サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽

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第二章 2002年 春

サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 68

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     第二章 2002年 春


   68 ハットリさんとの再会

 バンビエンを午後一時の定刻に出発したバスは、一度もトイレ休憩をしないまま、午後五時前には田園風景から民家や商店・事業所などに変わり、次第にビエンチャン市内に近づいてきた。

 バスの車内はもうそれは大変な状況だった。

 美人ラオス女性が僕の太ももの上に素敵なお尻を乗っけているのは変わらず、それはそれで大変心地よい状態であったが、既に三時間程立ちっ放しの乗客も多く、最初の頃のように笑いも殆ど聞こえなくなり、皆この満員灼熱ガタピシノンエアコンバスに参ってしまっているようだった。

 カーブなどでは支えていた腕に限界が近い人の叫び声が聞こえ、市内が近づくと降りる人もポツポツ出てきたため、不特定な場所で停車する。

 車内の奥のほうに乗っている乗客が降りるたびに、出口付近で立っている乗客が一旦降りてまた乗るということを繰り返さなければならず、ひっくり返したおもちゃ箱を何度も何度も元通りにしているようなものであった。

 ビエンチャン市内に入ってしばらく走ったところで、一人の乗客が降りるためにバスが停車した。

 僕は何気なく窓の外を見ていたら、何と停車した場所は、友好橋の国境で知り合ってボーダーからビエンチャン市内までトゥクトゥクで送ってくれたハットリさん夫婦の家の前だった。

 偶然というのはまたしてもあるものだ。

 ハットリさん達はちょうど出かけるところで、トヨタのピックアップトラックに乗り込むところだった。

「ハットリさん!」と僕は窓から身を乗り出して、大声を出して呼びかけた。

 すると奥さんの方が僕に気がついて「あれぇー」といった感じで手を振り、ハットリさんに、「ほら、国境で一緒だったあの変なバンダナ日本人よ!」と教えているようだった。

 ハットリさんはすぐに僕に気がつき、驚いた表情で運転席から降りてきて、「バスから降りてうちに寄りまへんか!」と言うのだった。

 僕は残念ながらバックパックをバスの屋根に載っけているため、どうにもできないもどかしさを感じながら、「すみません、荷物が屋根にあるので降りられないのです」と指を上向けながら叫んだ。

 ハットリさんは聞こえたのか聞こえなかったのか、しきりに僕を手招きするのだが、その時バスが動き出してしまった。

「お宅の場所が分かりましたので、今度伺います!」と叫びながら次第に遠ざかって行くハットリさん夫婦に手を振り続けた。

 仕方がないなという顔つきで、ハットリさん達も僕に手を振ってくれた。

 ほんの一分余りの偶然の出来事だったが、僕は胸が熱くなり、しばらくビエンチャン市内の街並みも目に入らない状態になってしまった。

 しかし大体の場所は分かった。

 ハットリさんの家の隣には大きな製材所があった。
 それにハットリさんの家の造りも脳裏に焼き付けたから、難なく今度訪問できるだろう。


 さてバスはそれから十五分ほど市内を走ったのち、タラートサオ(市場)近くのバスターミナルに到着した。

 バックパックをバスの屋根から受け取って、宿のある方向へ僕は歩き始めた。

 バスの中ではこのまま今日のうちに国境を越えて、ノンカイまで行こうかとも思ったが、もう午後五時過ぎだし、ビエンチャンで泊まることにした。

 一昨日泊まったサイスリーゲストハウスの方向に向かって歩き始めたら、最初の交差点でバンビエンのバス乗り場で挨拶だけ交わした女性が立っていた。

「宿は決まっているのですか?」と僕は問いかけた。

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