眠りの巫女と野良狐

碧野葉菜

文字の大きさ
57 / 175
眠りは世界を救う、のでしょうか?

14

しおりを挟む
 ぎゅっと瞼を閉じて駆け抜ける影雪に運ばれる中、ウー、とサイレンのような警報音が鳴るのを聞いた。

 影雪が瓦の屋根を蹴り、地に舞い降りる。
 風がやむと同時に、その場に下ろされた夢穂はようやく目を開けた。
 夢穂が座り込んだのは、真っ白な砂の上。
 そして顔を上げた先に見たものに、息を止めた。

 青い波が襲いくる。
 生き物のように形を変え、すべてをのみ込もうと上空から夢穂たちを見下す。
 恐怖を恐怖と認識する暇もないまま、夢穂は茫然と覆い被さろうとする水流を眺めた。
 
 ――ひらり。
 夢穂の頬を冷たい何かがかすめる。
 気づけば周りには何もない。
 津波の音も、砂浜さえ消え失せた、黒一色の世界。
 白く輝く雪の結晶が、はらりはらり、花弁のように舞い落ちる。
 それを背景に、影雪は姿勢を低くした。
 研ぎ澄まされた眼差しで標的を定め、刀の柄を握り、力を込めた。
 それは刹那。
 瞬きをすれば見逃してしまうほど、一瞬の出来事だった。
 影雪が氷天丸を抜き、鋭く横に振り切った。
 すると色を取り戻した世界で、夢穂の視界を覆っていた青い化け物が凍りつく。
 影雪の波を切るかのように奮われた刃から放たれた妖力が、町を壊滅させる規模の波を堰き止めたのだ。
 
 夢穂は腰を抜かしたようにその場にへたり込んだまま、影雪から目が離せなかった。
 いつもの穏やかな雰囲気とは一転、まるで別人のような影雪に、心を奪われ驚きを隠せなかった。

 影雪は立ち上がると、黒く光る刃を鞘に収め夢穂を見た。
 夢穂の心臓がドキッと跳ねる。
 影雪なのに、あやかしなのに、箸もろくに使えないくせに。
 そう脳内で抵抗してみても、かっこいいものはかっこいい。

「え、影雪ってやっぱり、すごいあやかしなんじゃない」

 目を合わせられずにぼそぼそと言う夢穂に、影雪は手を差し伸べた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

後宮なりきり夫婦録

石田空
キャラ文芸
「月鈴、ちょっと嫁に来るか?」 「はあ……?」 雲仙国では、皇帝が三代続いて謎の昏睡状態に陥る事態が続いていた。 あまりにも不可解なために、新しい皇帝を立てる訳にもいかない国は、急遽皇帝の「影武者」として跡継ぎ騒動を防ぐために寺院に入れられていた皇子の空燕を呼び戻すことに決める。 空燕の国の声に応える条件は、同じく寺院で方士修行をしていた方士の月鈴を妃として後宮に入れること。 かくしてふたりは片や皇帝の影武者として、片や皇帝の偽りの愛妃として、後宮と言う名の魔窟に潜入捜査をすることとなった。 影武者夫婦は、後宮内で起こる事件の謎を解けるのか。そしてふたりの想いの行方はいったい。 サイトより転載になります。

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました

雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。 気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。 剣も魔法も使えないユウにできるのは、 子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。 ……のはずが、なぜか料理や家事といった 日常のことだけが、やたらとうまくいく。 無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。 個性豊かな子供たちに囲まれて、 ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。 やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、 孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。 戦わない、争わない。 ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。 ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、 やさしい異世界孤児院ファンタジー。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

『後宮薬師は名を持たない』

由香
キャラ文芸
後宮で怪異を診る薬師・玉玲は、母が禁薬により処刑された過去を持つ。 帝と皇子に迫る“鬼”の気配、母の遺した禁薬、鬼神の青年・玄曜との出会い。 救いと犠牲の狭間で、玉玲は母が選ばなかった選択を重ねていく。 後宮が燃え、名を失ってもなお―― 彼女は薬師として、人として、生きる道を選ぶ。

あまりさんののっぴきならない事情

菱沼あゆ
キャラ文芸
 強引に見合い結婚させられそうになって家出し、憧れのカフェでバイトを始めた、あまり。  充実した日々を送っていた彼女の前に、驚くような美形の客、犬塚海里《いぬづか かいり》が現れた。 「何故、こんなところに居る? 南条あまり」 「……嫌な人と結婚させられそうになって、家を出たからです」 「それ、俺だろ」  そーですね……。  カフェ店員となったお嬢様、あまりと常連客となった元見合い相手、海里の日常。

処理中です...