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第3章 強くなるために
卒業
しおりを挟むーー次の日。
俺の体調は万全だった。
夕飯をたらふく食って、風呂にも入らず寝たら、もう元気いっぱい。
……栄養と休養って大事だな。
窓から外を見ると朝から日が差している。
雲は厚いけど、その切れ間から光の線が綺麗に降り注いでいた。
あれは“天使の梯子”って言うらしい。
今日はイディアが押しかけてこなかったから、
ディーと一緒にギルドに向かっている。
アレクは「寒いからいい」って言って、
元の姿で布団にくるまってた。
……寒いのダメな魔物なのかな?
じゃあなんでノルデンの森にいたんだって話だけど、そこはアレク。
きっと「なんとなく」とか言うんだろうな。
ギルドの扉をくぐると沢山の人がいた。
冬場は依頼が少なくなる分、ここが冒険者のたまり場にる。酒場も併設してるし、暖かい飯と旨い酒もある。
俺達もそうだけど"とりあえずギルドに来る"ってのが冒険者なのだ。
いつもの流れで依頼板を見るも俺が受けられそうなのはない。去年も冬もこんな感じだった。立派な冒険者も冬場は常に足場が悪いからいつもの討伐対象でも二の足を踏む。
危険な道は渡らない、これ鉄則。
「エル!」
イディアが俺を呼ぶ声が聞こえた。
声の方を振り返ると、イディアとその仲間たち。
「もう大丈夫なのか?」
「ああ!飯いっぱい食っていっぱい寝たら元気になった!」
「あはは、良かったぁ。俺が風邪ひかせたようなもんだったからさぁって、あ、何か受けるのあった?」
俺が依頼板の前にいたから"もしかしたら何か依頼を受けるのかも"と思ったようだ。
「俺が受けられそうなのがなくて」
「だよなぁ。冬場って全体的に依頼の難易度が上がるよなぁ」
ひとしきり雑談したあと「訓練でも行くか」とイディアが言うのでいつもの訓練の開始だ。
昨日と同じく地面がぬかるんでいて、踏ん張りが利かない。それでも、回数を重ねるうちに少しづつ力の入れ方が分かってきた。
それから毎日のように訓練をしてもらった。
たまに熱を出すこともあったけど、当初に比べてずっこける事が格段に減った。その分イディアの攻撃を避けることも増えた。重要なのは力の入れる方向、重心の置き方。これは教えてもらうんじゃなくて、何回も何回も転けて滑って、自分で学んだ。……それに、こういう事は教えてくれないしね。
雪が沢山降ると訓練は中止。ギルドに行くことも無い日さえある。それほど、雪は厄介だ。日常生活が儘ならなくなる時もある。
雪が沢山降ったあとの晴れた日には、ギルドに雪かき依頼が出される。俺はディーに言われて率先して受けるのだ。結構体力使うし、人のためになるのって、「ありがとう」って直接言われるのは気持ちがいい。
薬草採取で定量分採取した時、魔物や魔獣を倒した時、街の依頼で「ありがとう」って言われた時。それぞれに別の達成感がある。冒険者って、時には命を落としかねない危険な仕事だけど、その分やりがいも達成感もある。
ノルデンでは3ヶ月間、雪が降る。その期間が終われば、森から春の風が吹き、雪解けで川の水が増え、生き物が芽吹く。森の変化は早い。
「だいぶ動けるようになったじゃん」
「はぁ、でも、まだまだ」
森の風は春の匂いを運ぶようになっても雪が降る時はある。季節の境目なんて季節が行ったり来たりするのが恒例だ。
「いやいや、見習いですごいと思うよ?」
そう言ってイディアは剣をしまう。
それは"終わり"の合図。
「はぁ、はぁ」
俺も息を切らしながらも、剣をしまって「ありがとうございました」と礼を言う。
「ディーさん、そろそろいいんじゃない?」
「ああ」
「?」
ん?何のやり取りしてるのかが分からなかった。
「さて、ディーさんの許可も貰ったとこだし」
「うん?」
「エルくんの訓練は今日にて終了でーす!」
「……え?」
突然の宣言に頭が追いつかなかった。
……今日で終わり?なんで?だって俺まだ全然イディアには敵わないよ?
「いや、そもそも俺から1本とったら勝ちとかじゃないから」
ぽかーんと反応出来ないでいる俺にイディアは言った。
あれ?じゃあなんだ?何をしたから終了になったの?
「いや、そもそもディーさんからの依頼は"剣を持った状態でも充分に動けるようになること"だからな?」
「え?」
何それ、そうだったの?全然知らなかった。
「たくさん熱も出したから風邪への耐性も付いただろうし?」
「そんなことあるの!?」
「とりあえずエルの訓練卒業を祝して飯行きましょう!」
と、今度はディーにお伺いを立てるイディア。……きっとディーのお金でたらふく食べるつもりなんだろう。
「あれ?じゃあ俺はイディアが認めるくらいには動けるようになったって事?」
「そーだね。最近俺の攻撃もひょいひょい避けるじゃん。そろそろ終わりかなーとは思ってたんだよね」
「まじか!」
「まじまじ大マジ。むしろそこら辺の底辺冒険者の何倍も動けるよ」
「ま・じ・で!?」
「だからまじだって。それより飯行きましょディーさん!」
はぁ、とため息を吐いて歩き始めるディー。それを追う俺とイディア。アレクは宿でお留守番。
イディアが認めるくらいに動けるようになった。それがどれだけ凄いことか、胸の奥で噛み締める。
だってイディアはディーより上のBランクだよ?何故かディーには下手に出てるけど。Bランク冒険者に認められたってすごくない?いや絶対すごいって!
俺はニヤニヤと緩む頬を隠さずに歩いた。
まだ雪の降る日はあるけれど、それでも確実に春の匂いがした。
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⭐︎⭐︎⭐︎
ご拝読頂きありがとうございます!
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「もう我慢なんてしません!家族からうとまれていた俺は、家を出て冒険者になります!」書籍発売中!
連載続いておりますので、そちらもぜひ♡
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