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『引きこもり?』
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「な・・何の音ですか?!」
リビングで朝食後のお茶を飲んでいたら、団欒の穏やかな空気を突き破って大爆音が響いてきた。
「あ~、あれな。今2階の奥の部屋、工事してんの。」
隣の席に座る桜雅が、声を張り上げて説明する。
「工事・・・?」
そんな予定あっただろうか。
しばらく留守にしていた間に、家のことが全く把握できない状態になっている。
「繭ちゃん、あいつに会った?」
「あいつって?」
「新入りだよ。先週から家族になった、例のプログラマー。」
「あ・・・」
すっかり忘れていた。
新しく夫として我が家に迎え入れることになった、相模原 恩志。
世界的に有名なプログラマーで、あっという間にシステムを構築してしまう天才なのだと、桜雅が熱弁してくれたのを思い出す。
地上での生活や新たな問題に追われて、新しい夫が来る予定を失念していた。
「部屋はまだたくさんあるよね、何の工事なの・・・?」
サーバー設置とか、機器導入のための工事だろうか?
「あいつ、引きこもりで部屋から一歩も出ねぇの。誰もまだ挨拶できてねぇし・・・部屋から一歩も出ないから、慶斗さんがみかねて恩志の部屋に風呂とトイレ作ってやるって言ってさぁ。」
「引きこもり?!」
「俺もまだ会ったことないんだよな。」
思いもよらぬ展開に、頭がついていかない。
まずは挨拶してお互いを知ることから・・・!と私は気を取り直した。
♢♢♢
同じ家で暮らしているのに自分の夫に一度も会えないとは、一体どういうことだろう。
まずは挨拶しよう!と試みてから、早くも一週間が過ぎ去ってしまった。
自室の工事が終わるまでは、彼は一階の別部屋に寝泊まりしている。
工事が終了して彼が自室に戻るタイミングを何とか押さえようと、私は必死だった。
「あ、・・あの・・・!!」
廊下で待ち伏せしていたら、音もなく全身黒づくめの男が姿を現す。
パーカーのフードを深々とかぶっているので、顔は全く見えない。
ウェーブした長い黒髪がだらりと伸び、艶もなく乾燥し切っている。
「私、繭です!!あなたの、妻です・・!!恩志さんですよね・・!?」
自分の夫をとっ捕まえて名前を確認する日が来ようとは、まだまだ人生何が起きるかわからない。
顔を覗き込むと、驚いたように目を丸くしたヒゲの男性は、フードの中から私を見つめたまま固まっている。
目を合わせようとしても、彼の瞳は私を通してどこか遠くの世界を見ているようだった。
何ヶ月も剃っていないのかヒゲは生えっぱなし、髪も伸ばしっぱなしで、全容がまるで掴めない。
「・・・・人違いです。」
永遠かと思えるほどの長い沈黙の後、彼は小さく呟くと、吸い込まれるように部屋の中へ消え去っていった。
リビングで朝食後のお茶を飲んでいたら、団欒の穏やかな空気を突き破って大爆音が響いてきた。
「あ~、あれな。今2階の奥の部屋、工事してんの。」
隣の席に座る桜雅が、声を張り上げて説明する。
「工事・・・?」
そんな予定あっただろうか。
しばらく留守にしていた間に、家のことが全く把握できない状態になっている。
「繭ちゃん、あいつに会った?」
「あいつって?」
「新入りだよ。先週から家族になった、例のプログラマー。」
「あ・・・」
すっかり忘れていた。
新しく夫として我が家に迎え入れることになった、相模原 恩志。
世界的に有名なプログラマーで、あっという間にシステムを構築してしまう天才なのだと、桜雅が熱弁してくれたのを思い出す。
地上での生活や新たな問題に追われて、新しい夫が来る予定を失念していた。
「部屋はまだたくさんあるよね、何の工事なの・・・?」
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「あいつ、引きこもりで部屋から一歩も出ねぇの。誰もまだ挨拶できてねぇし・・・部屋から一歩も出ないから、慶斗さんがみかねて恩志の部屋に風呂とトイレ作ってやるって言ってさぁ。」
「引きこもり?!」
「俺もまだ会ったことないんだよな。」
思いもよらぬ展開に、頭がついていかない。
まずは挨拶してお互いを知ることから・・・!と私は気を取り直した。
♢♢♢
同じ家で暮らしているのに自分の夫に一度も会えないとは、一体どういうことだろう。
まずは挨拶しよう!と試みてから、早くも一週間が過ぎ去ってしまった。
自室の工事が終わるまでは、彼は一階の別部屋に寝泊まりしている。
工事が終了して彼が自室に戻るタイミングを何とか押さえようと、私は必死だった。
「あ、・・あの・・・!!」
廊下で待ち伏せしていたら、音もなく全身黒づくめの男が姿を現す。
パーカーのフードを深々とかぶっているので、顔は全く見えない。
ウェーブした長い黒髪がだらりと伸び、艶もなく乾燥し切っている。
「私、繭です!!あなたの、妻です・・!!恩志さんですよね・・!?」
自分の夫をとっ捕まえて名前を確認する日が来ようとは、まだまだ人生何が起きるかわからない。
顔を覗き込むと、驚いたように目を丸くしたヒゲの男性は、フードの中から私を見つめたまま固まっている。
目を合わせようとしても、彼の瞳は私を通してどこか遠くの世界を見ているようだった。
何ヶ月も剃っていないのかヒゲは生えっぱなし、髪も伸ばしっぱなしで、全容がまるで掴めない。
「・・・・人違いです。」
永遠かと思えるほどの長い沈黙の後、彼は小さく呟くと、吸い込まれるように部屋の中へ消え去っていった。
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