忘れ薬のその後に

aika

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Noah 〜ノア〜

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私は恋人を待っている。

いつ会えるかわからない彼のことを、この部屋で一人ずっと待ちわびている。

人生初めての恋の相手はミステリアスな男性で、どこの誰かもわからない。
長い銀髪のストレートヘア。切れ長の瞳。低くて男らしいハスキーボイス。

Noah
私が知っているのは、彼の美しい名前だけ。
彼のことはほとんど何も知らないけれど、そんなことはどうでもよかった。

この小さな部屋が私の世界の全て。
彼が会いに来てくれさえすれば、私の世界は完成する。
完璧な幸せを感じることが出来たのは、あなたに巡り会えたから。


ノア。
夢の中で、何度もあなたの名前を呼ぶ。
良い子にじっと待っているから、どうか私の部屋に会いに来て。

私は毎日祈るしか術を持たず、今夜もあなたと抱き合う夢を見る。





「ノア・・・!!」

小さくなっていく彼の後ろ姿を、部屋の窓からぼんやり見ている。

何度この夢を見ただろう。
彼の名前を叫びながら一人きりのベッドで目が覚める朝は、何度味わっても最悪だ。

私の恋人ノアは、一ヶ月に一度必ず私に会いにこの部屋に来てくれた。

花屋の二階の一室を借りて暮らし始めてもう3年になる。
夜18時にお店が閉まると翌早朝まで私はこの建物に一人きり。
ここの主人になったような錯覚が、小さな部屋で暮らす私の心を満たして癒してくれる。同時にほんの少しの寂しさ。
市電が走るメインの大通りと並行している小さな中通りに面した、こじんまりとしたお花屋さん。
私のお気に入りのお店で、以前はよく仕事帰りに花を買ったものだった。

この中通りを西へ真っ直ぐ1キロほど進んだところにある雑貨屋が、私の職場。


中通りに面したベッドルームの窓から、通りを見下ろす。
目を凝らしてくまなく探してみても、愛しい恋人の姿はどこにも見えなかった。
ベッドから降りてリビングに通じる扉を開ける。

もう諦めなければ。

何度そう決意しただろう。
彼がこの部屋に来なくなって半年が過ぎた。

彼の連絡先も知らず、いつここへ来てくれるのか明確な約束はない。
約束なんて交わしたことは、一度もなかった。

恋人同士として過ごした3年間。
それは紛れもなく、私の人生で唯一の幸せな時間だった。

小さなキッチンに立って、コーヒーを淹れる。
緑と白のタイルがランダムに貼られたこのキッチンは、私の一番のお気に入り。
私の人生に彼が居ても居なくても、それは変わらない。

ふと、彼の葉巻の香りが甘く鼻をかすめた気がした。


諦めなければ。

そう自分に言い聞かすのと同時に、私は一生彼を諦めきれずこの部屋で一人待ち続けるのだというビジョンが浮かんだ。

ノア。
私を置いて行かないで。
ずっと、この部屋で待っているから。お願いよ。

私が愛したあの男は、一体どこの誰なのだろう。
そんなことも知らないで、本気で彼に愛されているのだと夢見ていた3年間。
私は本当に幸せだった。



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