な顔つき。、

 じっと見ていると吹き出してしまうので、五秒ほどで顔を背けることをお勧めする。



 さらに進むと、角々が少し丸みを帯びた四角形の生き物に対して、上段からナタをふるおうとしている人間の像がある。

 何故ナタをふるおうとしているのか、或いはふるわれようとしている得体の知れない生物は一体何なのか、これらについても何等説明がないのである。

 従って、物事に問題意識を持たない性格の人は、何だか分からないけど面白~いとなるであろう。

 だが、僕のように巳年でねちっこい性格の者は、消化不良のような苛立ちに似た気持ちのまま次の像へと足を運ばなくてはならないのだ。

 しかし次の像もまた、外見的にもその像に秘められたる建築的背景のいずれに於いても、全く意味が分からない。



 あらゆる像が消化不良となってしまうので、神経質な方で普段便秘気味の方は、このワット・ケークを訪れると、おそらくすぐに治ってしまうのではあるまいか。

 僕達はそれでも時々カメラのシャッターを押しながら前進し、ふたりだけの何ともロマンティックな早朝の庭園散策を楽しんだが(彼女は楽しんでいたように思われた)、奥の方に進んで巨大な三面像にブチ当たった時には、僕の頭の中もついにブチッと切れそうになった。
 
 その三面像は、顔から手が六方に伸びており、その手のひらには右手の人差し指を、「チッチッチ」という風にピンと立てた小さな男が乗っており、手乗りチッチッチ男を見た途端に僕はアホらしくなって、用事を思い出して今すぐにでもこの寺院を出たい気分になってしまったのだった。

 ムカッとした表情で歩き出した僕を察して、R子さんは【まあまあ落ち着いてくださいよ。ユーモアがあっていいじゃないですか】といった感じで僕を押しとどめた。

 そして、「寺院の門が開きましたよ」と言った。

 見ると入り口横の白い大きな建物の門が開いていた。

 僕達は階段の下でサンダルを脱いで、その寺院の中に足を踏み入れていった。

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