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プロローグ:勇者になりたい

ダンジョンでの邂逅

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ハロルドは手馴れた手つきで装備を着けた。
「よし...行こう...!」

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「まずは剣をモンスターに当てるとこから始めなきゃな...行く途中でいい感じの低級モンスターと戦えればいいんだけど...」
ハロルドがそう呟いていると数歩先にスライムがいた。
「よし...!アイツでやってみよう...!」
ハロルドはバレないように、だが早くスライムに近づいて剣を振る。
「外した...」
スライムはハロルドに気付くと、口から粘液を吐いて反撃した。
「いって...これがモンスター...教官が僕をモンスターとの実戦に出してくれなかったのは本当に戦闘のセンスが無かったから...」
ハロルドはまた自分の才能の無さに嘆いたがすぐに首をブンブンと振り、スライムを見て次の攻撃態勢に入った。
「嘆いてる暇なんてないんだ...!エマが誇れる強い勇者になるんだ...!はあああああああああああああああ!!!!!」
ハロルドは叫びながら剣をスライムに振りかざす。その渾身の一撃はスライムに直撃し、スライムを葬った。
「やった!!やった!!!初めて...初めてモンスターを倒せた!!!」
ハロルドが喜びながらスライムからドロップしたアイテムを拾った。
「アイテムまでドロップした...!やった...!!!」
ハロルドはアイテムを腰に付けている袋に入れ、剣を鞘に収めて再び歩き始めた。

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「やっぱり...空気が違うな...ダンジョンは...」
ハロルドは初めてのダンジョンを前にし、その重々しい空気を吸いながら少し怖がっていた。
「...でも...怖がってばかりじゃ始まらない...よな...!」
ハロルドは勇気を振り絞りダンジョンへの1歩を踏み出した。
「中は意外と整地されてるんだな...まだ第1層だからってのもあるんだろうけど...」
カサカサと奥から物音がし、ハロルドは剣を構える。
「早速モンスター...!」
巨大なアリ、ビック・デスアントがハロルドの目の前に現れ、ハロルドを捉えるとさっきの倍はある速度で近付いてきた。
「ビック・デスアント...来る...!振らなきゃ...!」
ハロルドが剣を振るも外れ、ビック・デスアントの攻撃が直撃、ハロルドの頬から血が滲み出る。
「血...!」
ハロルドが自分から出ている血に少しの恐怖感を抱いている間にビック・デスアントは次の攻撃の体制に移る。
「さっきのスライムとは全く違う...でも...!怖がってられないんだ...!」
ビック・デスアントがもう一度ハロルド攻撃しようとするもハロルドはそれを避け、ビック・デスアントの首に一撃くらわせる。
「やっ...た...!やった...!勝った...!!」
ハロルドが喜んでいると周りを囲うかのようにビック・デスアントが大量にいた。
「そうだ...デスアント種は...死んだら特殊な液を出して...仲間を呼ぶ...」
ハロルドは絶望し、膝を落とした。
「勇者になれないまま...エマを残したままで...僕は...死ぬのか...でも...頑張れた...よね...ははは...」
絶望しながら笑っているとどこからか声が聞こえた。
「「かい」」
誰かがそう言うと何かがうねりながらハロルドの周りを囲むビック・デスアントの首を一瞬で跳ね飛ばした。
「...アレス学園の装備...アレスの子か...」
ハロルドを助けたであろう青年はそう呟くと屈んでハロルドの事を見た。
「君、どうしてこんな所にいるの?アレス学園の校則じゃ、ダンジョンへの潜入は例え第1層とは言え、教師同伴じゃなきゃ禁止のはずだ。」
「...僕は...強く...勇者になりたくて...それで...」
青年は少し黙り込んだ。
「そうか。じゃあ君は勇者になりたい。それだけで嫁の事も置き去りにするわけか。」
「...ごめんなさい」
「ごめんなさい...か...ごめんなさいで済むんだったら残された人の悲しみを考えろ。クソガキ。アレスの子である自覚くらい持っとけ。」
青年はハロルドの服を引っ張り、ダンジョンの外に出した。
「「」」
青年がそう言うとハロルドの体が浮いた。
「申し訳ないけどこのクソガキをアレス学園まで送り届けてくれ。絶対に気づかれないようにしてほしい。」
青年の言葉に何かが反応したかのように、ハロルドは音がないまま高速でアレス学園に送り届けられた。
「あ...ありがとう...」
ハロルドの感謝の言葉に反応したかのように何かがハロルドの傷を癒し、傷跡も消した。そして窓がゆっくりと閉まった。
「...嫁...エマの事も...しっかり考えなきゃいけない...よね...勇者になるなんてやっぱり諦めた方が...」
またハロルドは嘆きそうになるも、エマに言われた事を思い出し、自分を殴った。
「僕ももっと強くならなきゃ...誰にも迷惑をかけずに...1人で戦えるように...!」
ダンジョンでの青年との出会いでハロルドの強くなりたい、勇者になりたいという願望は更に強くなったのだった。
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