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Missing you
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「それは……恐ろしいですね」
少女の顔が曇る。どうやら自分がどんな命知らずの事をしたのか理解出来たようだ。
「つまり私は、貴方の住居に銭を投げ込むところだったという事ですね。それはとても失礼な振舞いです。無知とはいえ、禄でもない事をしでかそうとして、申し訳ありませんでした」
「……は?」
「え?」
「何だお前。今の話を聞いたうえで、心配したのが人の家に物を投げつけることだってのか?」
「当たり前の事でしょう。銭とはいえ、物を投げつけられて気持ちのいい人なんていません。誇り高い日本国民はそんな扱いをうければたちどころに怒り狂うでしょう」
「日本……国民」
久しく聞いてない言葉に泰三は絶句した。いや、もしかしたら西洋の羽織を身に纏う少女の口から出てきた言葉だからこそかも知れない。
「お前……まさかだと思うが、日本は戦争に負けたのを知らないなんて事はないよ、な?」
「勿論知っています。大敗の中の大敗。主要軍勢は根こそぎ駆逐されて、頭の無くなった兵士たちは異国の地で戦う事も帰る事もできなくなった。それでも必死に国の為に抗って。その末に我が国は降伏してしまった」
「じゃあわかるだろう。もう日本国なんて大仰なものは存在しないんだ。土地こそそのままだが、既に異国が侵食してきている。もう大和魂も、尊ぶ文化も、すべては無くなってしまったんだよ」
柄にもなく口調を強めて少女を諭す。どちらかというと当てつけに近いかも知れない。
俺は戦争が憎かった。すべてを焼き尽くされ、俺たちみたいな子供が戦争の後片づけを任されて、当たり前のように貧困生活に陥っている。これはすべて戦争のせいだ。それにどうせ降伏するのなら、もっと早い段階で降伏していれば少しはマシだったはずだ。
戦争の経緯は調べればいくらでも聞くことが出来る。
曰く、誇り高き日本国民は要所を奪われ死に体になったとしても、命の限り戦うと誓った。
国内に銃弾の雨が吹き付けても、火の柱が上がっても、戦う意思がある限り負けはない。崇高で厳格。その意思のせいで俺たちは今、酷い環境で生きている。戦争に参加していない俺からすれば、日本国民の誇りなんぞ糞喰らえだと思っていた。そんな奴らが動かす日本国が無くなって、寧ろ清々しているくらいだ。
「でも……でも、私たちは日本人です」
「え……」
「国が無くなったからどうしたというのですか。例え連合軍の属国になろうとも、私たちはまだ生きて、この地で生きています。文化が無くなってしまっても、これから発展していく日本が別の物になったとしても。日本人は消えません。日本人が生きている限り、私たちの中に眠る大和魂は決して消え去る事がないのです。なれば……なれば、私たちの日本国は決して消えません」
凛とした表情で少女は躊躇いもなく言い切った。信じたものにどこまでも愚直で、すべてを奪われた今でも自分の誇りは折れていない。少女らしい、小さな見た目をした彼女に、俺は不思議と気圧されていた。
「……名前は」
「はい?」
「名前だよ。お前、なんていうんだ?」
「咲季。綾小路咲季、桜の花が咲く季節に生まれたので、そう名付けられました……あなたは?」
「杉本泰三。由来は知らん」
「そうですか。杉本さん。よろしくお願います」
「名字は好かん、名前で呼べ」
杉本という名を聞く度に両親の顔が思い出して気分が悪くなる。
「名前……ですか? では……泰三、さん」
「お、おう……」
顔を赤らめておずおずと言った咲季にドキッとしてしまい、返事が裏返ってしまった。
少女の顔が曇る。どうやら自分がどんな命知らずの事をしたのか理解出来たようだ。
「つまり私は、貴方の住居に銭を投げ込むところだったという事ですね。それはとても失礼な振舞いです。無知とはいえ、禄でもない事をしでかそうとして、申し訳ありませんでした」
「……は?」
「え?」
「何だお前。今の話を聞いたうえで、心配したのが人の家に物を投げつけることだってのか?」
「当たり前の事でしょう。銭とはいえ、物を投げつけられて気持ちのいい人なんていません。誇り高い日本国民はそんな扱いをうければたちどころに怒り狂うでしょう」
「日本……国民」
久しく聞いてない言葉に泰三は絶句した。いや、もしかしたら西洋の羽織を身に纏う少女の口から出てきた言葉だからこそかも知れない。
「お前……まさかだと思うが、日本は戦争に負けたのを知らないなんて事はないよ、な?」
「勿論知っています。大敗の中の大敗。主要軍勢は根こそぎ駆逐されて、頭の無くなった兵士たちは異国の地で戦う事も帰る事もできなくなった。それでも必死に国の為に抗って。その末に我が国は降伏してしまった」
「じゃあわかるだろう。もう日本国なんて大仰なものは存在しないんだ。土地こそそのままだが、既に異国が侵食してきている。もう大和魂も、尊ぶ文化も、すべては無くなってしまったんだよ」
柄にもなく口調を強めて少女を諭す。どちらかというと当てつけに近いかも知れない。
俺は戦争が憎かった。すべてを焼き尽くされ、俺たちみたいな子供が戦争の後片づけを任されて、当たり前のように貧困生活に陥っている。これはすべて戦争のせいだ。それにどうせ降伏するのなら、もっと早い段階で降伏していれば少しはマシだったはずだ。
戦争の経緯は調べればいくらでも聞くことが出来る。
曰く、誇り高き日本国民は要所を奪われ死に体になったとしても、命の限り戦うと誓った。
国内に銃弾の雨が吹き付けても、火の柱が上がっても、戦う意思がある限り負けはない。崇高で厳格。その意思のせいで俺たちは今、酷い環境で生きている。戦争に参加していない俺からすれば、日本国民の誇りなんぞ糞喰らえだと思っていた。そんな奴らが動かす日本国が無くなって、寧ろ清々しているくらいだ。
「でも……でも、私たちは日本人です」
「え……」
「国が無くなったからどうしたというのですか。例え連合軍の属国になろうとも、私たちはまだ生きて、この地で生きています。文化が無くなってしまっても、これから発展していく日本が別の物になったとしても。日本人は消えません。日本人が生きている限り、私たちの中に眠る大和魂は決して消え去る事がないのです。なれば……なれば、私たちの日本国は決して消えません」
凛とした表情で少女は躊躇いもなく言い切った。信じたものにどこまでも愚直で、すべてを奪われた今でも自分の誇りは折れていない。少女らしい、小さな見た目をした彼女に、俺は不思議と気圧されていた。
「……名前は」
「はい?」
「名前だよ。お前、なんていうんだ?」
「咲季。綾小路咲季、桜の花が咲く季節に生まれたので、そう名付けられました……あなたは?」
「杉本泰三。由来は知らん」
「そうですか。杉本さん。よろしくお願います」
「名字は好かん、名前で呼べ」
杉本という名を聞く度に両親の顔が思い出して気分が悪くなる。
「名前……ですか? では……泰三、さん」
「お、おう……」
顔を赤らめておずおずと言った咲季にドキッとしてしまい、返事が裏返ってしまった。
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