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3人の中学生
しおりを挟む目が覚めた時、一瞬自分がどこにいるのかわからなかった。
俺はそれくらい長い間、生まれ故郷を離れており、自分の潜在意識は現在暮らしている都会のあの喧騒の中にあるのだと、軽く絶望を覚えた。
緑に囲まれた土地にいると、その生命の力強さを否応なしに身体に受ける。
理屈ではなく、本能で、自然のエネルギーを感じとってしまうのだ。
お寺の中は、古い木の匂いと、畳のかびくさい匂い、線香の香りとが相まって、妙に落ち着くから不思議だ。
それでもやはりこの場所は、人間の死とは切り離せない物悲しさを内包している。
須藤と明石が起きる前に、吉田の遺体をもう一度見ておきたい。
そう思って起き上がった俺は、昨夜入ったはずの布団がないことに驚いた。
俺はいつの間にか、畳の上に身一つで寝転んでいた。
視界に違和感を覚え、隣の布団で眠っていたはずの彼らを探す。
「どういうことだ・・・・?」
須藤と明石は、俺と同じように畳の上に体を投げ出すように眠っていた。
「これは一体・・・どういうことだよ・・・っ」
誰に言うでもなく、声に出ていた。
「ん・・・なんだよ、もう朝か。」
起き上がった須藤と、顔を見合わせる。
「・・・?!那月・・・?!お前、なんで・・・嘘だろ・・」
須藤が俺と同じようなリアクションをとった。
俺の顔を手のひらで包むように触って、信じられないという顔で固まってしまった。
「うるさいな・・健、朝から騒ぐな。」
今度は明石が起き上がる。
「え・・・・?那月・・・?健・・・・、これは一体・・・・」
さすがの明石も、驚いて目を見開いた。
「那月と・・・健だよな・・?」
指をさして、俺と、須藤を確認する。
「俺たち、なんで・・?!なんで中学生に戻ってるんだ?!え、え?一体全体どうなってんだよ!?」
須藤はパニックになって叫びだす。
俺も叫び出したい気分だった。
俺たちは、中学生の時の姿をしている。
学ランを着て、中学生の姿になったお互いの顔をマジマジと見つめ合っていた。
♢♢♢♢♢♢
「俺たちはタイムスリップしたらしい。」
明石が冷静に、そう呟いた。
「タイムスリップって、どういうことだよ?!」
須藤は相変わらずパニックの渦中にいる。
昔から、この二人は正反対だ。
何も変わっていない彼らに、苦笑する。
何一つ解決はしていないけれど、若い姿に戻っただけで
なんでも出来そうなエネルギーが湧いてくるから不思議だ。
若さとは、そういうものだった。
たった十数年経っただけで、忘れてしまうとは恐ろしい。
俺たちは寺に忍び込んで一夜を明かしたということで、寺の住職にこっぴどく叱られた。
昨夜会った住職とはまるで別人みたいにパワーがあって、時の流れの残酷さをここでも感じる。
十数年の月日は、俺たちが思っているよりずっと多くの人や物を変えてしまった。
この時代ではエネルギーに溢れていた俺たちや住職は皆等しく歳を取り、吉田に至っては生命を終えてしまったのだから。
「それより、吉田はどうなったんだ?遺体が無くなってる。」
俺は混乱する頭に浮かんだことをそのまま口に出す。思考も中学時代の俺になってしまったんだろうか。
「俺たち3人が、中学校時代にタイムスリップしたと考えるのが妥当じゃないかな。」
「じゃあ吉田は・・・」
色々な思いが頭をめぐる。昨夜見た吉田の遺体。桜の中で笑った中学生の彼。
「きっと学校にいる。」
俺たち三人は、中学生の時のように、息ぴったりで頷き合った。
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