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第三章 バンコク近郊・意外展開旅行記
サバイディー、南方上座部仏教国の夕陽 97
しおりを挟むアユタヤ その3
アユタヤの遺跡は世界文化遺産に登録されているが、遺跡といっても寺院の廃墟が点在しており、それらを広大な公園が包んでいるといった感じのものなので、僕としてはすぐに飽きてしまった。
ここを訪れる多くの人はどんな感慨を持つのだろうと思うのだが、僕は首のない仏像や瓦礫ばかりを見るのに疲れてしまった。
勿論、気温が三十五度以上はあると思われる炎天下で、バンダナを巻いただけの中年オヤジが乗り物を使わずに歩き回るのだから、肉体的疲れもあることは間違いない。
僕は友人に絵葉書を出そうと思い、地図を見ながら郵便局に行った。
ところが郵便局には絵葉書が置いてなくて、官製葉書しかないという。
とりあえず五枚を購入して、その場で書いて出そうと思って、局内の椅子に座って書き始めた。
しばらく文章を考えながら少しずつペンを進めていると、男性局員の一人が「どこから来たのですか?」と訊いてきた。
日本からですと応えながらはがきに目を置いて文を考えていると、「アユタヤは初めてですか?」とさらに訊いてくるので、僕はここで書き上げて投函するのを諦めた。
「アユタヤは初めてです。タイには何度も来ていますが、いつも通過してしまうのですよ」と、おそらく通じているであろう英語で語った。
すると彼は、ちょっと待てと言う風な素振りを僕に見せてからカウンター内に入り、少ししてからアユタヤ市内の折りたたみ地図を持ってきてくれた。
どうやら僕にプレゼントをしてくれるということだ。
その地図を目の前で広げてみると、タイ語で書かれているので、説明は全く読めないが、記号などでどこに何があるかは大体分かりそうだ。
僕は彼に丁寧に礼を述べて郵便局をあとにした。
ここから宿までは地図によると2.5キロメートルも距離があるが、トゥクトゥクも走っていないし、歩いて帰ることにした。
アユタヤ市内は所々で道路工事が行われていた。
確かに車も結構走っているので、砂埃などを考えると舗装したほうが良いだろうが、未舗装の道路のほうが遺跡の周りの雰囲気に合っているような気もする。
きっと観光客が年々増えているからの措置に違いない。
暑さと疲労に瀕死に近い状態になってようやく宿に帰った。
シャワーを浴びてスッキリし、気持ちの良いベッドに仰向けになっていると、知らないうちに眠ってしまった。
夕方近くに目が覚め、階下に降りて行くと、ロビーには日本人の青年が松葉杖で座っていた。
挨拶をして話を聞くと、彼は千葉県に住む大学生で、数日前にアユタヤに来てレンタルバイクで遺跡回りをしたが、その帰り道交通事故に遭い、片足を骨折したとのことだった。
どちらに非があるかは警察がまだ調べているらしいが、ともかく旅を続けられないので、しばらくこの宿で厄介になるつもりですと言う。
おかげで宿の家族と親しくなり、小学生や中学生くらいの娘さんの相手をして過ごしていた。
この宿は日本人旅行者と欧米人旅行者が半々程度で、食堂のメニューもタイ料理に加えて、欧米人が好みそうなハンバーグやオムレツなど、洋風のものもたくさん用意されていた。
宿のご主人は僕より少し年令が下に見える日本人で、奥さんとはどのような経緯で一緒になって宿の経営に関わったのかは知らないが、よく見るとフォークシンガーの南こうせつさんにそっくりな風貌だった。
アユタヤで南こうせつさんに会うとは思っても見なかった。
僕はこの宿の居心地のよさをさらに感じた。
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