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眠りの巫女の運命は?
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立ち尽くす夢穂を前に、美菜は続ける。
「奥さんもあまりに眠れないから睡眠薬を飲んだらしいけど、効かなかったって……なんか最近おかしくない? 普段超寝つきのいいこの美菜ちゃんでさえ寝不足なんだよねー、恋煩いでもないのにさぁ」
冗談を交えながら、美菜は一つため息をつきリンゴの皮を剥こうとした。
すると手元が狂ったのか「痛たた」と言ってナイフを落とした。
「大丈夫か、美菜」
「うーん、最近よくやるんだよね、睡眠不足だと集中できなくて、試作する度傷が増えちゃってさ」
美菜の柔らかなそうな手には、たくさんの絆創膏がついていた。
業華は何も言わず、夢穂の隣に立っていた。
「私も怪我自体は大したことはないんだけど、免疫力が落ちてるってことで少し入院することになった。そういえば、陸上仲間も何人か怪我したって聞いたな、階段から落ちたとか、自転車で転んだとか……だから大会の棄権者数も、全国的に多くて」
沙子と美菜の会話が進むほど、夢穂の足は言うことを利かなくなってくる。
まるで自分の身体ではないかのように、力が入らず、体温調節もうまくいかない。
茫然とする夢穂に気づいた美菜が、立ち上がって側に来た。
「おーい」と呼ばれながら顔の前で手のひらを振られ、夢穂はようやく美菜を見た。
「どうしちゃったの、ぼーっとして?」
「あ、う、うん、ごめん」
「いくら眠りの巫女だからって、夢穂のせいでみんなの睡眠時間が左右されるわけじゃないんだから、そんな暗い顔しないでよ、ねっ?」
笑いながら肩を叩いてくる、美菜の手が痛い。
みんなが遠く、ぼやけて見えた。
くぐもって、夢穂だけ、小さな箱の中に置いてけぼりにされたような。
息苦しくて、声を出すこともできなかった。
「奥さんもあまりに眠れないから睡眠薬を飲んだらしいけど、効かなかったって……なんか最近おかしくない? 普段超寝つきのいいこの美菜ちゃんでさえ寝不足なんだよねー、恋煩いでもないのにさぁ」
冗談を交えながら、美菜は一つため息をつきリンゴの皮を剥こうとした。
すると手元が狂ったのか「痛たた」と言ってナイフを落とした。
「大丈夫か、美菜」
「うーん、最近よくやるんだよね、睡眠不足だと集中できなくて、試作する度傷が増えちゃってさ」
美菜の柔らかなそうな手には、たくさんの絆創膏がついていた。
業華は何も言わず、夢穂の隣に立っていた。
「私も怪我自体は大したことはないんだけど、免疫力が落ちてるってことで少し入院することになった。そういえば、陸上仲間も何人か怪我したって聞いたな、階段から落ちたとか、自転車で転んだとか……だから大会の棄権者数も、全国的に多くて」
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まるで自分の身体ではないかのように、力が入らず、体温調節もうまくいかない。
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「おーい」と呼ばれながら顔の前で手のひらを振られ、夢穂はようやく美菜を見た。
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「あ、う、うん、ごめん」
「いくら眠りの巫女だからって、夢穂のせいでみんなの睡眠時間が左右されるわけじゃないんだから、そんな暗い顔しないでよ、ねっ?」
笑いながら肩を叩いてくる、美菜の手が痛い。
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息苦しくて、声を出すこともできなかった。
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