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メロンパン職人の潮くんと、コーヒー担当の野中③ 完
しおりを挟む「潮くん、今日の限定メニューは何かな?」
「ホイップクリームメロンパン。」
小さな店の小さなキッチン台の上で、今日も潮くんはいつも通りパンを捏ねる。
メロンパンが大好きな彼は、メロンパン以外のパンにはまるで興味がない。
毎日、大好きなメロンパンだけを一つ一つ大切に手で捏ねて作る。
僕たちの暮らしもこんな風に、お互いのことだけを見つめて大切に育てていけたらと、一生懸命な彼を眺めながらそんなことを考える。
コーヒーの淹れ方もかなり上達した。
都会にいた頃は、日々の忙しさに流されるまま生きていて、一つのことに集中したり、ゆっくりと成長の経過を楽しんだりなんてことはなかった。
海辺の街での生活は、否応なしに自分を見つめる時間をくれる。
パン屋の朝は早い。
朝型の生活も都会では辛かったのに、最近はワクワクして自然と目が覚める。
健康的な朝型生活。
何も言わなくても、彼の体調がわかるし、自分のコンディションもよくわかる。
暮らしを共にするというのは、こういうことか。
お互いをきちんと把握できる距離にいる、丁寧な生活。
潮の香りと、キラキラ眩しい太陽。
甘く香るメロンパンと、コーヒーの香ばしいにおい。
いつの間にかそれは、僕らの幸せの香りになった。
いつも同じであることがストレスだった都会の日々。
海辺での暮らしは、いつも同じであることを愛おしいと大切に思わせてくれる。
毎日同じことを、大切に、丁寧に、育ててゆく気持ち。
環境が変われば人は変わる。
愛する人がいれば、それ以外何もいらないだなんて、
昔の僕なら思えなかった。
OPEN時間の1分前に、注文口の窓を開けてプレートをかける。
焼き上がったメロンパンの良い香りに、満足そうに微笑む彼。
「いらっしゃいませ。」
今日も変わらない一日が始まる。
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