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隣人
しおりを挟む「隣に越してきた、水野と言います。」
ノックの音に驚いて勢いよく扉を開けると、そこには長身の男性が立っていた。
心臓が止まるかと思った。
ノアが部屋をノックする音にとても似ていたから、本気で彼が帰ってきたのだと思った。
人の顔を見て落胆するなんて失礼な話だけれど、初対面の人を気遣うような余裕は今の私には無い。
「あ・・・すみません・・・人違い・・して・・・」
涙が溢れそうになる。目の奥がじんと熱くなって、視界がぼやけた。
隣人に挨拶しようと部屋をノックしたら、血相を変えて髪を振り乱した女が出てきたらホラーだよね。
悪いことしちゃった・・・
一人で過ごす時間が長い私は、声に出さず心の中で独り言のように呟く癖がついてしまっている。
「タイミングが悪かったですね。失礼しました。」
彼は罰が悪そうに頭を下げて、立ち去ろうと一歩身を引く。
「いえ、あの・・・ごめんなさい。私は、ナオミと言います。」
「水野秀一です。」
目が鋭く無駄なものを削ぎ落としたような引き締まった体つき。目鼻立ちがシャープで凛々しく、顔も体も男っぽさが全面に出ているのに、警戒心が芽生えない不思議な男性だった。
自分より30cmは高い位置にある彼の顔をマジマジと見上げる。
切れ長の目元が、ノアに少し似てる・・・
ハッとして首を横に振った。
私、またノアのことを考えてる・・・
何でもすぐに恋人に繋げてしまうのは悪い癖だった。
何を見ても、何を食べても、何をしていても、ノアのことばかり考えてしまう。
「恋人かと・・・思って・・・」
私は初対面の男の前で、ボロボロと大粒の涙を流していた。
彼の顔を見たら、今まで押し込めてきた感情が一気に溢れ出して止まらなかった。
私はその場に座り込んで、いつまでも子どものように泣きじゃくっていた。
♢♢♢♢
「びっくりさせてごめんなさい・・・」
これから隣人となる初対面の男性の前で泣きじゃくってしまったバツの悪さに、私は心底後悔していた。
「いえ、大丈夫ですか?」
彼は私が泣き止むまで、ずっとそばに付き添ってくれていた。
「大丈夫・・・です。」
彼の顔を見ると、なぜか涙が溢れてくる。
「大丈夫・・じゃなさそうですね。」
また涙を流し始めた私を見て、彼は苦笑した。
ハンカチで、私の涙を遠慮がちに拭う。
「俺で良ければ話聞きますよ。話したければ、ですけど。」
無理強いしない彼の言葉に、私はゆっくりと口を開く。
「私・・恋人に捨てられたんです・・。」
言葉にしたら、腫れてぼんやりと熱を持っている瞳からじわりとまた涙が溢れた。
本当は、誰かに聞いて欲しかった。
ノアと過ごした時間のことを、彼を愛した私の物語を。
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