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シナリオ通り
しおりを挟む翌日、目が覚めると私は自分のベッドの上で眠っていた。
朝起きて隣に男性が居ないことに、すでに違和感を覚え始めている。
慣れというのは恐ろしい。
今まで人生のほとんどの時間は、一人きりで寂しく過ごしてきたというのに。
総モテ生活を経験して、それが普通のように思えている自分が怖かった。
サシャに抱かれたことは、私の勝手な妄想だったのだろうか?
ぼんやりと彼の言葉を思い出しながら、服を着替える。
『まずは・・・君の初恋の彼を呼び寄せようか?』
彼の声が頭に響く。
(まさかね・・・。いくらなんでも、それは無理でしょう。それが出来たらサシャは宇宙人決定だわ。)
お腹が空いたのでとりあえず食堂へ向かおうと、部屋の扉を思い切り開く。
「うわ!びっくりした。・・S・・久しぶりやな。」
「・・・・嘘でしょ・・・・?」
(サシャ・・・宇宙人決定・・・!!)
私は信じられない気持ちで、目の前にいる男を見つめる。
彼は、私の初恋の相手。佐原 和行、本人だった。
♢♢♢
「ほんまに久しぶりやな。」
「ねぇ、カズ。どうやってここに来たの?」
「それがめっちゃ不思議やねんけど、朝目が覚めたらすでにここに居たんよな。」
「そんな訳ないでしょ。」
彼は関西人で、いつも冗談ばかり言っていた。
どんなに深刻な状況でも、冗談を言って笑い飛ばす彼の男らしさ。
私は彼に、心底惚れていたのだ。
当時の記憶を思い出して、ジンとくる。
「なぁ・・理由はどうあれ、久しぶりに会ったんやから、そんな顔せんで。」
私の眉間に指で触れると、皺を伸ばすように撫でる。
以前はド派手な金髪だった彼の髪色は漆黒に変わっていて、あの頃よりとても大人びて見えた。
気付くと私は、泣いていた。
ポロポロと涙が溢れ出して、止まらない。
「お前の泣き顔、久々に見たわ。」
彼は掬い上げるように私を抱きしめると、ぎゅっとその手に力を込めた。
「カズ・・・っ・・・私・・・っ」
「会いたかった。」
彼の声。彼のにおい。彼の言葉。
その全てが懐かしくて、愛おしい。
私たちはしばらくの間、黙ったまま抱きしめ合っていた。
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