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♤『親友』(SIDE 月野 蛍)
しおりを挟む~~~登場人物~~~~
♤月野 蛍(つきの けい)19歳
ロックバンドSAWのキーボード担当。
顎くらいまでの長さ、センター分け、サラサラの金髪。猫目。
人見知りで、無口。
ドラム担当の仁と一緒に暮らしている。
家庭環境が複雑で、両親は海外暮らし。
♤宍戸 黒衣(ししど こくえ)
蛍の大学の友人。
黒髪、ツーブロック 、一見怖そうに見えるルックスだが、根は優しく芯のある男。
スケボーが趣味。目つきが悪いので、よく喧嘩を売られる。
喧嘩は強く、肝が座っている。
あまり人と馴れ合わないが、蛍とは意気投合してすぐに仲良くなった。
蛍を守りたいという、自分の気持ちに気付く。
♤沢渡 仁(さわたり じん) 25歳
ロックバンドSAWのドラマー。
ワイルド系。筋肉質、高身長。銀髪。耳が半分隠れるくらいの長さ。
無口でクールな印象だが、心は優しく面倒見が良い。
情に厚い男。年下から慕われることが多い。何かと頼りにされる、兄貴肌。
幼なじみの渡里優羽を、子どもの頃からずっと一途に想っているが、気持ちを伝えようとは思っていない。
一緒に暮らす蛍と、幼なじみの優羽との間で気持ちが揺れている。
~~~~~~~~~~
♤『親友』(SIDE 月野 蛍)
「蛍、明日の夜少し遅くなりそうなんだ。」
お風呂上がり。
俺の髪をドライヤーを乾かしながら、音楽番組を見ていた仁は、
唐突にそう切り出した。
ついに来たか。
胸の痛みを抑えながら、彼を見る。
「そうなんだ。わかった。」
素っ気なく。興味がなさそうな口調で言う。
俺は全然構わないから、何も詮索しないから。
お願いだからそれ以上、何も言わないで。
心の中でそう願ってみても、仁はきっと言うだろう。
「優羽と出かけてくる。」
ほらみろ。
俺は仁のことは大体わかる。
仁のことが大好きで、いつもそばで見ているから。
「明日の夜は、黒衣君に泊まりに来てもらったらどうだ。」
さすがの俺でも、仁の口からそのセリフが出てくるとは思わなかった。
仁は黒衣のことを信頼している。
俺の友達として、一緒にいる相手として、認めているみたいだった。
最近はよく黒衣のことを聞いてくるし、良い子だよな、と彼との関係を深めろと言わんばかりの
発言が目立つ。
黒衣は確かに良い奴だ。
強くて頼りになるし、優しい。
そう考えてみると、仁に似ているかもしれない。
男らしくて頼りになる。後輩に好かれるタイプ。
兄貴肌。
強面で迫力がある見た目だけど、とても優しい。
人に対して愛がある。
その夜は、黒衣の家に泊まりに行くことにした。
その日のうちに帰ってくるかわからないのに、仁と暮らす家で待つのが嫌だったから。
それでも、
仁から連絡が来るかもしれない。
そんな期待を捨てられず、
スマホをチラチラと確認してしまう自分が情けなかった。
「仁さんからの連絡、待ってるのか?」
黒衣は鋭い。
俺のことをなんでも理解して受け入れてくれるから、すごく居心地が良くてつい甘えてしまう。
「そうじゃないけど・・・今日、仁は好きな人に会ってるから、ちょっと気になって。」
こんな風に素直に自分の感情を説明できるようになるなんて、自分でもちょっと驚きだ。
黒衣がそばにいてくれることで、俺は自分の気持ちに向き合えるようになっていた。
「蛍は仁さんのことが、本当に好きなんだな。」
「・・・・わかんない。」
本心だった。
「好きは好きだけど・・・前とは少し違う。」
あの大雨の夜から変わってしまった。
わがままを言えば、仁は俺の元に止まってくれるだろうと勝手に思い込んでいた。
仁はいつも優しかったから。俺のことを大事にしてくれていたから。
今は、彼には俺よりもっと大事なものがあるとわかっていて、
それを仕方ないと思えている自分がいる。
黒衣のおかげだ、思った。
全然納得は出来ていないけれど、
仁の気持ちをひとまず受け入れるというステップはクリアできたんだと思う。
黒衣は俺の親友だ。
お風呂から上がって、二人でアイスを食べる。
仁以外にも、アイスを食べて、笑いながら話せる人がいる。
そのことが救いだった。
黒衣の部屋のベッドは大きくて、泊まる時はいつも一緒に寝ている。
俺の第二の家なんて言ってしまうくらい居心地が良かった。
先ほど降り出した雨は、急に強くなり、
明かりを落とした部屋はまるでテントの中みたいだ。
雨の音に囲まれている。
ピカッと窓の外が光り、隣に寝転んでいる黒衣の顔を照らしだす。
雨の夜は嫌いだ。
あの夜からますます嫌いになった。
トラウマみたいに、胸が疼く。
「黒衣・・・」
「大丈夫だ。蛍。俺がいる。」
あの夜の絶望が急に胸に戻ってきた。
苦しい。
この痛みを乗り越えなきゃいけないと思うと、俺はいつも途方に暮れる。
黒衣を抱き枕みたいに抱きしめる。
今頃仁は、幼なじみの彼と抱き合っているのかもしれない。
そう思うとたまらなく息が苦しくなった。
「蛍、」
黒衣の声に顔を上げると、雷の光に照らされた彼の顔が一瞬見えた。
真剣な顔。
数秒の間を置いて、
彼の唇が俺の唇に重なった。
驚いて声が出ない。
今、俺は黒衣とキス、している。
「蛍・・・俺はお前が好きだ。」
「・・・黒衣、」
「仁さんのこと・・俺が、忘れさせてやるよ。」
黒衣が俺を力一杯抱きしめる。
「黒衣・・・・」
言葉が出てこない。
俺は勝手に、裏切られたような気持ちになっていた。
黒衣とは、親友だってそう思っていたのに。
「蛍・・・好きなんだ。」
彼はもう一度、愛の言葉を口にした。
「ごめん・・!」
彼の身体を手で押し返す。
「ごめん、黒衣・・・ごめん・・・」
俺はただ同じ言葉を何度も何度も、馬鹿みたいに繰り返していた。
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