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『ホテル』
しおりを挟む雫と一緒にいた女性のことが、気になって仕方ない。
夫婦の会話を人一倍大切にしている彼が、後輩女性の件を私に話さなかったのは何故だろう?
何度考えても「やましいことがあるから」という結論に辿り着いて、胸が苦しい。
音弥が運転している車の助手席で、窓の外をぼんやり眺めながらため息を吐き出す。
「マユたん・・あの、良かったら・・・っ」
長い沈黙を破って、決意したように彼が口を開く。
「ホ、ホテル・・・っ、行かないっすか・・ッ?」
「え・・・?」
「ダメならもちろん・・断ってくれて良いからっ・・・・」
耳まで真っ赤に染めてたどたどしく言葉を紡ぐ彼の必死さに、こちらまで急にドキドキしてきた。
ウルフヘア、ゴツめのピアス、パンクな服装。
ルックスからは想像できない、彼の純粋さにキュンとしてしまう。
「うん、いいよ。」
「え・・?良いの?ほんとに・・ッ?」
「うん、私も音弥君と二人きりで過ごしたいな。」
ミュージシャンの彼は忙しくて、普段なかなかゆっくり過ごす時間を持てない。
前に雑誌で見て行ってみたいと言ったホテルを、彼は覚えていてくれた。
♢♢♢
街中が見下ろせる豪華で大きなバスルーム。
とびきりスペシャルな部屋で過ごす、夫婦二人きりの時間。
一緒にお風呂に入ろうとしつこく誘ったら、恥ずかしがり屋の彼は赤い顔でコクリと頷いた。
泡風呂に浸かりながら、夜景を見下ろす。
「ご・・ごめん!マユたん・・・俺・・・っ・・」
思い切り甘えたくて彼の脚の間に入り込み背を預けると、硬いモノが腰に当たる。
慌てて身体を引いた彼が可愛くて、振り返ってキスをした。
「ん・・っ・・・マユ・・・好き・・・・ッ」
私の言動一つで真っ赤になる音弥が、愛おしくてたまらない。
こんなに幸せな時間を夫と過ごしているのに、時折チラチラと雫や桜雅のことが頭に浮かんで憂鬱になった。
「今は、俺のことだけ考えて・・?」
掠れ声でそう言った彼が、切なそうに目を細めて私を見ている。
彼の表情が妙にセクシーで、私は一気に欲情してしまった。
離れた唇がもう一度ゆっくりと重なって、舌が絡み合う。
「俺がマユの全部、、独り占めにしたい・・っ」
無数に浮かんでくる心配事も、今だけは全部忘れよう。
珍しく積極的な音弥のリードに任せて、私はゆっくり目を閉じた。
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