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『甘い声』
しおりを挟む泉が、足を捻挫した。
自宅に連絡があって、電話に出た律が車を出してくれたので、一緒に学校へ向かう。
「繭は心配性だよな。ただの捻挫だって言っていたし、そんな顔するな。」
助手席に座る私の肩に、律が優しく触れる。
彼はどんな時もどっしりと構えていて冷静なので、私はいつも助けられてばかりだ。
楓が入院したという連絡を、受けた日のことを思い出す。
あの時も私に代わって、律が説明を受けてテキパキと動いてくれた。
「メンタルが弱くてごめんなさい・・・。泉君の顔見るまでは、やっぱり不安で・・・。」
「弱いんじゃないよ。繭は、本当に優しい子だからな。」
膝の上でぎゅっと握り締めていた私の手を、律の大きな手のひらが優しく包み込んだ。
(律さんがそばにいてくれると、すごく安心する・・・・律さんの声、めちゃくちゃ甘い・・・♡)
二人きりの時だけ、彼は甘ったるい声で話してくれる。
「繭のことは俺が一生守るから、もう少し安心していてくれよ。」
夫たちは時々急に、プロポーズのような甘い言葉を口にする。
その度に私の心臓は、破裂してしまいそうなくらいに激しく暴れだす。
「泉は、そんなにやわじゃない。大丈夫だ。」
彼の温かい手のひらに包まれていたら、私の胸のざわつきは徐々に落ち着いていった。
♢♢♢
「大丈夫だって言ったのに、あいつ家に電話したのかよ?!」
「こらこら、泉。先生は心配して連絡してくれたんだぞ?」
泉の頭をポンと撫でて微笑む律は、兄のように慕われている。
「律さん、忙しいのにごめん。繭さんまで来てくれたんだ・・。」
頬を赤くして私を見た泉の顔は、複雑な表情を浮かべていた。
彼がいつもと変わらず、元気で安心する。
家族が多い私にとって、この心配性の性格は負担が大きい。
いずれ改善しないと、身が持たなくなるかもしれない。
これから夫たちの出産が、控えているのだから。
♢♢♢
「律さん、ありがとう。助かりました。」
キッチンで晩御飯の仕込みをする律にお礼を言うと、彼は鍋を火にかけながら私を見た。
「繭にあんなに心配してもらえるあいつが、少し羨ましいよ。」
ハハっと爽やかに微笑む律は、男前で眩しい。
至近距離では照れてしまって、直視出来そうもなかった。
ベッドでの少し意地悪な彼を、思い出してしまうから。
「律さんに対しても、同じくらい心配します。」
「冗談だよ、本当にお前は可愛いな。」
彼が、私のうなじにキスを落とす。
耳元や首が弱いことを彼は熟知していて、感じるところにばかり触れてくる。
「んっ・・・律さん・・・っ」
彼の低くて甘い声で囁かれると、すぐにスイッチが入ってしまう自分が恥ずかしかった。
「俺はお前の夫なんだから、いつでも頼って良いんだよ。困った時は助けるし、身体が疼いてたまらない時は・・満足するまで貫いてやる。」
この声だ。
彼がベッドでだけ聴かせてくれる、甘くて低い、欲情した男の声。
(律さんの声・・・・エッチすぎる・・・♡)
夫たちの前とは違う、私だけが聞くことのできる彼の声。
この世界で彼に特別扱いされるのは、私だけなのだという優越感。
心も身体も、彼が満たしてくれる。
「今日は泉のそばにいてやれよ。あの足じゃ階段は危ないから、一階の客間で寝るように言っておいた。」
彼の気遣いや優しさは、いつだって完璧だ。
その男気に、私は惚れ込んでいた。
「あ、ありがとうございます・・。」
「どうした?欲しくなったのか?・・・明日、たっぷり愛してやるよ。」
耳打ちされて私が彼を見上げると、にっこりといつもの穏やかな笑顔がそこにある。
(こんなにエッチな気持ちにさせておいて・・・なんて罪なイケメンなの・・・・っ?!)
私は彼に恨めしい気持ちを抱きながら、赤い顔でキッチンを後にした。
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