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第11話 人を思う気持ちは止められない
④
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「ご自分のお立場をお忘れですか? あなたは最後の王家の血統なのです。もしもお亡くなりになるようなことがあったら、王国は混迷を極めます」
強い口調で言われて、胸がずきんと疼くようだった。自分が第一王位継承権者であることは、一日たりとも忘れたことなどない。しかし――
ゆっくりと瞬きをして下を向く。
「彼女と……離れたくない」
口にした言葉があまりに子供じみていたので、自分でも驚いて口元を覆った。しかし、これが紛れもない本心だ。
安全の確保のため、王宮から離宮に居を移す――そう言われた時、正直なところ夜も眠れないほど心が躍った。
大人になった彼女は、どんな姿をしているのだろう。
どんな声で笑い、どんな唇で私の名を呼ぶのだろう。
自分自身が大人に近づくにつれ、想像しては胸をときめかせる日々。時にはどうしようもないほど、身体を熱く滾らせもした。
だからこそ、離宮の庭園でやっと会えた時には、嬉しさのあまり足が震えた。
それなのに、彼女は震えながら、結婚が決まったのだと口にする。……何故だ? せっかくこうしてふたたび会えたのに――。
気がつけば、吸い寄せられるように彼女の唇に口づけをしていた。吸えばとろけてしまいそうな、天使のような唇――その感触を思い出すと、瞬時に身体が熱くなる。
そして、コリアード伯爵邸の猫の隠れ家で交わした、熱いキスを思い返せば――
身体の中心が痛いほど疼いて、思わず眉をしかめた。まぶたを閉じて、彼女の唇の感触と、遠慮がちな舌の動きを頭から締め出す。
「そこまでエレイナ様のことを……おいたわしい」
同情するような側近の言葉に、ルシオールはハッと目を見開いた。しかしすぐに頬が熱くなるのを感じて、髪を直すふりをしてごまかす。
「しかし殿下、伯爵以下の家柄の方とは――」
「わかってる」
最後まで言われたくなくて、ルシオールは口を挟んだ。
「私にもわかってはいるんだ。だからといって、人を思う気持ちは止められないだろう?」
「殿下……」
彼はまだ何か言いたそうにしていたが、逡巡の末、言葉をのみ込んだようだった。それでいい。デローニはやはり頭のいい男だ。
「デローニ、風呂の準備をしてくれ。それから、そのあとで熱い紅茶を。しばらくひとりでいたい」
「かしこまりました」
彼は深く腰を折って踵を返した。しかし、ふと何かを思い出しように足を止めて、こちらを振り返る。
「ときに殿下、本日は十八歳のお誕生日おめでとうございます。表だったことは何もできませんが、夕食を特別豪華にするよう、料理長に申しつけておきます」
「ありがとう」
では、とふたたび腰を折って、デローニは静かに部屋を出ていった。
強い口調で言われて、胸がずきんと疼くようだった。自分が第一王位継承権者であることは、一日たりとも忘れたことなどない。しかし――
ゆっくりと瞬きをして下を向く。
「彼女と……離れたくない」
口にした言葉があまりに子供じみていたので、自分でも驚いて口元を覆った。しかし、これが紛れもない本心だ。
安全の確保のため、王宮から離宮に居を移す――そう言われた時、正直なところ夜も眠れないほど心が躍った。
大人になった彼女は、どんな姿をしているのだろう。
どんな声で笑い、どんな唇で私の名を呼ぶのだろう。
自分自身が大人に近づくにつれ、想像しては胸をときめかせる日々。時にはどうしようもないほど、身体を熱く滾らせもした。
だからこそ、離宮の庭園でやっと会えた時には、嬉しさのあまり足が震えた。
それなのに、彼女は震えながら、結婚が決まったのだと口にする。……何故だ? せっかくこうしてふたたび会えたのに――。
気がつけば、吸い寄せられるように彼女の唇に口づけをしていた。吸えばとろけてしまいそうな、天使のような唇――その感触を思い出すと、瞬時に身体が熱くなる。
そして、コリアード伯爵邸の猫の隠れ家で交わした、熱いキスを思い返せば――
身体の中心が痛いほど疼いて、思わず眉をしかめた。まぶたを閉じて、彼女の唇の感触と、遠慮がちな舌の動きを頭から締め出す。
「そこまでエレイナ様のことを……おいたわしい」
同情するような側近の言葉に、ルシオールはハッと目を見開いた。しかしすぐに頬が熱くなるのを感じて、髪を直すふりをしてごまかす。
「しかし殿下、伯爵以下の家柄の方とは――」
「わかってる」
最後まで言われたくなくて、ルシオールは口を挟んだ。
「私にもわかってはいるんだ。だからといって、人を思う気持ちは止められないだろう?」
「殿下……」
彼はまだ何か言いたそうにしていたが、逡巡の末、言葉をのみ込んだようだった。それでいい。デローニはやはり頭のいい男だ。
「デローニ、風呂の準備をしてくれ。それから、そのあとで熱い紅茶を。しばらくひとりでいたい」
「かしこまりました」
彼は深く腰を折って踵を返した。しかし、ふと何かを思い出しように足を止めて、こちらを振り返る。
「ときに殿下、本日は十八歳のお誕生日おめでとうございます。表だったことは何もできませんが、夕食を特別豪華にするよう、料理長に申しつけておきます」
「ありがとう」
では、とふたたび腰を折って、デローニは静かに部屋を出ていった。
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