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♡『風邪』(SIDE 篠 直人)
しおりを挟む~~~~登場人物~~~~
♡篠 直人(しの なおと) 29歳 内科医師
ボサボサの黒髪。黒縁メガネ。小柄で白衣がぶかぶか。童顔で学生に見えるが、内科の新米医師。
ドジっ子でいつも何かしらやらかしている。
薬剤部の羽山とは小学校からの同級生で親友。一生懸命で真っ直ぐな性格。純粋で鈍感。
♡有明 総司(ありあけ そうし) 34歳 内科医
サラサラのマッシュルームヘア。色素の薄い茶髪。クォーター。
童顔で30代には見えない優男。いつもニコニコしている。
朗らかで柔らかい雰囲気の内科医。大人気の医師で外来はいつも混雑している。
後輩として面倒を見ている篠医師のことが大好きで、とても可愛がっている。
♡羽山 柊(はやま しゅう) 29歳 薬剤師
篠のルームメイト。
短い茶髪。優等生気質だが、劣等感が強い。潔癖症。少々歪んだ性格の持ち主で、自分のことが大嫌い。
内科研修医の篠に、学生時代から想いを寄せている。いつでも篠の味方。篠のことばかり考えており、
篠の世話を焼くのが大好き。
~~~~~~~~~~
♡『風邪』 (SIDE 篠 直人)
風邪をひいた。
熱は38度6分。
久々の高熱に僕はダウンしていた。
頭はボーっとするし、身体は寒気でガタガタ震えるし、節々の痛みでギシギシいっている。
最後に風邪をひいたのはいつだっけ。
ぼんやりする頭で、僕はそんなどうでもいいことに脳内エネルギーを使う。
最後に風邪をひいたのは、確か研修医1年目の冬のことだ。
僕はストレスをうまく自覚出来ない体質で、疲れにも鈍い。
自分の体や心が無理していることに気付かず、まるでスイッチが切れたみたいに
突然倒れたり、風邪をひいたりする。
医者がそう簡単にダウンしてどうする。
医者のくせに自覚がない。
散々怒られて周りに迷惑をかけて、やっぱり医者に向いてないのかなぁなんて
思った記憶がある。
そして今日、また僕は風邪でダウンして、病院に迷惑をかけてしまった。
内科医が、風邪でダウンなんて。情けない。
自嘲気味にそう呟いて、僕はごろりと寝返りを打った。
タイミングが悪いことに、ルームメイトの柊君は、出張で大阪に行っている。
以前風邪をひいた時は、柊君が身の回りのことを全部やってくれた。
おかゆを作ってくれたり、僕の様子を見に1時間おきに部屋を見に来てくれたり。
風邪くらいで心配しすぎだよ、と思ったけれど、それがどんなにありがたいことだったのか、今ようやくわかった。
ひとり暮らしで風邪を引くのはキツいと聞くけれど、その言葉の意味を実感している。
僕が休んだ外来の穴を埋めてくれたのは、明後日から非常勤でうちの病院に来る
音川先生だ。
今日挨拶するはずだったのに、会う前から迷惑をかけることになるなんて。
最悪の気分だった。
ピコン、とスマホが鳴る。
柊君かなと思い、枕元に置いてあるスマホを確認すると、
有明先生からだった。
『これから行っても大丈夫?』
時間を見ると、診療が終わってそろそろ帰宅する時間だ。
既読にすると、すぐに先生からの着信。
「はい、もしもし。」
『篠、具合はどう?』
「大丈夫です。今日は診察に穴を開けてしまってすみませんでした。」
そればかりが気がかりだった。
僕がきちんと体調管理できていないせいで、患者さんにも、先生たちにも迷惑をかけてしまった。
不甲斐なくて、苦しい。
『そんなことより、何か食べたいものはない?買っていくよ。』
先生は全く気にしていない様子で、僕の食事の心配をしてくれている。
「大丈夫です、すみません。」
『じゃあ何か適当に買っていくね。』
それから20分くらいすると、有明先生が僕の家にやってきた。
病院での有明先生しか見たことない僕は、
自分の部屋に先生がいることに感動して見入ってしまう。
僕のベッドに、有明先生が腰掛ける。
「まだ結構熱があるね。今の症状は?」
「熱と、頭痛と、節々が痛いのと、あと少し喉が痛いです。」
「口を開けて見せて。」
有明先生に診察されるのは、少し恥ずかしい。
当たり前なんだけど先生が医者の顔をしていて、ランチ休憩中とのギャップに僕はドキドキしてしまった。
子どもの頃からそうだった。
お医者さんに診察されるのは、妙に緊張してしまう。
お昼に話した時に症状を伝えておいたので、先生は薬を処方して持ってきてくれた。
「水分も栄養もたりてないね。点滴持ってきたよ。」
「・・・すみません。」
「医者だって人間だから、風邪くらいひくよ。」
研修医時代に散々怒られた経験があったから、僕は身構えていたらしい。
先生の言葉に拍子抜けしてしまった。
「先生も、風邪ひいたりするんですか?」
「僕だってただの人間だよ。」
有明先生はいつもの笑顔でそう言った。
先生が僕の腕を消毒する。
僕の血管を確認する先生の指。
伏せられた睫毛の長さ。
うっとりしてしまうくらい、先生は綺麗だ。
針を刺される時は、やっぱり少し緊張する。
有明先生が触れている部分が、特に緊張して身体が固くなった。
スッと針が血管に入る感覚。
いつもは看護師さんがするから、有明先生がしているところは見たことがない。
先生が医療行為をしているところを見るのが、僕は好きだ。
お医者さんはかっこいいなぁと、有明先生を見ているといつも思う。
自分も医者なのに、僕と先生じゃあ全然違うんだ。
針が刺さった感覚がわからないくらい、全く痛みを感じなかった。
先生はテープで針を固定すると、点滴の落ちる量を調整して、僕に視線を戻す。
どうしてこんなにドキドキするんだろう。
熱のせいで、身体も頭もおかしくなってしまったみたいだ。
有明先生はベッド脇に座って、僕のボサボサの頭を撫でる。
額に触れて、体温を確認する。
先生に触れられているところ全部が熱くて、なんだか苦しい。
「今日の外来、迷惑かけてしまってすみません。」
「音川先生が、入ってくれたから大丈夫。今日の外来は、いつもより空いていたしね。」
「そうですか。」
「早く治ってもらわないと困るよ。篠がいないと、僕の元気も半減するしね。」
先生の目はいつも優しい。
僕は先生の笑顔が好きで、見ていると安心するんだけど、同時に変にドキドキしてしまって、居心地が悪い。
最近の僕はなんだかおかしかった。
「有明先生・・・僕、先生といるとなんか変なんです・・」
夢の中の出来事みたいに、ふわふわと現実味がない。
目の前に先生がいるのも、もしかしたら都合の良い夢なのかもしれないなぁ、なんてぼんやりと思う。
「変って?」
「先生のこと考えると、ドキドキしたり、緊張したりして・・・・先生がそばにいると、嬉しいのに苦しくなったり・・・変なんです。」
医者に体の症状を訴える患者のように、僕は自分の異変を伝えた。
「それは医者が診断することじゃないけど、僕にも身に覚えがあるよ。」
「有明先生も・・・?」
「うん。僕はね、篠のことが好きなんだ。」
先生が僕のことを好きでいてくれるのはわかる。
いつだって可愛がってくれるし、僕が風邪を引いて休んでも怒らないで体調の心配をしてくれた。
「好きっていうのは、特別な意味でね。」
「特別・・ですか?」
「そう。正直、僕も初めてのことで戸惑ってるんだ。」
有明先生は、しばらくの間、僕の目をじっと見つめていた。
「触れたくて、どうにかなりそうなくらい・・・篠が好きだよ。」
先生のこんな顔、初めて見た。
熱い視線が交差する。
いつもの笑顔の先生じゃなくて、男の人の意志を含んだ熱っぽい表情。
身体が熱くて、心臓が苦しくて、クラクラとめまいがする。
「有明、先生・・・っ、」
僕は、先生の後頭部を掴んで、引き寄せると、唇を重ねた。
「・・・篠・・っ、」
唇が離れる。
驚いて目を見開いている先生の顔を見て、僕はハッと我に返った。
「え・・あ・・・、僕・・なんで・・・っ」
自分のしたことに、一番驚いているのは僕自身だった。
「先生に、風邪・・うつっちゃいますね、すみません・・・!」
その上、見当違いな謝罪を口走る。
「篠・・・、」
今度は先生が、僕の唇にキスをした。
「・・・ッ、先生・・・っ、」
先生の髪の香りがふわりと香る。
僕は自分が抑えられなくなって、先生の舌に、夢中で舌を絡めた。
「・・ッ、篠・・・っ、」
先生が苦しそうに、呼吸する。
先生の舌。
気持ちよくて、僕はすぐにエッチな気分になってしまった。
先生に、もっと触れたい。
「篠、落ち着いて・・・」
先生が自分自身に言い聞かせるように、そう言った。
僕は風邪のせいか、興奮のせいかわからない熱に浮かされて、頭がぼんやりとしている。
「点滴してるから、危ないよ。」
「す・・・すみません。」
「これ以上は・・・篠の風邪が治ってからね。」
有明先生は、いつもの穏やかな笑顔に戻ってそう言った。
その夜、僕は風邪をひいていることさえ忘れてしまうくらい、有明先生のことをずっと考えていた。
目を瞑って寝たふりをしながら、頭の中は先生のことでいっぱいだった。
先生はそのまま、朝まで僕の隣で手を繋いでいてくれた。
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