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♧『呉服屋』(SIDE 東雲 龍牙)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♧東雲 龍牙(しののめ りゅうが) 29歳
東雲家長男。黒髪、肩より少し長いくらいのロン毛。
茶道家元の息子ながら、お茶には全く興味がない。
伝統を生かした日本家屋を専門に扱う一級建築士。茶室の設計を得意とする。
建築事務所を経営する若きやり手社長。周りにはいつも彼を支えたいという支援者が現れる。
♧蓮乗 志信(はすの しのぶ) 32歳
東雲龍牙の建築事務所の社員。
一級建築士の資格も持ちながら、インテリアデザイナーとして活躍している。
デザイン系に強いマルチな能力の持ち主。雑誌の取材も多い。
営業力もあり、企業とのコラボなど、次々と新たな企画を立ち上げる。
フェロモン系。泣き黒子が色っぽい印象を与える。肩下までの長さのウェーブヘア。黒髪。
龍牙のことが好きで、彼のためならなんでもやる。龍牙の優秀なビジネスパートナーであり、精神的支えでもある。
龍牙と半同棲のような生活をしている。
♧畝井 諒一(うねい りょういち) 39歳
呉服屋の息子。着物姿の色男。やり手の社長。
細縁のメガネ、七三に綺麗になでつけられた髪型。
鋭い切れ長の瞳。知的な顔立ち。
抑揚のない声で話す、冷たい印象の美男。
志信に惚れている。
~~~~~~~~~~~
♧『呉服屋』(SIDE 東雲 龍牙)
志信が呉服屋とのコラボで着物のデザインをすることになった。
志信はインテリアだけでなく、あらゆるデザインの仕事に挑戦している。
ジャンルを問わず、彼のデザインセンスは通用するらしい。
彼は最近、畝井諒一という呉服屋の息子と意気投合し、プライベートでも食事に行く仲になった。
俺たちの設計事務所で進めている海外進出のPRイベントの一つとして、是非協力したいとの申し出が先方からあり、畝井呉服店とコラボした着物のデザインショーを開催する運びとなった。
畝井という男はやり手の社長で、畑違いの俺たちの業界でも最近よく名前を耳にする。
着物だけでなく、あらゆる業界に手を伸ばす経営センスはピカイチなのだと知り合いの社長たちから噂を聞いていた。
その男がどうやら志信のことをかなり気に入っているらしい。
「思った通りの仕上がりで、感動しました。」
「志信さんのデザインが素晴らしいので、私も出来上がりを見て感動したんですよ。」
志信が仕上がった着物を見ながら、畝井と打ち合わせをしている。
ショーの打ち合わせを兼ねて同行したのはいいが、二人の距離が妙に近くてイライラする。
そんなに身を寄せ合って話す必要があるのか?
ボディタッチが多いのが、やたらと目に付く。
畝井という男は、着物姿の似合う色男だ。
雑誌にもちょくちょく掲載されていて、とても絵になるルックスをしている。
以前モデルをやっていたこともあるそうで、高身長でスタイルも良い。
志信とはまた違ったタイプの色気が漂う存在感のある男だ。
穏やかで、流れるような心地よいリズムの話し声。低音で、耳に残る良い声をしている。
人の印象に残りやすい声音。涼しげで知的な目元。
普段俺が志信の仕事に同行することは少ないが、いつもこんな風に営業しているのかと思ったら心配になってきた。
俺にも一応独占欲というものがあったらしい。
仕事に打ち込むばかりで、志信の気持ちに応えることを後回しにしている自分が、そんなものを主張する権利は無い。
それでも、理性と感情は全くの別問題だった。
「畝井って、志信のこと好きだろ。」
帰りの車の中。俺の助手席に座る志信が畝井の話ばかりするものだから、俺はさらに不機嫌になる。
「そんなわけないだろ。龍牙はそんなこと考えながら俺たちを見てたの?」
俺たち。
その言い方にまたカチンときてしまう。
意気投合したというだけあって、彼ら二人の距離感は相当近かった。心を許しているのだろう。
志信が俺以外の男とあれほど近い距離感で話しているのを初めて見た。
自分が魅力的であることを自覚している志信は、いつも他人と距離をとるように心がけている。
そう自分で言っていたくせに。
恨みがましい気持ちになっている自分の女々しさが嫌になる。
二人がイチャイチャと打ち合わせするところを散々見せつけられて、結局俺が来た意味って何かあったのか?とまで思う始末だ。
畝井の従兄弟だという副社長の高山は、気さくでとても話しやすい男だった。
目立たなく控えめな立ち位置をとっているが、相当なキレ者だと話していてすぐにわかる。
畝井のサポート役として、秘書のように立ち振る舞っていた。
「高山さんはすごく話しやすくて、仕事ができる男って感じだったな。」
「彼はサポート役で、いつも打ち合わせには来ているよ。あまり前に出ない人だけど、すごく頭がいい人だよね。諒一さんとは従兄弟らしい。」
「諒一さん、ね。」
彼を名前で呼んでいる志信に、俺の怒りは頂点に達した。
指摘された志信は一瞬ハッとしたような顔を見せたけれど、すぐにいつもの余裕な表情で思わせぶりにつぶやいた。
「プライベートでは、名前で呼んでいるから、つい出ちゃうね。やっぱり苗字で通すべきかな。」
「志信、お前な。仲が良いのは結構だけど、あくまで仕事の相手なんだからきちんと距離を保てよな。」
面白くない。
いつも自分につきっきりで俺のことしか目に入っていない彼が、他の男と仲良くしていることに。心を許していることに、イラついてしまう。
「わかってるよ。龍牙。」
俺の挑発に志信は絶対に乗ってこない。
彼は俺より年上で、余裕のある大人の男だ。
信号が赤に変わる。
助手席の窓から外の景色を眺めている志信は、どこか上の空だった。
こんなに強い苛立ちを感じたのは、久しぶりだった。
「志信、」
俺の声にこちらを振り返った志信の首に、手で触れる。
引き寄せると、噛み付くようにキスをした。
「・・・龍・・牙・・・ッ」
隣で信号待ちをしている車の運転手が驚いてこちらを見ている。
そんな視線も、俺の歯止めにはならない。
「あんまり妬かせるな。」
額を合わせて、そう呟くと、再び彼に唇を重ねた。
「龍牙・・・信号、青。」
長い睫毛を伏せたまま、志信が小さな声で前を示す。
その顔にいつもの余裕は感じられず、頬は赤く染まっていた。
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