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♤『あの夏』(SIDE 八神 雷)
しおりを挟む~~~~登場人物紹介~~~~
♤八神 雷(やがみ らい) 19歳
ロックバンドSAWのボーカル。
赤髪のウルフヘア、黒のインナーカラー。襟足が長く、肩下10センチの長髪。
小柄だが声量がものすごい。
きつい印象を与える目力があるが、童顔で可愛い顔立ちなのがコンプレックス。八重歯がかわいい。
性格はキレやすく攻撃的。舐められないように肩肘を張って生きている。
人見知り、ツンデレ、天邪鬼だが、根はとても繊細、純粋で傷つきやすい。寂しがり屋。
初恋のギタリスト臣(オミ)を三つ子の弟に取られたことがトラウマで、恋愛には臆病。
♤椎堂 獅(しどう れお) 24歳
ロックバンド「ジュネス」のボーカル。フランスと日本のハーフ。金髪、青い瞳。
筋肉質で胸板が厚くがっしりとした体、190センチの長身。
女遊びが激しい俺様男。いつも偉そうな態度。声がでかい。
元同じバンドだったSAWの綾、Crossの黒木凌司と仲が良い。
♤早川 亮(はやかわ あきら)23歳
ロックバンドSAWのギタリスト。
黒髪に白メッシュのミディアムヘア。
タレ目だが目力のあるイケメン。いつも仏頂面で、眉間にシワを寄せている。愛煙家。
雷の一番の理解者で、弟のように可愛がっている。
~~~~~~~~~~~
あの夏。
灼熱のステージで聴いた、あいつの歌声が、
今でも忘れることができずに、胸の中に響いている。
「雷、今年のフェスの曲順、見たか?」
レコーディングの休憩中。
同じバンドのギタリスト早川亮は、
ロックフェスの出場順を示したリストを手に、
俺の隣に座った。
亮は俺の兄貴みたいな存在だ。
歳は4つ上。
いつも俺のことを考えて、フォローしてくれる。
「見た。ジュネスの前とか、最悪。」
つい、イライラしてしまう。
初めてジュネスのボーカル、
椎堂 獅の歌声を聴いたのも、
このロックフェスだった。
あの時は、獅の歌声に圧倒されて、身動き一つ出来なかった。
時間が止まったみたいに、
あいつの声だけが俺の中に響いて、
息をするのも忘れていた。
憧れなんかじゃない。
ただ、悔しかった。
自分の歌声が一番だと、思っていたから。
誰かの歌声に、圧倒されたことなんて、一度もなかったから。
あれから数年の時が流れて、
俺たちのバンドSAWは、ジュネスと並ぶバンドに成長していた。
「去年のフェスは、色々あったけど、楽しかったな。」
亮が眩しそうに、目を細めながら呟いた。
去年のフェス。
ジュネスの一つ前の曲順だった俺たちがステージで演奏すると、
こともあろうに途中から獅が乱入してきた。
「お前、チビのくせに、良い声してんな!」
唖然としている俺に、
あいつは悪びれもせずに、そう言った。
悔しいけれど、獅の歌唱力は本物で、ビリビリと耳から脳天に響く迫力がある。
あいつの歌声に、「感動」に近いような、激しい感情がこみ上げて涙が出そうになった。
二人で歌ったあの瞬間の気持ち良さを、俺は忘れることができない。
「獅はほんと、無茶苦茶やるよな。」
亮が苦笑しながら言う。
「無茶苦茶なんてもんじゃねぇよ。あの俺様野郎。」
椎堂獅という男は、規格外の男で、
ルールなんてものは総無視。自分ルールで生きる俺様だった。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
ライブ乱入事件の後、運営側から一通りの注意を受けた後、
宿泊先のホテルの裏にあるビーチで、俺は夕日を眺めていた。
獅と歌ったステージの興奮が冷めず、
一人でぼんやりと、綺麗な海を眺める。
祭りのあと。
ライブの後はいつもこうだった。
どうしてこんなに切ない気持ちになるのだろう。
「よお。」
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには椎堂 獅が立っていた。
「お前・・、なんの用だよ。」
「相変わらず気強いな、お前。そういう威勢のいいところ、嫌いじゃねぇ。」
「どうしてお前っていつもそう偉そうなわけ?」
乱入したこいつが暴れ回ったせいで機材が故障し、
こっぴどく叱られたはずなのに、当の本人は全く堪えていないらしい。
「お前の声、なかなか良かったぜ。気に入った。」
直球の発言に、思わず顔が赤くなった。
不意打ちはずるい。
「へぇ。可愛いとこあるんだな。」
赤面したのを見て、
獅はガシガシと俺の頭を撫で回した。
「やめろよ、バカ、」
抵抗して手を振り払うと、
急に世界がひっくり返った。
砂浜に押し倒されたのだとわかったのは、その数秒後。
綺麗なオレンジ色に照らされた、
獅の顔がドアップで見えて、
唇が、俺の唇に触れた。
「っ・・!!ん・・・・ッ、や、やめ・・・・ッ!!」
激しく抵抗するも、奴の力に敵うはずもなかった。
190センチ超えの長身、
Tシャツの上からでもわかる嫌味なくらいに男らしい、逞しい腕。
小柄な俺は、奴にされるがままだった。
「・・・・ッ、ん~~~!!」
獅の舌が侵入してくる。
俺の・・・ファーストキス・・・・
なんでこんな奴と・・・・・・・!!!
「お前のこと気に入った。喰いてぇ。」
唇が離れると、
奴は俺を力でねじ伏せたまま、
満足そうにそう言った。
舌舐めずりするように、べろりと唇を舐めた奴の顔が、
雄の本能剥き出しで、とても官能的だった。
怒りが頂点に達した俺は、
奴の顔をグーで殴った。
「・・っ、いいパンチじゃねぇか。」
頬にパンチをくらった獅は、
顔色一つ変えずに、嬉しそうな顔で頬を拭った。
「てめ、いい加減にしろよ・・・!!!」
「ますます気に入った。」
ケタケタと笑う、夕日に照らされた獅の顔。
♢♢♢♢♢♢♢♢♢
それからというもの、
獅はどこで会っても、俺にちょっかいかけてくるようになった。
スタジオだろうが、TV番組だろうが、お構いなしだ。
「ジュネスから合同練習しないかって、誘いがあった。」
「え・・・!まさか、亮、Okしたりしてねぇよな。」
「それが、リーダーが獅に押し切られて、OKしたらしい。」
「なんっだよそれ!リーダーあいつに弱みでも握られてんの?」
ジュネスと合同練習。
その場で、お互いが新曲を発表することになったらしい。
今年の夏も熱くなりそうだ。
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