68 / 208
第二章 2002年 春
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 68
しおりを挟む
第二章 2002年 春
68 ハットリさんとの再会
バンビエンを午後一時の定刻に出発したバスは、一度もトイレ休憩をしないまま、午後五時前には田園風景から民家や商店・事業所などに変わり、次第にビエンチャン市内に近づいてきた。
バスの車内はもうそれは大変な状況だった。
美人ラオス女性が僕の太ももの上に素敵なお尻を乗っけているのは変わらず、それはそれで大変心地よい状態であったが、既に三時間程立ちっ放しの乗客も多く、最初の頃のように笑いも殆ど聞こえなくなり、皆この満員灼熱ガタピシノンエアコンバスに参ってしまっているようだった。
カーブなどでは支えていた腕に限界が近い人の叫び声が聞こえ、市内が近づくと降りる人もポツポツ出てきたため、不特定な場所で停車する。
車内の奥のほうに乗っている乗客が降りるたびに、出口付近で立っている乗客が一旦降りてまた乗るということを繰り返さなければならず、ひっくり返したおもちゃ箱を何度も何度も元通りにしているようなものであった。
ビエンチャン市内に入ってしばらく走ったところで、一人の乗客が降りるためにバスが停車した。
僕は何気なく窓の外を見ていたら、何と停車した場所は、友好橋の国境で知り合ってボーダーからビエンチャン市内までトゥクトゥクで送ってくれたハットリさん夫婦の家の前だった。
偶然というのはまたしてもあるものだ。
ハットリさん達はちょうど出かけるところで、トヨタのピックアップトラックに乗り込むところだった。
「ハットリさん!」と僕は窓から身を乗り出して、大声を出して呼びかけた。
すると奥さんの方が僕に気がついて「あれぇー」といった感じで手を振り、ハットリさんに、「ほら、国境で一緒だったあの変なバンダナ日本人よ!」と教えているようだった。
ハットリさんはすぐに僕に気がつき、驚いた表情で運転席から降りてきて、「バスから降りてうちに寄りまへんか!」と言うのだった。
僕は残念ながらバックパックをバスの屋根に載っけているため、どうにもできないもどかしさを感じながら、「すみません、荷物が屋根にあるので降りられないのです」と指を上向けながら叫んだ。
ハットリさんは聞こえたのか聞こえなかったのか、しきりに僕を手招きするのだが、その時バスが動き出してしまった。
「お宅の場所が分かりましたので、今度伺います!」と叫びながら次第に遠ざかって行くハットリさん夫婦に手を振り続けた。
仕方がないなという顔つきで、ハットリさん達も僕に手を振ってくれた。
ほんの一分余りの偶然の出来事だったが、僕は胸が熱くなり、しばらくビエンチャン市内の街並みも目に入らない状態になってしまった。
しかし大体の場所は分かった。
ハットリさんの家の隣には大きな製材所があった。
それにハットリさんの家の造りも脳裏に焼き付けたから、難なく今度訪問できるだろう。
さてバスはそれから十五分ほど市内を走ったのち、タラートサオ(市場)近くのバスターミナルに到着した。
バックパックをバスの屋根から受け取って、宿のある方向へ僕は歩き始めた。
バスの中ではこのまま今日のうちに国境を越えて、ノンカイまで行こうかとも思ったが、もう午後五時過ぎだし、ビエンチャンで泊まることにした。
一昨日泊まったサイスリーゲストハウスの方向に向かって歩き始めたら、最初の交差点でバンビエンのバス乗り場で挨拶だけ交わした女性が立っていた。
「宿は決まっているのですか?」と僕は問いかけた。
68 ハットリさんとの再会
バンビエンを午後一時の定刻に出発したバスは、一度もトイレ休憩をしないまま、午後五時前には田園風景から民家や商店・事業所などに変わり、次第にビエンチャン市内に近づいてきた。
バスの車内はもうそれは大変な状況だった。
美人ラオス女性が僕の太ももの上に素敵なお尻を乗っけているのは変わらず、それはそれで大変心地よい状態であったが、既に三時間程立ちっ放しの乗客も多く、最初の頃のように笑いも殆ど聞こえなくなり、皆この満員灼熱ガタピシノンエアコンバスに参ってしまっているようだった。
カーブなどでは支えていた腕に限界が近い人の叫び声が聞こえ、市内が近づくと降りる人もポツポツ出てきたため、不特定な場所で停車する。
車内の奥のほうに乗っている乗客が降りるたびに、出口付近で立っている乗客が一旦降りてまた乗るということを繰り返さなければならず、ひっくり返したおもちゃ箱を何度も何度も元通りにしているようなものであった。
ビエンチャン市内に入ってしばらく走ったところで、一人の乗客が降りるためにバスが停車した。
僕は何気なく窓の外を見ていたら、何と停車した場所は、友好橋の国境で知り合ってボーダーからビエンチャン市内までトゥクトゥクで送ってくれたハットリさん夫婦の家の前だった。
偶然というのはまたしてもあるものだ。
ハットリさん達はちょうど出かけるところで、トヨタのピックアップトラックに乗り込むところだった。
「ハットリさん!」と僕は窓から身を乗り出して、大声を出して呼びかけた。
すると奥さんの方が僕に気がついて「あれぇー」といった感じで手を振り、ハットリさんに、「ほら、国境で一緒だったあの変なバンダナ日本人よ!」と教えているようだった。
ハットリさんはすぐに僕に気がつき、驚いた表情で運転席から降りてきて、「バスから降りてうちに寄りまへんか!」と言うのだった。
僕は残念ながらバックパックをバスの屋根に載っけているため、どうにもできないもどかしさを感じながら、「すみません、荷物が屋根にあるので降りられないのです」と指を上向けながら叫んだ。
ハットリさんは聞こえたのか聞こえなかったのか、しきりに僕を手招きするのだが、その時バスが動き出してしまった。
「お宅の場所が分かりましたので、今度伺います!」と叫びながら次第に遠ざかって行くハットリさん夫婦に手を振り続けた。
仕方がないなという顔つきで、ハットリさん達も僕に手を振ってくれた。
ほんの一分余りの偶然の出来事だったが、僕は胸が熱くなり、しばらくビエンチャン市内の街並みも目に入らない状態になってしまった。
しかし大体の場所は分かった。
ハットリさんの家の隣には大きな製材所があった。
それにハットリさんの家の造りも脳裏に焼き付けたから、難なく今度訪問できるだろう。
さてバスはそれから十五分ほど市内を走ったのち、タラートサオ(市場)近くのバスターミナルに到着した。
バックパックをバスの屋根から受け取って、宿のある方向へ僕は歩き始めた。
バスの中ではこのまま今日のうちに国境を越えて、ノンカイまで行こうかとも思ったが、もう午後五時過ぎだし、ビエンチャンで泊まることにした。
一昨日泊まったサイスリーゲストハウスの方向に向かって歩き始めたら、最初の交差点でバンビエンのバス乗り場で挨拶だけ交わした女性が立っていた。
「宿は決まっているのですか?」と僕は問いかけた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています
藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。
結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。
聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。
侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。
※全11話 2万字程度の話です。
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
与兵衛長屋つれあい帖 お江戸ふたり暮らし
かずえ
歴史・時代
旧題:ふたり暮らし
長屋シリーズ一作目。
第八回歴史・時代小説大賞で優秀短編賞を頂きました。応援してくださった皆様、ありがとうございます。
十歳のみつは、十日前に一人親の母を亡くしたばかり。幸い、母の蓄えがあり、自分の裁縫の腕の良さもあって、何とか今まで通り長屋で暮らしていけそうだ。
頼まれた繕い物を届けた帰り、くすんだ着物で座り込んでいる男の子を拾う。
一人で寂しかったみつは、拾った男の子と二人で暮らし始めた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる