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第11話 人を思う気持ちは止められない
③
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ルシオールは、長椅子の背もたれに背中を預けて、目頭を揉んだ。
考えることが多すぎる。
本来こういった国政に関わることについては、現国王である兄がなんとかすべきことのように思える。しかし、彼は側近のロンデル伯爵と周りの言いなりなので、どうしようもない。
それにおそらく、枢機卿は既に兄の命に狙いを定めている。もしも自分が即位することになれば――いや、できればその前に、二度と王室の権威が揺らぐことのないよう、万全の体制を整えておかなければならない。
「まだ何か用が?」
ルシオールは側近の厳めしい顔に視線を戻した。
少しひとりで策を練りたい。一度湯に浸かって頭をはっきりさせ、紅茶でも飲みながらゆっくり考え事がしたかった。
そんなルシオールの気持ちをよそに、デローニは動く気配をこれっぽっちも見せない。
「もうひとつご報告がございます。先日のコリアード伯爵邸での事件につきましては、伯爵がうまいこと収めて下さったとのことです。スタンフィル様も違法に抜刀するという罪を犯した手前、事件のことは一切口外しないと約束してくれたそうで」
「そうか、それはよかった。伯爵の元に何か礼を送っておいてくれ」
「かしまこまりました。しかしわたくしは、まだ殿下の口から詳細を伺っておりません。なぜあのような軽率な行動を?」
ルシオールは大きく息を吐きだして、ふたたび長椅子に背中を預けた。
『火急の用件がある』と言われてエレイナから離れたのは、枢機卿の悪事について内密の話がしたいというある貴族と会うためだった。あの演奏会に来ていた客が、デローニの変装を見破って声をかけてきたのだ。
話はそう長くはかからなかったが、戻ってきたら彼女がいない。不安に駆られて広間じゅうを探すも姿が見えず、もしやと思いデローニと二手に別れたのだ。
スタンフィルに馬乗りにされた彼女を見つけた時は、全身に戦慄が走った。怒りに任せて飛び蹴りを食らわせるも、奴はふたたび立ち上がり、剣を抜く。
絶対に彼女を傷つけるわけにはいかなかった。
そうこうするうちに、スタンフィルが助けを求めたために人がやってきた。しかし、自分の身元を明かすわけにも、王位継承権者である自分の身を危険に晒すわけにもいかない。
逃げるしかなかった。ひとまず彼女を辻馬車に乗せ、目立たぬところへ身を隠す。
なんとかしてデローニを探し出して、彼と合流した。そして、そこらへんにいる町娘に声をかけ、貧しい者が着るだぼだぼの服を譲ってもらい、それに着替えて離宮へと戻ったのだ。
あれからエレイナとは一切連絡を取っていない。
彼女も離宮へは訪れていないようだ。
日に日に心配は募るが、どうか彼女が身も心も健やかであるようにと、願わずにはいられない。
厳しい顔つきでじっと見つめるデローニの顔を、ルシオールはちらと見上げた。
「彼女を守るためだったんだ。仕方がないだろう」
「あなた様がなんのためにここに逃れたのかお忘れですか?」
これ以上不愉快なことはない、といった具合のデローニの顔を見て、ルシオールが頷く。
「わかってるよ。目立つ行動は控えろ、だろう?」
デローニはため息を吐いて首を振った。
「……仕方がありません、またどこかへ居を移しましょう。少々遠方になりますが、エクラム地方に王室が懇意にしているアッティム侯爵の城があったはずです」
「冗談言うな。私はここを離れるつもりはない」
ぴしゃりと言って、ルシオールが斜め下から彼を睨みつける。眉を吊り上げたデローニの喉仏が上下するのが目に入った。
考えることが多すぎる。
本来こういった国政に関わることについては、現国王である兄がなんとかすべきことのように思える。しかし、彼は側近のロンデル伯爵と周りの言いなりなので、どうしようもない。
それにおそらく、枢機卿は既に兄の命に狙いを定めている。もしも自分が即位することになれば――いや、できればその前に、二度と王室の権威が揺らぐことのないよう、万全の体制を整えておかなければならない。
「まだ何か用が?」
ルシオールは側近の厳めしい顔に視線を戻した。
少しひとりで策を練りたい。一度湯に浸かって頭をはっきりさせ、紅茶でも飲みながらゆっくり考え事がしたかった。
そんなルシオールの気持ちをよそに、デローニは動く気配をこれっぽっちも見せない。
「もうひとつご報告がございます。先日のコリアード伯爵邸での事件につきましては、伯爵がうまいこと収めて下さったとのことです。スタンフィル様も違法に抜刀するという罪を犯した手前、事件のことは一切口外しないと約束してくれたそうで」
「そうか、それはよかった。伯爵の元に何か礼を送っておいてくれ」
「かしまこまりました。しかしわたくしは、まだ殿下の口から詳細を伺っておりません。なぜあのような軽率な行動を?」
ルシオールは大きく息を吐きだして、ふたたび長椅子に背中を預けた。
『火急の用件がある』と言われてエレイナから離れたのは、枢機卿の悪事について内密の話がしたいというある貴族と会うためだった。あの演奏会に来ていた客が、デローニの変装を見破って声をかけてきたのだ。
話はそう長くはかからなかったが、戻ってきたら彼女がいない。不安に駆られて広間じゅうを探すも姿が見えず、もしやと思いデローニと二手に別れたのだ。
スタンフィルに馬乗りにされた彼女を見つけた時は、全身に戦慄が走った。怒りに任せて飛び蹴りを食らわせるも、奴はふたたび立ち上がり、剣を抜く。
絶対に彼女を傷つけるわけにはいかなかった。
そうこうするうちに、スタンフィルが助けを求めたために人がやってきた。しかし、自分の身元を明かすわけにも、王位継承権者である自分の身を危険に晒すわけにもいかない。
逃げるしかなかった。ひとまず彼女を辻馬車に乗せ、目立たぬところへ身を隠す。
なんとかしてデローニを探し出して、彼と合流した。そして、そこらへんにいる町娘に声をかけ、貧しい者が着るだぼだぼの服を譲ってもらい、それに着替えて離宮へと戻ったのだ。
あれからエレイナとは一切連絡を取っていない。
彼女も離宮へは訪れていないようだ。
日に日に心配は募るが、どうか彼女が身も心も健やかであるようにと、願わずにはいられない。
厳しい顔つきでじっと見つめるデローニの顔を、ルシオールはちらと見上げた。
「彼女を守るためだったんだ。仕方がないだろう」
「あなた様がなんのためにここに逃れたのかお忘れですか?」
これ以上不愉快なことはない、といった具合のデローニの顔を見て、ルシオールが頷く。
「わかってるよ。目立つ行動は控えろ、だろう?」
デローニはため息を吐いて首を振った。
「……仕方がありません、またどこかへ居を移しましょう。少々遠方になりますが、エクラム地方に王室が懇意にしているアッティム侯爵の城があったはずです」
「冗談言うな。私はここを離れるつもりはない」
ぴしゃりと言って、ルシオールが斜め下から彼を睨みつける。眉を吊り上げたデローニの喉仏が上下するのが目に入った。
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