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第1話 突然もたらされた縁談
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「あのお話なら、とっくにお断りしたはずだわ。お父様にはもうだいぶ前に、生涯独身を貫いて伯爵位を継ぎますと言ってあるのに」
「そのことは覚えちゃいるが……まあ、もう一度考えてみたらどうだ。悪い相手じゃないのは、お前にもわかるだろう?」
伯爵はそう言って、ぐびりと食前酒をあおる。
「確かに彼はいい人そうだけれど、なんというかちょっと……趣味は仕掛け罠づくりだなんて、私、退屈してしまいそう」
「そういう地味な男がいいんだよ」
「でも、私より十五も年上だわ」
「三十を過ぎても頭はふさふさだし、腹も出てないんだぞ? おまけに父親のダエン侯爵は、もう棺桶に片脚を突っ込んでる。こんなに好条件の縁談などあるものか」
エレイナは反論しかけたが口をつぐんだ。父の言うことはもっともな気がしたし、条件の話を出されると、ぐうの音も出ない。
縁談の相手というのは、馬車で半日ほど離れた場所に城を持つ、ダエン侯爵家の長男スタンフィルだ。
ひと月ほど前、父親とともに城下町へ馬車で出掛けた際、街道で立ち往生している別の馬車に行きあった。どうやら轍にはまってしまったらしく、身なりのいい男性ふたりがキャビンを押している。しかしびくともしないので、父が馬車を降りて手伝ったのだ。
ほどなくして事態は解消されたが、戻ってきた父が相手方の男性ふたりを連れている。どういうわけか、エレイナに挨拶がしたいらしい。
エレイナは父の手を借りて馬車を降りた。先に挨拶をしてきたのが、父と同じくらいの年頃の年輩の男性だ。そしてもうひとりの、やたらとおどおどした小柄な男性が、縁談相手のスタンフィルだった。
侯爵家の息子は緊張のためか、全身をぶるぶる震わせてエレイナにお辞儀をした。顔を上げたものの、視線を合わせることすらできず、暑くもないのにだらだらと汗をかいている。おまけにしどろもどろで、まともに会話ができる状態ではない。ついには介添人と思われる先ほどの男性が、代わりに彼の紹介を始めたのだった。
そんなわけで、エレイナがスタンフィルと直接話したのは、ほんの二、三ことくらいだったろうか。彼の趣味や、家柄の良さ、どんな有力貴族と付き合いがあるかなどは、隣にいる介添人が説明をしてくれた。
その日の夕食後、部屋で読書でもしようとエレイナは席を立った。ふと視線を上げると、伯爵が顎の下で手を組んで、何やら探るような目つきで見ている。
「そのことは覚えちゃいるが……まあ、もう一度考えてみたらどうだ。悪い相手じゃないのは、お前にもわかるだろう?」
伯爵はそう言って、ぐびりと食前酒をあおる。
「確かに彼はいい人そうだけれど、なんというかちょっと……趣味は仕掛け罠づくりだなんて、私、退屈してしまいそう」
「そういう地味な男がいいんだよ」
「でも、私より十五も年上だわ」
「三十を過ぎても頭はふさふさだし、腹も出てないんだぞ? おまけに父親のダエン侯爵は、もう棺桶に片脚を突っ込んでる。こんなに好条件の縁談などあるものか」
エレイナは反論しかけたが口をつぐんだ。父の言うことはもっともな気がしたし、条件の話を出されると、ぐうの音も出ない。
縁談の相手というのは、馬車で半日ほど離れた場所に城を持つ、ダエン侯爵家の長男スタンフィルだ。
ひと月ほど前、父親とともに城下町へ馬車で出掛けた際、街道で立ち往生している別の馬車に行きあった。どうやら轍にはまってしまったらしく、身なりのいい男性ふたりがキャビンを押している。しかしびくともしないので、父が馬車を降りて手伝ったのだ。
ほどなくして事態は解消されたが、戻ってきた父が相手方の男性ふたりを連れている。どういうわけか、エレイナに挨拶がしたいらしい。
エレイナは父の手を借りて馬車を降りた。先に挨拶をしてきたのが、父と同じくらいの年頃の年輩の男性だ。そしてもうひとりの、やたらとおどおどした小柄な男性が、縁談相手のスタンフィルだった。
侯爵家の息子は緊張のためか、全身をぶるぶる震わせてエレイナにお辞儀をした。顔を上げたものの、視線を合わせることすらできず、暑くもないのにだらだらと汗をかいている。おまけにしどろもどろで、まともに会話ができる状態ではない。ついには介添人と思われる先ほどの男性が、代わりに彼の紹介を始めたのだった。
そんなわけで、エレイナがスタンフィルと直接話したのは、ほんの二、三ことくらいだったろうか。彼の趣味や、家柄の良さ、どんな有力貴族と付き合いがあるかなどは、隣にいる介添人が説明をしてくれた。
その日の夕食後、部屋で読書でもしようとエレイナは席を立った。ふと視線を上げると、伯爵が顎の下で手を組んで、何やら探るような目つきで見ている。
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