93 / 100
6、決別と本物の愛
14
しおりを挟む
それから一ヶ月ほど経ったある日、アンジェリカとクラウスは、二人で出かけていた。
結婚式を挙げる教会に、最後の下見に来ていたのだ。
ステンドグラスが美しい、純白の厳かな建物を前に、アンジェリカは挙式への気持ちを高めた。
ウェディングドレスが出来上がり、参列者の招待も済み、いよいよ数日後に挙式が迫っていた。
しかし……アンジェリカとクラウスの距離は、未だ縮まっていなかった。
教会の下見が終わった二人は、前に停まっていた馬車に乗り込む。
その時、先に乗ったクラウスがアンジェリカに手を差し出すが――。
「だ、大丈夫よ、一人で乗れるわ」
そう言ってアンジェリカは目を逸らすと、ささっと一人で馬車の座席に乗ってしまう。
クラウスは、アンジェリカに取ってもらえなかった手を眺め、ガクリと肩を落とした。
「……そうですか」
小さく呟いて、アンジェリカの隣に腰を下ろすクラウス。
すると、アンジェリカが窓の方へ身体を寄せる。
まるでクラウスを避けるかのような動きに、彼はショックを受け、ますますしゅんとした。
以前、ミレイユがブリオット家に来て以来、アンジェリカはずっとこんな感じだ。
クラウスの中では、その時、ずいぶんアンジェリカとの距離が縮まった気がしたのだが。
話しかけると目を逸らされてしまい、手を繋ごうとするとかわされる、近くに座ろうものなら今のように離れてしまうし、クラウスはもう、どうすればいいかわからなかった。
この状況が、挙式が近づくごとに悪化している気がしたクラウスは、僕と結婚したくないのだろうかと、毎日悲しみに暮れていた。
しかし、実際はそうではない。
アンジェリカは隣に座る、クラウスの寂しげな横顔を盗み見た。
――はぁ……クラウス……今日も素敵だわ……。
アンジェリカが心の中でそんなことを言っていようとは、クラウスには見当もつかない。
アンジェリカはついに、クラウスへの想いを自覚したのだ。
そして気づいた途端、変に意識してしまい、今まで普通にできていたことが、できなくなってしまった。
そっけない態度を取るのは、単に恥ずかしいだけで、決してクラウスのことが嫌いになったわけではない。
むしろ、とても進展している証拠だった。
――私、やっぱりクラウスのことが……。
馬車に揺られながら、アンジェリカは思う。
この胸のトキメキも、クラウスだけが眩しく見えるのも、触れられると身体が熱くなるのも……もはや、恋、としか言いようがなかった。
ようやく自覚したなら、その気持ちをクラウスに伝えた方がいいと、アンジェリカも思っている。
だが、十歳の乙女のような清純な彼女は、初恋をどのように扱っていいかわからなかった。
どんな時に、どんな顔で、どんなふうに言えばいいのか、思い悩んだ。
なんでもない時に言っても……なにかきっかけがあれば……挙式の後はどうだろう……。
アンジェリカがいろんなことを考えている間にも、馬車は進んでゆく。
そして建物や店が並ぶ、繁華街に差し掛かった時だった。
その『きっかけ』――いや、引き金がやってきたのは。
――ガタッ!
突如、馬車が音を立てて急停車した。
その勢いでバランスを崩したアンジェリカを、クラウスがすかさず支える。
瞬間、クラウスの胸に収まるようになったアンジェリカは、胸がドキンと高鳴った。
結婚式を挙げる教会に、最後の下見に来ていたのだ。
ステンドグラスが美しい、純白の厳かな建物を前に、アンジェリカは挙式への気持ちを高めた。
ウェディングドレスが出来上がり、参列者の招待も済み、いよいよ数日後に挙式が迫っていた。
しかし……アンジェリカとクラウスの距離は、未だ縮まっていなかった。
教会の下見が終わった二人は、前に停まっていた馬車に乗り込む。
その時、先に乗ったクラウスがアンジェリカに手を差し出すが――。
「だ、大丈夫よ、一人で乗れるわ」
そう言ってアンジェリカは目を逸らすと、ささっと一人で馬車の座席に乗ってしまう。
クラウスは、アンジェリカに取ってもらえなかった手を眺め、ガクリと肩を落とした。
「……そうですか」
小さく呟いて、アンジェリカの隣に腰を下ろすクラウス。
すると、アンジェリカが窓の方へ身体を寄せる。
まるでクラウスを避けるかのような動きに、彼はショックを受け、ますますしゅんとした。
以前、ミレイユがブリオット家に来て以来、アンジェリカはずっとこんな感じだ。
クラウスの中では、その時、ずいぶんアンジェリカとの距離が縮まった気がしたのだが。
話しかけると目を逸らされてしまい、手を繋ごうとするとかわされる、近くに座ろうものなら今のように離れてしまうし、クラウスはもう、どうすればいいかわからなかった。
この状況が、挙式が近づくごとに悪化している気がしたクラウスは、僕と結婚したくないのだろうかと、毎日悲しみに暮れていた。
しかし、実際はそうではない。
アンジェリカは隣に座る、クラウスの寂しげな横顔を盗み見た。
――はぁ……クラウス……今日も素敵だわ……。
アンジェリカが心の中でそんなことを言っていようとは、クラウスには見当もつかない。
アンジェリカはついに、クラウスへの想いを自覚したのだ。
そして気づいた途端、変に意識してしまい、今まで普通にできていたことが、できなくなってしまった。
そっけない態度を取るのは、単に恥ずかしいだけで、決してクラウスのことが嫌いになったわけではない。
むしろ、とても進展している証拠だった。
――私、やっぱりクラウスのことが……。
馬車に揺られながら、アンジェリカは思う。
この胸のトキメキも、クラウスだけが眩しく見えるのも、触れられると身体が熱くなるのも……もはや、恋、としか言いようがなかった。
ようやく自覚したなら、その気持ちをクラウスに伝えた方がいいと、アンジェリカも思っている。
だが、十歳の乙女のような清純な彼女は、初恋をどのように扱っていいかわからなかった。
どんな時に、どんな顔で、どんなふうに言えばいいのか、思い悩んだ。
なんでもない時に言っても……なにかきっかけがあれば……挙式の後はどうだろう……。
アンジェリカがいろんなことを考えている間にも、馬車は進んでゆく。
そして建物や店が並ぶ、繁華街に差し掛かった時だった。
その『きっかけ』――いや、引き金がやってきたのは。
――ガタッ!
突如、馬車が音を立てて急停車した。
その勢いでバランスを崩したアンジェリカを、クラウスがすかさず支える。
瞬間、クラウスの胸に収まるようになったアンジェリカは、胸がドキンと高鳴った。
51
あなたにおすすめの小説
身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁
結城芙由奈@コミカライズ3巻7/30発売
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】
妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。
次期国王様の寵愛を受けるいじめられっこの私と没落していくいじめっこの貴族令嬢
さくら
恋愛
名門公爵家の娘・レティシアは、幼い頃から“地味で鈍くさい”と同級生たちに嘲られ、社交界では笑い者にされてきた。中でも、侯爵令嬢セリーヌによる陰湿ないじめは日常茶飯事。誰も彼女を助けず、婚約の話も破談となり、レティシアは「無能な令嬢」として居場所を失っていく。
しかし、そんな彼女に運命の転機が訪れた。
王立学園での舞踏会の夜、次期国王アレクシス殿下が突然、レティシアの手を取り――「君が、私の隣にふさわしい」と告げたのだ。
戸惑う彼女をよそに、殿下は一途な想いを示し続け、やがてレティシアは“王妃教育”を受けながら、自らの力で未来を切り開いていく。いじめられっこだった少女は、人々の声に耳を傾け、改革を導く“知恵ある王妃”へと成長していくのだった。
一方、他人を見下し続けてきたセリーヌは、過去の行いが明るみに出て家の地位を失い、婚約者にも見放されて没落していく――。
不憫な侯爵令嬢は、王子様に溺愛される。
猫宮乾
恋愛
再婚した父の元、継母に幽閉じみた生活を強いられていたマリーローズ(私)は、父が没した事を契機に、結婚して出ていくように迫られる。皆よりも遅く夜会デビューし、結婚相手を探していると、第一王子のフェンネル殿下が政略結婚の話を持ちかけてくる。他に行く場所もない上、自分の未来を切り開くべく、同意したマリーローズは、その後後宮入りし、正妃になるまでは婚約者として過ごす事に。その内に、フェンネルの優しさに触れ、溺愛され、幸せを見つけていく。※pixivにも掲載しております(あちらで完結済み)。
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
キズモノ転生令嬢は趣味を活かして幸せともふもふを手に入れる
藤 ゆみ子
恋愛
セレーナ・カーソンは前世、心臓が弱く手術と入退院を繰り返していた。
将来は好きな人と結婚して幸せな家庭を築きたい。そんな夢を持っていたが、胸元に大きな手術痕のある自分には無理だと諦めていた。
入院中、暇潰しのために始めた刺繍が唯一の楽しみだったが、その後十八歳で亡くなってしまう。
セレーナが八歳で前世の記憶を思い出したのは、前世と同じように胸元に大きな傷ができたときだった。
家族から虐げられ、キズモノになり、全てを諦めかけていたが、十八歳を過ぎた時家を出ることを決意する。
得意な裁縫を活かし、仕事をみつけるが、そこは秘密を抱えたもふもふたちの住みかだった。
赤貧令嬢の借金返済契約
夏菜しの
恋愛
大病を患った父の治療費がかさみ膨れ上がる借金。
いよいよ返す見込みが無くなった頃。父より爵位と領地を返還すれば借金は国が肩代わりしてくれると聞かされる。
クリスタは病床の父に代わり爵位を返還する為に一人で王都へ向かった。
王宮の中で会ったのは見た目は良いけど傍若無人な大貴族シリル。
彼は令嬢の過激なアプローチに困っていると言い、クリスタに婚約者のフリをしてくれるように依頼してきた。
それを条件に父の医療費に加えて、借金を肩代わりしてくれると言われてクリスタはその契約を承諾する。
赤貧令嬢クリスタと大貴族シリルのお話です。
ワンチャンあるかな、って転生先で推しにアタックしてるのがこちらの令嬢です
山口三
恋愛
恋愛ゲームの世界に転生した主人公。中世異世界のアカデミーを中心に繰り広げられるゲームだが、大好きな推しを目の前にして、ついつい欲が出てしまう。「私が転生したキャラは主人公じゃなくて、たたのモブ悪役。どうせ攻略対象の相手にはフラれて婚約破棄されるんだから・・・」
ひょんな事からクラスメイトのアロイスと協力して、主人公は推し様と、アロイスはゲームの主人公である聖女様との相思相愛を目指すが・・・。
【完結】瑠璃色の薬草師
シマセイ
恋愛
瑠璃色の瞳を持つ公爵夫人アリアドネは、信じていた夫と親友の裏切りによって全てを奪われ、雨の夜に屋敷を追放される。
絶望の淵で彼女が見出したのは、忘れかけていた薬草への深い知識と、薬師としての秘めたる才能だった。
持ち前の気丈さと聡明さで困難を乗り越え、新たな街で薬草師として人々の信頼を得ていくアリアドネ。
しかし、胸に刻まれた裏切りの傷と復讐の誓いは消えない。
これは、偽りの愛に裁きを下し、真実の幸福と自らの手で築き上げる未来を掴むため、一人の女性が力強く再生していく物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる