私が産まれる前に消えた父親が、隣国の皇帝陛下だなんて聞いてない

丙 あかり

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44.回復


 ゆっくりと目を開くと、視界に入ったのは見覚えのある天蓋。アリスは、皇宮にある自室のベッドに横たわっていた。

 (助けが来て・・・・・・それから、どうしたのかしら・・・・・・)

 思い出そうするものの、うまく頭が働かない。それに、全身が怠くて喉が渇く。
 とりあえず水を飲もうと、重い体を起こせば、ガチャンと何かが割れる音がした。
 音のした方を見ると、目を丸くしたシェリルが口元に手を当てて立っている。その足元にはトレイと、ガラスの破片が散らばっている

 (あの冷静なシェリルが珍しい・・・・・・)

 ぼんやりと思っていると、シェリルが今にも泣き出しそうに顔を歪め、抱きついてきた。

 「シェリル・・・・・・?」

 驚いて名前を呼ぶが、眠っていたせいでかすれて上手く声が出せない。
 意外と力強いシェリルの抱擁を受け入れていると、慌ただしい足音が近づいてきた。

 「シェリルさん、何かありましたか!?今、何か音がして・・・・・・」

 勢いよくドアを開けて入って来たのはナタリーだ。シェリルに抱き締められているアリスに気づき、すぐにベッドへ駆け寄る。

 「お目覚めになったのですね!」

 そう話す声音は嬉しそうで、大きな瞳からは涙が溢れそうだ。

 「わたし・・・・・・」

 もう一度声を出そうとするが、相変わらずのしゃがれ声だ。それに気づいたシェリルがようやく腕の力を緩めてくれた。

 「申し訳ありません。今、お水をお持ちします」

 そう言うとシェリルはすぐに部屋を出て行った。
 入れ違いにメイド達が入って来て手早く床のガラス片を片付ける。

 戻ってきたシェリルからグラスを手渡され、ゆっくりと水を飲むと、乾いていた喉が潤っていく。今度はうまく声を出せそうだ。

 「私はどのくらい眠っていたの」

 「丸二日です。なかなか熱が下がらず、お目覚めになられないので心配致しました・・・・・・」

 涙ぐんで話すシェリルの顔をよく見ると、目の下に隈があった。シェリルはアリスに付きっきりだったと、さっきナタリーが教えてくれた。寝る間も惜しんで看病してくれたのだろう。

 シェリルにはこれまで何度も看病をしてもらった。しかし、ここは慣れ親しんだハミルトン侯爵邸ではない。
 アリス以外に頼る者のいないシェリルにとって、今回の事は、どれほど心細かっただろう。

 「心配かけてごめんね、シェリル」

 今度はアリスから抱き締めた。

 「ナタリーも。ありがとう」

 二人の様子を微笑んで見守っていたナタリーにも礼を言う。

 「いえ、私は何も!看病されていたのはシェリル様です」

 思いがけない言葉だったのだろう。ナタリーは首を勢いよく振ったが、

 「そんな事ありません。お部屋の事や、訪れた方々の対応をすべてして下さったでしょう。だから私は看病に専念できました。ありがとうございます」

 シェリルもそう言って感謝を伝えると、ナタリーは目を丸くした後、頬を染めて微笑んだ。


******


 熱は目覚めた日のうちに下がり、翌日には普通に起き上がれるほどに回復をした。
 しかし、しばらくは安静にと言われ、アリスはさらに2日間ベッドの上で過ごすことになった。
 様子を見に訪れたサブリナに不服を言うと、

 「皇帝陛下のお申し付けですので」

 苦笑を浮かべながら告げられ、アリスは首を傾げる。

 「陛下が?」

 「はい。しっかり回復するよう、無理をさせるなと」

 そして、アリスが眠っている間に、侍従を通して何度か容態を確認していたと告げられる。

 「心配していらっしゃるのですよ」

 そう言われて、アリスは複雑な気持ちで下を向いた。



 ようやくベッドから解放された翌日、アリスは皇帝に呼び出された。
 アリスがさらわれた事件について、説明があるという。
 そういえば、目覚めてからこの日まで、アリスは誰からもその事について聞いていなかった。

 以前も招かれたガラス張りの小さな中庭へ通される。
 前回同様、大きな円卓があり、既に皇帝は着席していた。
 しかし、今回は皇帝一人ではなかった。隣の椅子にはクラウディアが座っていて、アリスに気づくと、優しく微笑みかける。
 さらに、フェリックスとギルバート、近衛騎士団長までいる。この三名は椅子に座らず、神妙な面持ちで皇帝とクラウディアの隣に立っていた。



 

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